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胎便吸引症候群
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

胎便吸引症候群の概要

胎便吸引症候群は、赤ちゃんが生まれる前後に、胎便(おなかの中での赤ちゃんのうんち)で濁った羊水を吸い込むことで起こる呼吸の病気です。正常な分娩の約4〜22%で胎便で濁った羊水が見られますが、そのうち実際に胎便吸引症候群を発症するのは3〜12%程度です。特に妊娠週数が進むと発症率が上がり、妊娠38週で1.3%だったものが41週では4.8%まで増加します。
近年の周産期医療の進歩により、先進国では発症率は低下傾向にありますが、新生児の呼吸障害の重要な原因の一つとして残っています。また、人種による違いもあり、アフリカ系やアジア系の方でやや発症率が高いことが報告されています。

胎便吸引症候群の原因

妊娠34週以前の赤ちゃんでは胎便を出すことはまれで、それ以降の週数で発生することが多くなります。主な発症の仕組みは以下の通りです。

  • 赤ちゃんが子宮の中でストレスを感じると(へその緒が圧迫されたり、酸素が少なくなったりすると)、腸の動きが活発になり、肛門の筋肉がゆるんで胎便が出ます。
  • 出された胎便は羊水と混ざり、その濁った羊水を赤ちゃんが吸い込むことで肺に入ります。特に酸素が少ない状態では、赤ちゃんは大きく息を吸い込むような動きをするため、より多くの胎便混じりの羊水を吸い込む可能性が高くなります。
  • 吸い込まれた胎便は以下の3つの方法で肺に悪影響を及ぼします
    気道を詰まらせる(物理的な障害)
    肺に炎症を起こす(化学的な刺激)
    肺の表面張力を保つ物質(サーファクタント)の働きを妨げる
  • 胎便吸引症候群の前兆や初期症状について

    主な症状には以下のようなものがあります。

    • 呼吸が苦しそう(息が速い、胸がへこむ、うめき声、鼻の穴が開く)
    • 皮膚や唇が青っぽくなる
    • 血液の酸素が少なくなる
    • 肺に空気がたまる(気胸)
    • 肺の血圧が高くなる(肺高血圧症)
    • その他、腎臓や肝臓など全身に影響が出ることもある

    症状の程度は、軽度から重度までさまざまです。特に重症の場合は、生命に関わる状態となることもあるため、早期発見と適切な治療が重要です。

    胎便吸引症候群の検査・診断

    診断は主に以下の所見により行われます。

    出生時の状況

    • 羊水が胎便で濁っている
    • へその緒や皮膚、爪が胎便で黄色く染まっている

    身体所見

    • 呼吸が苦しそう
    • 皮膚の色が悪い
    • 胸の動きの異常

    検査

    • 胸部のレントゲン写真(特徴的な模様が見られる)
    • 血液検査(酸素の量や炎症の程度を確認)
    • 心臓の超音波検査(肺の血圧が高くなっていないかを確認)

    胎便吸引症候群の治療

    症状の程度に応じて、段階的な治療が行われます。

    軽症の場合

    • 酸素投与
    • 呼吸のモニタリング
    • 体温管理
    • 点滴による水分・栄養補給
    • 中等症の場合

      • 人工呼吸器による呼吸の補助 ・肺の表面張力を改善する薬剤(サーファクタント)の投与
      • 必要に応じて抗生物質の投与
      • 重症の場合

        • 特殊な人工呼吸器による治療
        • 肺の血圧を下げる治療(一酸化窒素の吸入)
        • 場合によっては体外式膜型人工肺(ECMO)という特殊な治療が必要

        新しい治療法として、以下のような方法も研究されています。

        • 肺の洗浄療法
        • 炎症を抑える薬物療法
        • 特殊な換気方法

        胎便吸引症候群になりやすい人・予防の方法

        胎便吸引症候群は、主に正期産(妊娠37週以降)から過期産(妊娠42週以降)の赤ちゃんに起こりやすい病気です。特に以下のような場合にリスクが高くなります。

          胎便吸引症候群になりやすい人

        • 妊娠週数が41週を超える場合
        • 胎児の発育が悪い(胎児発育不全)場合
        • へその緒に問題がある場合
        • 妊娠高血圧症候群がある場合
        • 羊水が少ない場合
        • 子宮の中で赤ちゃんが苦しい状態(胎児機能不全)になっている場合

        また、人種による違いもあり、アフリカ系やアジア系の方でやや発症率が高いことが報告されています。

        予防の方法

        胎便吸引症候群の予防 以下のような予防方法が重要です。

        • 適切な妊婦健診
          定期的な健診を受け、赤ちゃんの発育状態や羊水量、へその緒の状態などを確認することが大切です。特に妊娠後期には、より慎重な観察が必要です。
        • 分娩時期の管理
          妊娠41週以降の誘発分娩(予定日を過ぎた場合に、お薬などで分娩を促すこと)を検討することで、過期産を防ぎ、胎便吸引症候群の発症リスクを下げることができます。
        • 分娩中の管理
          胎児の心拍数を注意深く監視、羊水の色の観察、必要に応じて適切な分娩方法(帝王切開など)の選択
        • 出生直後の対応
          赤ちゃんの状態に応じて、適切な蘇生処置や観察を行います。以前は全ての場合に気管内吸引(のどの中の吸引)を行っていましたが、現在は赤ちゃんの状態に応じて必要な場合のみ行うことが推奨されています。

        これらの予防的な対応により、胎便吸引症候群の発症リスクを低減させることができます。特に定期的な妊婦健診を受け、医療者との良好なコミュニケーションを保つことが重要です。


        関連する病気

        • 早産
        • 多胎妊娠
        • 羊水過多
        • 母体疾患

        参考文献

        • Dini G, et al: Meconium aspiration syndrome: from pathophysiology to treatment. Annals of Medicine & Surgery 86:2023-2031, 2024
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