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ウィーバー症候群
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ウィーバー症候群の概要

ウィーバー症候群は、胎児期からの過成長や特徴的な顔つき、発達の遅れなどを特徴とする非常にまれな遺伝性疾患です。多くの場合、原因は EZH2 という遺伝子の変異によるもので、骨や筋肉、神経の発達に影響します。出生時から体が大きく、骨の成熟も早いことが多く、知的障害や行動の特性がみられることもあります。現在のところ根本的な治療法はなく、症状ごとの支援が中心となります。重篤な合併症としては心疾患やてんかんが知られ、定期的な医療的フォローアップが重要です。

ウィーバー症候群の原因

ウィーバー症候群は生まれつき体の成長が早く進む疾患で、非常にまれな疾患です。その主な原因は EZH2 という遺伝子の変異であることが分かっています (参考文献 1) 。この遺伝子は、細胞がどのように分裂し、どのように機能するかを調整する働きを担っており、特に発達中の胎児や新生児の骨や筋肉、神経などの成長に関与しています。

EZH2 に変異があると、体の成長スピードが制御できなくなり、出生前から過成長が始まります。多くの場合、家族に同じ疾患の人がいない「孤発例」として現れますが、一部では常染色体優性遺伝という形で親から子に遺伝することがあります。この遺伝形質では片方の親が変異遺伝子を持っている場合、子どもに50%の確率で遺伝します。

ウィーバー症候群の前兆や初期症状

生まれてくる前の赤ちゃんの検査で「通常よりも大きいぞ」と気づかれることがあるほか、出生時の体重や身長、頭囲が平均を大きく上回ることが多く、その後も成長曲線の上限を超えるペースで体が大きくなっていきます (参考文献 1, 2) 。

顔の特徴としては、広い額、大きな頭、目が離れている、耳が大きくて低い位置にある、顎が小さいなどがあります (参考文献 2) 。その他の特徴としては、泣き声が低い、肘膝がまっすぐ伸びない、指をまっすぐ伸ばせない、内反足といったものがあります (参考文献 2) 。

精神や発達の遅れという症状も知られていて、診断基準の一つになっています (参考文献 1) 。

ウィーバー症候群は世界中でも数十人しか確認されていません。この病気をはじめから疑って受診することはないかと思いますが、幼いころの様々な病気の早期発見のためにも、定期健診は必ず受診してください。

ウィーバー症候群の検査・診断

確定診断のためには原因遺伝子である EZH2 の変異を確かめます (参考文献 1) 。変異を認めない場合もあり、その場合は臨床症状で診断をつけます。①過成長②骨年齢の進行③特徴的な顔貌④精神発達遅滞の4つの症状全てがあれば臨床的にウィーバー症候群と診断します (参考文献 1) 。

出生前の評価はお母さんのお腹に超音波をあてるエコー検査で行います。胎児の成長状態は胎児の頭の大きさ、お腹の大きさ、大腿骨の長さから計算されます。胎児のときから成長が早いとこれらの計測値に異常がみられます。
骨年齢の評価は主に手の骨のX線画像評価によって行われます。手首の骨 (手根骨) は幼い時には完全に骨化しておらず、小学校高学年くらいにかけて8子の骨が完成します。そのほかに手の指の骨の成長をみて骨年齢を評価するのですが、ウィーバー症候群の患者では一般集団に比べて骨の成長が早いために、骨年齢が想定される範囲の値からずれるわけです。
そのほかにも関節症状や脊柱の側弯などといった整形外科的症状の評価のためには画像検査が有効です。

特に特別な検査は必要としませんが、症状の察知と臨床症状の評価には、妊娠中の定期検査のほか、新生児〜乳児期の定期健診が重要です。一般的な成長スピードからどれだけずれているのかという評価は成長曲線というもので行います。成長曲線は身長・体重を健康な同年代の子たちと比べるものです。乳児期に注意が必要な他の疾患の拾い上げにもつながるので、予定されている定期健診は必ず受診してください。

ウィーバー症候群の治療

現時点で、ウィーバー症候群の根本的な治療法はなく、対症療法がメインになります。関節症状や側弯症に対しては整形外科的な治療やリハビリテーションを行います。
発達上の問題に対しては理学・作業・行動療法を行うほか、病院外での問題に対しては福祉制度を用いながら、様々なサポートを受けることが想定されます。

ウィーバー症候群の重たい合併症に心疾患と難治性のてんかんがあり、これらの治療が生命予後に影響します (参考文献 1) 。必要に応じて手術や薬物療法を行い、定期的にフォローアップして経過観察します。

ウィーバー症候群になりやすい人・予防の方法

ウィーバー症候群のほとんどは、家族歴がない「突然変異」による孤発例であり、この場合予防法はありません。

ただし、すでにウィーバー症候群の子どもがいる家族や、同様の症状を持つ子どもを以前に授かったことのあるご家庭では、次の妊娠に際して遺伝カウンセリングを受けることが選択肢にあがります。心配なことがあれば遺伝カウンセリングの後に遺伝子検査を受けることもできますが、自分がウィーバー症候群の保因者であった場合に、子供をもうける選択をするのか否か、ここは関係者との綿密な議論の後に答えをだしていくことになるでしょう。

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