胎児機能不全
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

胎児機能不全の概要

胎児機能不全とは、お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんの健康状態に何らかの問題がある、あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された状態を指します。以前は「胎児仮死」という言葉が使われていましたが、この言葉は誤解を招く可能性があるため、現在では「胎児機能不全」という言葉を使用しています。この状態は、赤ちゃんが元気かどうかを調べる様々な検査で、正常とは異なる所見が見られた場合に診断されます。

胎児機能不全の原因

胎児機能不全は、お母さんの体調、赤ちゃんの状態、胎盤の働き、へその緒の状態など、様々な要因が重なって起こります。お母さんの体調に関する要因としては、妊娠中の高血圧、糖尿病、腎臓の病気、心臓の病気、喘息、貧血などが挙げられます。また赤ちゃん自身の発育が遅い場合や、胎盤の早期はがれ、へその緒の異常(巻きつきや圧迱など)、子宮の強すぎる収縮なども原因となります。特に胎盤は赤ちゃんに酸素や栄養を届ける重要な働きをしているため、胎盤の機能に問題がある場合は注意が必要です

胎児機能不全の前兆や初期症状について

赤ちゃんの様子の変化に気付くことができる重要な症状は、赤ちゃんの動きの減少です。おなかの中の赤ちゃんは、十分な酸素がある状態では活発に動いていますが、酸素が少なくなると動きが減ってきます。また、原因となる病気によって、お母さんに高血圧の症状が出たり、おなかに痛みを感じたり、出血が見られたりすることもあります。普段と様子が違うと感じた場合は、すぐに担当の先生に相談することが大切です。

胎児機能不全の検査・診断

診断には主に次のような検査が行われます。

胎児心拍数の記録

お母さんのおなかに装着した機械で、赤ちゃんの心拍数を継続的に記録します。この検査では、赤ちゃんの心拍数の変化から健康状態を判断します。心拍の変化は5段階で評価され、医師はこの結果を見て赤ちゃんの状態を総合的に判断します。

超音波検査

赤ちゃんの動きや姿勢、羊水の量、胎盤の状態などを確認します。また、赤ちゃんへの血液の流れを調べることで、酸素や栄養がしっかり届いているかを確認することもできます。

胎児機能不全の治療

治療は、見つかった時期や状況によって異なります。

分娩中に見つかった場合

  • お母さんの体位を変える
  • 酸素を吸入してもらう
  • 点滴で水分を補給する
  • 人工的に羊水を補充する
  • 子宮の収縮を抑える薬を使用する

これらの方法で改善が見られない場合は、帝王切開を含めた緊急の分娩が必要になることがあります。ただし、帝王切開を行うかどうかの判断は、医療機関の設備や体制によっても異なります。緊急手術がすぐにできる大きな病院では、赤ちゃんの状態をより長く観察できますが、そうでない施設では早めに判断する必要があることもあります。

妊娠中に見つかった場合

赤ちゃんの状態、妊娠週数、原因となっている問題などを考慮して、妊娠を継続するか分娩を行うかを慎重に判断します。

胎児機能不全になりやすい人・予防の方法

胎児機能不全になりやすい人

主に次のような方が胎児機能不全のリスクが高くなります

  • 妊娠高血圧症候群の方
  • 糖尿病のある方
  • 赤ちゃんの発育が遅い場合
  • 予定日を過ぎても出産されない場合(過期妊娠)

予防の方法

予防のためには、定期的な妊婦健診を必ず受けることが大切です。特にリスクの高い方は、より頻繁な健診や赤ちゃんの検査が必要になることがあります。また、日常生活では十分な休息を取り、バランスの良い食事を心がけ、激しい運動は避けましょう。何か気になる症状があった場合は、早めに医療機関に相談することが重要です。
赤ちゃんの健康状態に不安がある場合は、医師や助産師に相談し、必要な検査や治療を受けることで、多くの場合、適切な対応が可能です。特に最近は医療技術の進歩により、早期発見・早期治療が可能になっているため、定期的な健診を受けることで、赤ちゃんの健康を守ることができます


関連する病気

参考文献

  • 岡村州博: 「胎児機能不全」の用語決定への考え方. 日産婦誌 2009;61:1303-1305.
  • 藤森敬也: 胎児機能不全:その診断と対策. 母子保健情報 2010;61:50-54.
  • 日本産科婦人科学会周産期委員会: 胎児機能不全の診断基準の作成と検証に関する小委員会報告. 日産婦誌 2008;60:1220-1229.
  • Turner JM, et al: 分娩時の胎児の状態変化について. Am J Obstet Gynecol 2020;222:17-26.
  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編: 産婦人科診療ガイドライン産科編2020.

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