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ソトス症候群
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ソトス症候群の概要

ソトス症候群は、生まれつきの遺伝子異常によって、成長や発達に特徴的な変化があらわれる「先天性の症候群」のひとつです。最初に報告したアメリカの小児科医、ジュアン・ソトス博士の名前に由来して名づけられました。

この病気の特徴は、乳幼児期から見られる「過成長」です。つまり、同年代の子どもに比べて身長や体重が大きく、頭の大きさ(頭囲)も大きい傾向があります。しかし、単なる「背の高い子」とは異なり、運動や言葉の発達が遅れることや、顔立ちにある一定の特徴が見られることもこの病気の重要な所見です。

ソトス症候群は比較的まれな疾患であり、出生1万4千~2万人に1人程度の頻度といわれています。重い合併症を伴うこともありますが、症状の程度には個人差があり、軽症の人は気づかれないまま成長することもあります。早期の診断と支援により、その子の能力や個性に合った育ちを支えることが可能になります。

ソトス症候群の原因

ソトス症候群の主な原因は、染色体5番にある「NSD1(エヌエスディーワン)」という遺伝子の異常です。この遺伝子は、細胞の増殖や分化、つまり成長に深く関わっていると考えられており、ここに変化があると、骨や脳、体の臓器が通常よりも速く成長する一方で、神経の発達や協調運動の仕組みにも支障が出ることがわかっています。

この遺伝子異常は、多くの場合「新生突然変異」として起こるもので、両親の遺伝情報に異常がなくても、偶発的に子どもに発生することがほとんどです。そのため、家族に同じ病気の人がいないケースがほとんどであり、親のせいではありません。

まれに、NSD1の異常が家族内で遺伝する場合もありますが、それはごく少数です。いずれの場合でも、遺伝子レベルでの原因が明らかになっているため、診断がついた後には遺伝カウンセリングを受けることも可能です。

ソトス症候群の前兆や初期症状について

ソトス症候群の症状は出生直後から見られることが多く、特に早い段階で気づかれるのは「頭が大きい」「体が大きい」といった外見上の特徴です。生まれた時から平均よりも身長や体重が大きく、その傾向は乳幼児期にも続きます。

頭囲が大きい(巨頭)ことも多く、成長曲線において上限を超えるような急激な伸び方を示すことが特徴です。ただし、成長が早いからといって体のバランスが整っているわけではなく、運動能力はむしろゆっくり発達することが多く、寝返りやハイハイ、歩き始めるまでに時間がかかることがあります。

また、言葉の発達も遅れがちで、「1歳半を過ぎても言葉が出ない」「話し始めが遅い」といったことから、発達相談に至ることが少なくありません。感情表現や人との関わりに偏りが見られる場合もあり、自閉スペクトラム症との区別が必要なケースもあります。

外見的には、おでこが広く、顔が細長く、あごがとがったような特徴が見られることがあり、「ソトス顔貌」と呼ばれることもありますが、成長とともに目立たなくなる場合もあります。

その他にも、てんかんや心臓の異常、腎臓の奇形などを合併することがあり、全身的な健康チェックが必要となることもあります。

ソトス症候群の検査・診断

ソトス症候群の診断は、まず外見の特徴や発達の様子から疑われることが多く、成長曲線や発達検査の結果などがヒントになります。特に、小児科医や発達専門医が成長のスピードや体のバランス、発語や運動発達の遅れを観察することによって、ソトス症候群の可能性を考えることになります。

診断を確定するためには、「遺伝子検査」が不可欠です。採血によりNSD1遺伝子の配列を解析し、異常があるかどうかを調べます。最近では比較的簡便な方法で検査が可能となっており、確定診断に至るまでの時間も短縮されつつあります。

必要に応じて、脳のMRI検査や心臓・腎臓の超音波検査などが追加で行われ、合併症の有無を調べます。また、発達の状況を詳しく知るために、知能検査や言語発達検査、作業療法士による運動機能評価なども行われることがあります。

診断が確定した場合は、発達支援や療育、必要な医療的対応を含めて多職種による包括的なサポート体制が整えられていきます。

ソトス症候群の治療

ソトス症候群には、その原因となる遺伝子異常を根本的に治す治療法は現在のところ存在しません。しかし、症状の一つ一つに対して適切な支援や治療を行うことで、生活の質を大きく改善することができます。

まず、運動や言語の発達が遅れている場合には、早期からのリハビリテーションが重要です。理学療法(PT)では筋力や姿勢のバランスを整えるトレーニングが行われ、作業療法(OT)では手先の動きや日常生活動作の練習が進められます。言語聴覚療法(ST)では発語や言語理解のサポートが行われ、言葉によるコミュニケーション力を高める支援が行われます。

また、就学前からの療育を通じて、集団生活の中での適応を促す支援が重要です。場合によっては特別支援教育や通級指導の利用も検討され、発達の段階に応じた学びの場が提供されます。

身体的な合併症がある場合には、それぞれの専門科で治療や経過観察が行われます。たとえば、てんかんがある場合は小児神経科での治療が必要になりますし、心臓や腎臓に奇形が見つかった場合には、循環器科や腎臓科での定期診察が必要になります。

精神的な面での支援も大切で、本人の自尊心を傷つけないような声かけや、社会的スキルを高めるための療育なども取り入れられることが多く、家族との協力体制も重要となります。

ソトス症候群になりやすい人・予防の方法

ソトス症候群は、NSD1遺伝子の異常によって引き起こされる病気であり、誰にでも偶発的に起こり得る「新生突然変異」が主な原因です。そのため、生活習慣や妊娠中の過ごし方、親の体質などが直接的な原因となることはありません。つまり、予防することは現時点では難しい病気です。

ただし、すでにソトス症候群の子どもをもつ家庭や、同様の遺伝子異常を持つ家系では、将来的な妊娠に備えて「遺伝カウンセリング」を受けることが可能です。これは、専門の医師や遺伝カウンセラーが家族の遺伝情報をもとに、次に生まれてくる子どものリスクや将来への備えについて丁寧に説明してくれる相談の場です。

また、子どもの成長や発達に気になる点があった場合には、早めに小児科や発達外来に相談することが、早期発見と支援につながります。ソトス症候群であっても、適切な支援を受けながら育っていくことで、その子なりの可能性を伸ばすことは十分に可能です。

一人ひとりの個性に合わせたサポートを行うことが、ソトス症候群の子どもたちにとって最も大切な「予防」であり、「成長の応援」になるのです。

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