

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
新生児けいれんの概要
新生児けいれんは、新生児期(生後28日以内)に発症するけいれん性発作の総称であり、中枢神経系の異常を示唆する重要な兆候の一つです。新生児の神経系は未熟であり、けいれんの発症は急性脳障害や代謝異常などの基礎疾患を反映していることが多いため、迅速な診断と適切な治療が求められます。正期産児の発症率は0.1~0.6%とされていますが、早産児ではより高頻度に認められます。特発性の新生児けいれんはまれであり、75~90%の症例で明確な病的要因が確認されています。
新生児けいれんの原因
新生児けいれんの主な原因は、低酸素性虚血性脳症、脳血管障害(周産期動脈性脳梗塞や頭蓋内出血)、中枢神経感染症(髄膜炎、敗血症)、急性代謝障害(低血糖、低カルシウム血症、低マグネシウム血症)、先天性代謝異常(尿素サイクル異常症、メープルシロップ尿症)、および遺伝性てんかん症候群などが挙げられます。これらの病因は発症のタイミングと関連があり、例えば生後24時間以内のけいれんは低酸素性虚血性脳症や低血糖によるものが多く、生後数日以降の発症は感染症や代謝異常の可能性が高いとされています。
新生児けいれんの前兆や初期症状について
新生児けいれんは、成人や小児のてんかん発作と異なり、明確な強直間代発作を示すことは少なく、症状が多様で非典型的な場合が多いことが特徴です。主な症状としては、眼球が一定の方向に動いたり、まばたきを繰り返したり、口をもぐもぐさせる動作、自転車をこぐような手足の動き、呼吸が一時的に止まるなどがあります。けいれん発作は短時間で収束することが多く、見逃されることもあります。そのため、専門的な脳波検査を用いた診断が重要とされています。
新生児けいれんの検査・診断
新生児けいれんの診断には、脳波検査が不可欠です。特に、目に見える症状を伴わないけいれんもあるため、脳波検査を行わなければ正しく診断できないことがあります。脳波検査では、脳の電気的な活動を観察し、異常な波形があるかどうかを確認します。また、持続的な脳波モニタリングを行うことで、発作の頻度や持続時間を評価することができます。
そのほか、血液検査で血糖値や電解質(ナトリウム、カルシウム、マグネシウムなど)の異常を調べたり、感染症の有無を確認したりすることが必要です。また、頭部の超音波検査やMRI、CTなどの画像検査を行うことで、脳の状態を詳しく調べることもあります。
新生児けいれんの治療
新生児けいれんの治療では、まず赤ちゃんの全身の状態を安定させることが大切です。特に呼吸が苦しくないか、血圧や体温が安定しているかを確認しながら治療を進めます。けいれんの原因が明らかな場合には、その治療を最優先に行います。例えば、血糖値が低い場合にはブドウ糖を投与し、カルシウムやマグネシウムの不足がある場合にはそれを補います。感染症が原因であれば、適切な抗菌薬を使用します。
けいれんを抑えるための薬も使用されます。最も一般的に使われるのはフェノバルビタールという薬です。これは脳の興奮を抑える働きを持ち、新生児のけいれん治療に長年用いられてきました。ただし、一部の赤ちゃんでは効果が十分でない場合があり、その場合にはミダゾラムやレベチラセタムといった別の薬を追加することがあります。これらの薬は、赤ちゃんの状態を慎重に観察しながら投与されます。
非常に重症な場合には、けいれんが長時間続いてしまい、赤ちゃんの脳に負担をかけることがあります。そのような場合には、より強力な治療を行うこともありますが、ほとんどの赤ちゃんは適切な治療によって回復することが期待されます。
新生児けいれんになりやすい人・予防の方法
新生児けいれんは、早産児や低出生体重児、周産期の低酸素状態、脳血管障害、感染症の既往がある場合に発症リスクが高いとされています。また、家族にけいれんの既往がある場合や、遺伝的要因が関与していることもあります。予防に関しては、新生児期の血糖値や電解質バランスの管理が重要であり、感染症の予防や適切な周産期管理が推奨されています。
関連する病気
- 低酸素性虚血性脳症
- 先天代謝異常
- 早発型良性新生児てんかん
参考文献
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