監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
目次 -INDEX-
多毛症の概要
多毛症(hirsutism)は、女性や小児の体に男性型の硬い体毛が生えてしまう状態を指します。この症状は、男性ホルモンであるアンドロゲンの過剰により引き起こされると考えられています。アンドロゲンは毛嚢と皮脂腺に作用し、毛髪の成長を促進する働きがあります。多毛症の特徴として、体全体に均一に毛が生えるのではなく、アンドロゲンの影響を受けやすい特定の部位(顔面、胸、腹、太ももなど)に集中して発毛することが挙げられます。
なお、アンドロゲンの影響を受けずに、遺伝や人種、体質的な要因で体毛が増加する状態は「hypertrichosis」と呼ばれ、多毛症とは区別されます。
多毛症の原因
多毛症の原因はさまざまですが、主に3つの要因に分類されます。
- 特発性多毛症(体質的な多毛症)
- 卵巣の異常(多嚢胞性卵巣症候群や卵巣腫瘍など)
- 副腎の異常(先天性副腎過形成、クッシング症候群、副腎腫瘍など)
これらの原因のうち、実際には体質的な多毛症がほとんどを占めています。
卵巣の異常
体質的な原因の次に多い原因は、卵巣の機能異常による男性ホルモン(アンドロゲン)の過剰分泌です。特に多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)が代表的です。PCOSは、卵巣に多数の小さな嚢胞が形成され、排卵障害や月経不順、男性ホルモンの過剰分泌を引き起こす疾患です。PCOSでは、黄体形成ホルモン(LH)が過剰に分泌される過程で、男性ホルモンが過剰に分泌され、多毛などの男性化症状が見られると考えられています。
副腎の異常
副腎の機能異常がある場合にも、男性ホルモンの過剰分泌が原因となって、多毛の症状が見られます。代表的な疾患には、先天性副腎過形成(CAH)とクッシング症候群があります。CAHは、副腎の皮質から糖質コルチコイドを産生することができないために生じる疾患で、副腎刺激ホルモンの過剰産生を通して多毛症以外にも月経の異常や、男性化徴候(筋肉質になる、声が低くなる)などが現れます。クッシング症候群は副腎皮質ホルモンの過剰分泌によって起こり、多毛やにきびなどの症状が見られます。
その他の原因
その他の原因としては、薬剤の副作用(ステロイド、抗けいれん薬など)、甲状腺疾患、脳下垂体の異常 (プロラクチン過剰、成長ホルモン過剰)、毛嚢のアンドロゲン感受性亢進(毛穴が男性ホルモンに過剰に反応すること)などが挙げられます。しかし、これらが多毛症の原因となることは稀です。
多毛症では、原因によって治療方針が異なるため、適切な診断を受けることが重要です。
多毛症の前兆や初期症状について
多毛症の前兆や初期症状は、徐々に進行していく傾向にあり、患者さんが気がつきにくい場合もあります。しかし、以下のような特徴的な変化が現れることもあります。
- 思春期以降に、顔の産毛が濃く太くなる
- 思春期以降に、胸や腹、背中に硬い毛が生えてくる
- 女性の場合、陰毛の生え方に変化が現れる(女性の陰毛は恥骨部に逆三角形に生えるが、男性のようにへそに向かって生えてくることがある)
- 髪の毛の脱毛(特に頭頂部から前頭部の薄毛)
- にきびが増加する
これらの症状以外にも、女性の場合は月経不順や無月経になるなども多毛症の初期症状として現れることがあります。男性ホルモンの増加が排卵に影響を与え、月経周期が乱れたり、月経が来なくなったりする可能性があるからです。
上記の症状が見られる場合は、エステや永久脱毛に頼る前に、多毛症に詳しい内科や婦人科を受診することが重要です。早期の診断と適切な治療につながる可能性があります。
多毛症の検査・診断
多毛症の検査と診断では、主に問診や血液検査を行います。場合によっては、画像検査を行うこともあります。
問診では、医師が患者さんから重要な情報を収集します。具体的には、多毛症の症状がいつから始まったか、毛の生え方や質の変化があったか、多毛以外に男性化症状(声が低くなるなど)があるか、現在服用している薬、家族に多毛症の方がいるかなどを確認します。
血液検査では、主に男性ホルモンの血中濃度を測定します。男性ホルモン値が高い場合、卵巣や副腎の機能異常が疑われます。
画像検査では、卵巣や副腎に腫瘍がないかを確認するため、超音波検査やCT検査、MRI検査などを行うことがあります。特に血液検査で男性ホルモンの値が高い場合は、腫瘍の早期発見のために重要です。
これらの検査結果をもとに、多毛症の原因や治療方法を総合的に判断します。
気を付けるべき点として、多毛症は他の疾患の症状として現れていることがある、ということです。このため、多毛症の原因となる疾患を特定することは、診断においては重要なポイントです。
多毛症の治療
多毛症の治療法は、原因や症状の程度、患者さんの希望を考慮して決定されます。治療の方針としては、多毛症の原因となっている疾患がある場合には、まずその疾患を治療することが優先されます。
多毛症の原因となる疾患がある場合
多毛症の原因となる疾患としては、主に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と先天性副腎過形成(CAH)が挙げられます。これらの疾患の治療方法は以下の通りです。
PCOS
生活習慣の改善(食事療法、運動療法)や薬物療法(排卵誘発剤、経口避妊薬、抗アンドロゲン薬など)を行う
CAH
糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドを薬として補う
すでに生えている硬い毛に対する治療
すでに生えてしまっている硬い毛に対しては、皮膚の除毛とレーザー等による減毛が行われます。また、経口避妊薬や抗アンドロゲン薬などの薬物療法も併せて行うことにより、男性ホルモンの作用を抑制して毛の成長を抑えられます。
なお、多毛症の治療は多くの場合、効果が現れるまでに時間がかかることがあるため、根気強く続けることが重要です。また、特に女性の患者さんでは精神的な負担も大きくなる傾向にあります。多毛症の治療では、患者さんの希望に沿った治療法を選択することが重要です。
多毛症になりやすい人・予防の方法
多毛症は、主に男性ホルモンであるアンドロゲンの過剰分泌によって引き起こされます。多毛症になりやすい人は、いくつかの特徴があります。
- 家族に多毛症の人がいる場合
- PCOSやCAHなどの疾患を持っている人
- ステロイド、抗けいれん薬などを服用している人
多毛症の予防
多くの場合、多毛症の原因となる疾患や体質は予防が困難です。しかし、薬剤が原因で起こる多毛症については、ある程度予防できる可能性があります。特に、ステロイド、抗けいれん薬などの薬剤を服用している場合、これらの副作用として多毛症を引き起こすことがあります。このような場合は、担当医に相談することが重要です。医師の判断により、薬剤の変更や減量を行うことで、多毛症の発症を抑えられる可能性があります。
また、ホルモンバランスを整えるために、健康的な生活習慣を維持することも重要です。バランスの取れた食事や適度な運動が推奨されます。
多毛症が気になる場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。個々の状況に応じた適切なアドバイスを受けることができます。
関連する病気
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 先天性副腎過形成症(CAH)