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メープルシロップ尿症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

メープルシロップ尿症の概要

メープルシロップ尿症は先天性の代謝疾患の一つで、分岐鎖アミノ酸の代謝に関わる酵素 (分岐鎖αケト酸脱水素酵素; BCKDH) が欠損することが原因となる病気です。BCKDH が欠損することにより体のエネルギー代謝に支障が出るほか、処理されなければいけないアミノ酸が溜まり続けることで体の様々な機能に障害が出ます (参考文献 1, 2) 。
初期症状としては赤ちゃんの哺乳力低下嘔吐筋緊張低下運動失調意識状態の変化尿から甘い匂いがするといったものがあります (参考文献 1) 。病状が進むと不可逆的な中枢神経障害をきたし、精神運動発達遅滞をはじめとした重篤な後遺症にもつながります (参考文献 1) 。
新生児マススクリーニングで赤ちゃん全員が検査されるほか、メープルシロップ尿症が疑われるような場合には分岐鎖アミノ酸のロイシンの濃度を測定したり、酵素活性を測定することで診断してきます (参考文献 3) 。
分岐鎖アミノ酸を制限した食生活に変更することが治療の軸となります (参考文献 1) 。

メープルシロップ尿症の原因

メープルシロップ尿症の原因は分岐鎖アミノ酸であるバリン・ロイシン・イソロイシンの代謝に必要な酵素 (BCKDH) が先天的に欠損することです (参考文献 1, 2) 。

分岐差アミノ酸は BCKDH を介して様々な反応をして、体内の糖が足りなくなったときに体内の物質を使って糖を作り出す「糖新生」という機構に重要な役割を果たすほか、脂肪酸の生成など、体内のエネルギー合成に重要な物質です (参考文献 2) 。BCKDH が欠損することは、これらのエネルギー合成に重大な支障をきたすことを意味します。

メープルシロップ尿症の患者では BCKDH が働かないので、分岐鎖アミノ酸濃度のコントロールがうまくいかなくなりますが、分岐鎖アミノ酸や分岐鎖ケト酸の濃度が不当に上昇した場合には免疫機能や骨格筋のはたらき、中枢神経の機能が障害されることが知られています。

メープルシロップ尿症は遺伝性疾患であり、常染色体潜性 (劣勢) 遺伝をします (参考文献 1, 2)。

メープルシロップ尿症の前兆や初期症状について

初期症状には、赤ちゃんの活発さがなくなる、哺乳量低下、嘔吐、筋緊張低下 (体がが “だらん” とする) 、動きがおかしい、痙攣、意識状態の悪化、尿から甘い匂いがするといったものがあります (参考文献 1) 。

BCKDH の欠損により、分岐鎖アミノ酸や分岐鎖ケト酸が代謝されないまま体に溜まりすぎると、不可逆的な中枢神経障害によって精神や運動能の発達に遅れが生じることがあります (参考文献 1) 。

また、メープルシロップ尿症にはいくつかの臨床的なタイプがあることが知られています (参考文献 1, 2)。

  • 古典型 :新生児期、生後1週間程度で発症
  • 間欠型:新生児期は症状なく経過するが、その後に症状が急に現れてくるタイプ、症状が出たり治ったりを繰り返す
  • 中間型: 分岐鎖アミノ酸の濃度上昇は中等度であるが、知的障害を伴うタイプ
  • チアミン反応型: チアミンの投与により症状軽快するタイプ

生まれてきた赤ちゃんには「新生児マススクリーニング」と呼ばれる検査がされることになっています。このスクリーニング検査の対象疾患の一つにメープルシロップ尿症も入っていますが、古典型のメープルシロップ尿症ではマススクリーニングの結果が出る前に症状が出てきていることもあります (参考文献 1) 。
生まれてきた赤ちゃんをはじめ新生児期以降でも、紹介したような症状が現れれば、直ぐに担当の小児科医へ相談してください。

メープルシロップ尿症の検査・診断

新生児マススクリーニングは、メープルシロップ尿症をはじめとする様々な代謝性疾患の見落としを極力少なくするために行われている検査です。マススクリーニングでは、メープルシロップ尿症の検査として分岐鎖アミノ酸の一つであるロイシンの濃度を測っており、マススクリーニングでメープルシロップ尿症に罹患していることが判明する場合があります。

しかしながら、メープルシロップ尿症の病型や、ロイシン濃度の上昇タイミングによっては、新生児マススクリーニングで発見できない場合があります。

臨床的にメープルシロップ尿症が疑わしいとなった場合には、血中ロイシン濃度の測定や、メープルシロップ尿症に特徴的な各種マーカーの測定、BCKDHのはたらきが十分にあるかどうかを確かめる検査をします (参考文献 3, 4) 。

酵素の働きがどれだけあるかを”酵素活性”と呼びますが、古典型のメープルシロップ尿症患者の BCKDH酵素活性は同じ年齢の健常な人と比べて5%未満、他の病型では 5~20%と言われています (参考文献 4) 。

メープルシロップ尿症の治療

急性期の治療では、分岐鎖アミノ酸や分岐鎖ケト酸を含まないミルクを摂取するようにしながら、脂肪や高エネルギーの輸液をしてエネルギー不足にならないようにしたり、血液の酸性度の補正を行います (参考文献 1) 。

急性期治療が終わった後は、定期的にロイシンの血中濃度を測定しながら、分岐鎖アミノ酸を除去したミルクと通常のミルクを混ぜたものを飲ませていきます (参考文献 1)。

「食事に分岐鎖アミノ酸がどれだけ含まれているのか?」といったことを一生涯考えながら食事療法を続けていかなければいけないほか、メープルシロップ尿症の症状が出てこないかをずっと気を付けて生活する必要があります (参考文献 1) 。

メープルシロップ尿症になりやすい人・予防の方法

メープルシロップ尿症の患者さんは日本に100人程度いるとされています (参考文献 4) 。かなり稀な疾患ではありますが、メープルシロップ尿症は常染色体常染色体潜性 (劣勢) 遺伝の疾患です。兄弟姉妹にメープルシロップ尿症の子がいる場合、生まれてくる子は4分の1の確率でメープルシロップ尿症を発症します。

発症予防よりは早期発見による重症化予防が重要な疾患です。症状が出る前や症状が現れても速やかに治療を開始した場合には、良好な疾患にコントロールすることができるとされています (参考文献 2) 。
赤ちゃんや子供に気になる症状があれば、医師に直ぐに報告するようにしましょう。


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