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監修医師:
西田 陽登(医師)
目次 -INDEX-
胚細胞腫瘍の概要
胚細胞腫瘍は、始原生殖細胞(PGC)という精子や卵子のもとになる細胞から発生します。
この発生過程に基づいて、以下の5つの型に分類されます。
胚細胞腫瘍の5つの型
- I型
- II型
- III型
- IV型
- V型
思春期前に発生する奇形腫や卵黄囊腫瘍が含まれます。PGCが移動中に迷い込んだ細胞が原因と考えられていますが、迷い込んだ細胞はまだ確認されていません。奇形腫は正常な染色体構成を示し、卵黄囊腫瘍では染色体の一部が増えたり減ったりする異常が見られます。
思春期以降に発生する悪性卵巣胚細胞腫瘍(MOGCT)が含まれます。PGCが生殖堤に移動し、特定の遺伝情報がリセットされた状態の細胞に由来します。未熟奇形腫以外のMOGCTでは、12番染色体に特徴的な異常が多く見られます。
女性には該当しません。
卵母細胞から発生します。母親由来の遺伝情報がリセットされている細胞に由来します。
全胞状奇胎が含まれ、核がない卵子に精子が入った場合に発生します。この場合、父親由来の遺伝情報だけで成長し、胎児の部分はなく、栄養膜(胎盤の一部)のみが成長します。
胚細胞腫瘍の原因
胚細胞腫瘍は、精子や卵子になるもととなる細胞「始原生殖細胞(PGC)」から発生します。このPGCが腫瘍になる仕組みはまだ完全に解明されていませんが、いくつかの原因が考えられています。
胚細胞腫瘍の原因
PGCの迷入
PGCが移動する途中で本来の経路から外れると、異なる環境の影響を受けて腫瘍化しやすくなることがあります。
遺伝子の異常
特に12番染色体の異常があると、腫瘍化が起こりやすくなります。
性分化疾患
クラインフェルター症候群などの性分化に関わる疾患があると、胚細胞腫瘍の発生率が高くなります。
ゲノムインプリンティングの異常
両親から受け継ぐ遺伝子の働きが正常でない場合、細胞が増えすぎて腫瘍になることがあります。
KIT遺伝子の変異
この遺伝子に異常があると、細胞が異常に増殖しやすくなります。
シグナル伝達経路の活性化
細胞の増殖や分化を制御する経路が活性化し続けると、細胞が異常に増える原因になります。
ヘテロ接合性の喪失
遺伝子の片方が失われると、細胞の正常な働きが失われ、腫瘍化につながることがあります。
これらの要因が関わり合うことで胚細胞腫瘍が生じると考えられていますが、詳しいメカニズムについてはまだ研究が進められている段階です。
胚細胞腫瘍の前兆や初期症状について
胚細胞腫瘍の初期症状は、腫瘍ができた場所や種類によってさまざまです。初期には他の病気と見分けがつきにくいこともありますが、以下のような症状が見られることがあります。
主な症状
しこりを感じる
卵巣や精巣、背中の内側などに腫瘍ができると、腹部や陰嚢にしこりが触れることがあります。
お腹のふくらみ
腫瘍が大きくなると、お腹がふくらむことがあります。
周りの臓器への圧迫
腫瘍が周囲の臓器を押すことで、次のような症状が出ることがあります。
呼吸がしにくい:首や胸に腫瘍がある場合に起こります。
腎臓への影響:骨盤近くに腫瘍があると、尿が詰まりやすくなります。
卵巣がねじれる痛み
卵巣に腫瘍ができた場合、卵巣がねじれることで強い痛みが起こることがあります。
早めの思春期
一部の胚細胞腫瘍はホルモンを出し、思春期が早く始まることがあります。
頭痛や吐き気
頭に腫瘍ができると、頭痛や吐き気、目の焦点が合わない、上を見るのが難しいといった症状が出ることがあります。
これらの症状が見られたからといって、必ず胚細胞腫瘍とは限りませんが、早めに見つけて治療を始めることが大切です。このような症状があれば、すぐに内科で検査を受けるようにしましょう。
胚細胞腫瘍の検査・診断
胚細胞腫瘍を診断するためには、画像検査や腫瘍マーカーと呼ばれる血液の検査が重要です。以下に、主な検査方法を紹介します。
1. 画像検査
X線検査
一部の腫瘍には、歯や骨のような成分が含まれていることがあり、それがX線に写ることがあります。
CT、MRI、超音波検査
腫瘍の内部構造(嚢胞、固まり、石灰化、脂肪など)を詳しく調べるために使います。
- 未熟奇形腫では、腫瘍の中に固まりが多いです。
- 悪性腫瘍の場合、出血や壊死が見られることがあります。
- 精巣腫瘍では、水がたまる「陰嚢水腫」との違いを確認するため、透光試験や超音波検査が役立ちます。
骨シンチグラフィー
腫瘍が骨に広がっているかを調べるための検査です。
2. 腫瘍マーカー
腫瘍マーカーは血液中に出る物質で、腫瘍の種類や治療の効果を確認するのに役立ちます。
AFP(α-フェトプロテイン)
卵黄囊腫瘍で増加しますが、幼い子どもではもともと高いこともあり注意が必要です。
β-hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
特定の胚細胞腫瘍で増えることがあり、腫瘍の存在を確認する手がかりになります。
LDH(乳酸脱水素酵素)
特定のアイソザイムが増加することがあり、腫瘍の活動性を示すことがあります。
CA125
一部の卵巣腫瘍で高くなることがあります。
3. 染色体検査
思春期以降にできる胚細胞腫瘍では、染色体の「12p」と呼ばれる部分に特徴的な異常が見られることがあります。この検査により、腫瘍の性質を詳しく知ることができます。
4. 病理診断
腫瘍の組織を調べ、腫瘍の種類や悪性度を確認します。これにより、治療方針が決まります。
これらの検査結果を総合して、胚細胞腫瘍の診断や治療方針が決まります。
胚細胞腫瘍の治療
胚細胞腫瘍の治療は、腫瘍の種類や発生場所、進行の度合い、患者さんの年齢などに応じて決まります。良性と悪性で治療方法が異なり、悪性腫瘍では手術と化学療法の組み合わせが一般的です。
良性胚細胞腫瘍の治療
手術
良性の腫瘍(例:成熟奇形腫)は外科的に切除するのが標準です。完全に切除された場合、追加の治療は不要です。
悪性胚細胞腫瘍の治療
手術
腫瘍を可能な限り安全に取り除きます。腫瘍の位置や患者さんの年齢に応じて、手術の方法や担当する診療科が決まります。
化学療法
悪性の胚細胞腫瘍には、薬を使って腫瘍を小さくしたり、残った腫瘍細胞を減らします。主な治療方法には以下が含まれます。
- PVB療法(シスプラチン+ビンブラスチン+ブレオマイシン)
- PEB療法(シスプラチン+エトポシド+ブレオマイシン)
- JEB療法(カルボプラチン+エトポシド+ブレオマイシン、小児には腎障害リスクを減らすために行われる)
放射線療法
一部の腫瘍で放射線が有効ですが、化学療法ほど一般的ではありません。
治療成績と予後
悪性胚細胞腫瘍の治療成績は比較的良好で、早期の病期(I〜II)では5年生存率が95%、進行した病期(III〜IV)でも80%以上です。
副作用と後遺症
化学療法には副作用があり、たとえば、ブレオマイシンは肺障害、シスプラチンは聴力や腎機能の低下、エトポシドは二次的ながんのリスクを引き起こすことがあります。
再発・難治性の治療
再発や治療が難しい場合には、さまざまな薬の組み合わせや放射線療法、自家造血幹細胞移植などが試されています。
このように、胚細胞腫瘍は病期や発生場所に合わせて治療が行われており、早期発見と適切な治療が予後に大きく影響します。
胚細胞腫瘍になりやすい人・予防の方法
胚細胞腫瘍は、PGCの発生段階や遺伝子異常、染色体異常などが複雑に関係して発生する腫瘍であることが示唆されています。しかし、その詳細なメカニズムについては、まだ不明な点が多く予防法もありません。
関連する病気
- 性腺腫瘍
- ゴナドトロピン分泌異常
参考文献
- 卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020 年版 第 5 版.日本婦人科腫瘍学会(編).金原出版,2022.
- 日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会・編:小児胚細胞腫瘍群腫瘍 小児腫瘍分類図譜 第 5 編.金原出版.