監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
臍帯巻絡の概要
臍帯巻絡(さいたいけんらく)とは、妊娠中の女性の体内において胎児の体や首に臍帯(へその緒)が巻きついてしまう現象です。
臍帯は、胎児と母体をつないでいる、ホースのように細長い器官です。胎児の成長に欠かせない酸素や栄養を供給する重要な役割を担い、その長さは約50cm、直径は2cmほどです。
臍帯は引っ張り、ねじれなどに強い構造をしていて、羊水中を胎児とともに浮遊しています。胎児が子宮内で動くようになると、浮遊している臍帯が胎児の体や首に巻きつくことがあります。
ほとんどの場合、臍帯巻絡が生じていても胎児や分娩への影響はそれほど大きくないと考えらています。たとえば、臍帯が巻きついていない場合と1周だけ巻きついている場合では、分娩のリスクや胎児への影響はほとんど差がないことが知られています。ただし、巻きつきが強かったり、何重にも巻いていたりする場合は、分娩時間が長くなる傾向があり、胎児異常のリスクに影響を与える可能性があります。
臍帯巻絡は、全分娩の約3割で確認されており、決してめずらしいものではありません。部位別に見ると、胎児の首部分に生じるケースが大半を占めています。また、胴体や手足への臍帯巻絡を正確に診断するのは技術的に難しいという側面もあるため、妊婦健診における超音波検査では、首の巻きつきの有無のみを確認するのが一般的です。
臍帯巻絡に対する直接的な治療法や予防方法はありません。重度の臍帯巻絡が確認された場合は、帝王切開などが検討されます。
臍帯巻絡の原因
臍帯巻絡は、主に臍帯の長さや胎児の活動が原因で起こると考えられています。胎児が子宮内で活発に動くようになり、羊水の中で自由に手足を動かしたり回転したりするようになると、偶発的に臍帯が胎児の体に巻きつくことがあります。同じく偶発的に巻きつきがもとに戻ることもあれば、巻きつきがそのままになってしまうこともあります。
なお、臍帯の長さは一般的には50cmほどですが、個人差が大きく、臍帯が長い人(過長臍帯)もいます。
なお産科婦人科用語解説集(日本産科婦人科学会編)では、臍帯の長さが70cm以上で過長臍帯と定義されています。
さらに、多胎妊娠(双子や三つ子など)で臍帯巻絡のリスクが高まるケースがあります。胎児同士がそれぞれ異なる羊膜を持ち、隔てられた空間で育つ場合は、臍帯巻絡のリスクは上がりません。一方で、ひとつの羊膜を共有し同じ空間で育つ(一絨毛膜一羊膜双胎)の場合は、相互に臍帯が絡み合う「相互巻絡(そうごけんらく)」のリスクが高まります。
しかし、一絨毛膜一羊膜双胎(MM)は、絨毛膜二羊膜双胎(DD)・一絨毛膜二羊膜双胎(MD)と比べると、双胎のなかでは最もまれなケースです。
臍帯巻絡の前兆や初期症状について
臍帯巻絡が生じていても、多くの場合は母体や胎児に明確な前兆や症状はみられません。
分娩時においては、臍帯巻絡の程度により、一時的な胎児の心拍低下などがみられることがあります。また、巻きついた分臍帯が短くなるため、胎児の頭が下降するのに時間がかかり、分娩の時間が長くなる傾向があります。
しかし、ほとんどの場合、臍帯巻絡が生じていても、胎児や母体の健康状態や分娩に対するリスクが高まることはないとされています。
臍帯巻絡の検査・診断
臍帯は妊娠中に新たに巻いたり、外れたりすることがあるため、臍帯巻絡は妊娠後期(28〜39週)に診断されます。
臍帯巻絡の診断には主に超音波検査が使用され、胎児の姿勢や臍帯の位置を確認します。臍帯巻絡の約8~9割は胎児の首部分に生じていることや、胴体や手足への臍帯巻絡を正確に診断するのは難しいことなどを理由に、妊婦健診における超音波検査では、首への巻きつきについて調べます。
臍帯巻絡がある場合には、超音波検査のドプラ機能(胎児の血流量を視覚的に表示できる)などを用いて、巻きつきの方向や巻きつき回数などを調べることもできます。
臍帯巻絡の治療
臍帯巻絡に対する直接的な治療法はありません。
もし臍帯巻絡が生じていても、胎児の成長や分娩時のリスクに大きな影響はないと考えられています。そのため、分娩開始前に臍帯巻絡と診断された場合でも、大半は経過観察となります。臍帯が強く巻きついている場合や、何重にも巻きついている場合には、帝王切開などの計画分娩も検討されます。
臍帯巻絡の診断を受けると不安を抱くかもしれません。また、分娩開始後にはじめて臍帯巻絡が確認できることや、分娩中に巻絡が生じることもあります。しかし、臍帯巻絡は決して珍しい症例ではないことを知っておき、過度に心配しすぎず、医師の指導のもとで冷静に経過を見守ることが大切です。
臍帯巻絡になりやすい人・予防の方法
臍帯巻絡は、臍帯の長さや胎児の活動が原因となるため、一般的に、臍帯が長い方は臍帯巻絡のリスクは高いと考えられています。
また、一絨毛膜一羊膜双胎とよばれる多胎妊娠(双子や三つ子などの妊娠)では、ひとつの羊膜内で複数の胎児が育つため、相互に臍帯が絡み合う相互巻絡(そうごけんらく)のリスクが高まると考えられています。この場合、より注意深く胎児の状態を確認することが必要です。
臍帯巻絡を予防する方法はありませんが、妊娠・出産に関するリスク管理は、産婦人科や助産院などでのアドバイスに従い、定期的な検査を受けることが重要です。
関連する病気
- 臍帯真結
- 臍帯下垂
- 臍帯脱出
- 胎児低酸素症
- 胎児呼吸循環不全
- 胎児胎盤機能不全
- 胎児仮死(ジストレス)
- 子宮内胎児死亡
参考文献