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フェニルケトン尿症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

フェニルケトン尿症の概要

フェニルケトン尿症(Phenylketonuria, PKU)は、先天性の代謝異常疾患の一つであり、主にフェニルアラニンというアミノ酸を適切に代謝できないことが特徴です。フェニルアラニンは、たんぱく質を構成する重要な成分の一つですが、フェニルケトン尿症の患者ではこのアミノ酸を適切に分解する酵素が欠損または十分に機能しないため、体内に蓄積してしまいます。この蓄積が進行すると、脳の発達に悪影響を及ぼし、知的障害神経症状を引き起こすことがあります。 この病気は生まれつきのものであり、遺伝によって発症します。日本では新生児マススクリーニング(先天性代謝異常検査)の対象疾患であり、生後すぐに診断を受けることが可能です。早期発見と適切な食事療法により、知的発達の遅れを防ぐことができるため、現在では適切な管理を行えば通常の生活を送ることができます。しかし、治療を怠ると深刻な障害を引き起こす可能性があるため、診断後は一生にわたる食事管理が必要となります。

フェニルケトン尿症の原因

フェニルケトン尿症の主な原因は、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)という酵素の欠損または機能低下によるものです。この酵素は、フェニルアラニンをチロシンという別のアミノ酸に変換する役割を持っています。しかし、この酵素が正常に働かない場合、フェニルアラニンが分解されずに体内に蓄積してしまい、特に脳の発達に悪影響を与えます。 フェニルケトン尿症は、常染色体劣性遺伝という遺伝形式で受け継がれます。つまり、両親の双方が変異した遺伝子を持っている場合に発症します。両親がともに保因者である場合、子どもがこの病気を発症する確率は25%です。一方で、両親のどちらかが保因者であるだけの場合、子どもは発症しませんが、遺伝子を受け継ぐことで次世代に病気が現れる可能性があります。 また、フェニルアラニン水酸化酵素自体には異常がなくても、補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成や再生に異常がある場合、同様にフェニルアラニンの代謝が正常に行われなくなります。この場合は「マウリツィオ・レボラート(Malignant PKU)」と呼ばれ、通常のフェニルケトン尿症よりも重篤な症状を引き起こすことがあります。

フェニルケトン尿症の前兆や初期症状について

フェニルケトン尿症の新生児は、生まれた直後は健康に見えます。しかし、治療を行わずにフェニルアラニンの蓄積が進むと、生後数カ月以内に発達の遅れや神経症状が現れ始めます。特に、知的発達の遅れが顕著になり、適切な治療を行わなければ、学習障害や言語の発達遅延が見られることがあります。 また、フェニルアラニンの過剰な蓄積は、脳の正常な発達を妨げるだけでなく、神経伝達物質のバランスを崩すこともあります。そのため、けいれん発作や筋緊張の異常が見られることがあり、注意力が散漫になるなどの行動上の問題も生じることがあります。 さらに、フェニルケトン尿症の患者の特徴として、皮膚や髪の色が薄くなることが挙げられます。これは、フェニルアラニンが適切に代謝されないために、メラニンの生成が不足することが原因です。そのため、髪が金髪に近い色になったり、肌が非常に白くなったりすることがあります。 その他の特徴として、汗や尿が通常よりも強い「カビ臭さ」を持つことがあります。これは、体内でフェニルアラニンが分解されず、代謝産物が尿や汗に排出されるためです。この特有のにおいは、診断の手がかりになることがあります。

フェニルケトン尿症の検査・診断

フェニルケトン尿症は、新生児スクリーニングによって早期に診断されることが一般的です。日本では、生後4〜7日目に行われる「新生児マススクリーニング検査」において、血液中のフェニルアラニン濃度を測定することで診断が行われます。この検査で異常値が検出された場合、さらに詳しい血液検査を行い、確定診断を行います。 確定診断のためには、血液中のフェニルアラニンとチロシンの比率を測定し、フェニルアラニンが異常に高くなっていることを確認します。また、遺伝子検査を行い、PAH遺伝子の変異があるかどうかを調べることもあります。 さらに、フェニルアラニン水酸化酵素が正常に働いているかどうかを調べるために、BH4(テトラヒドロビオプテリン)負荷試験が行われることもあります。この試験によって、フェニルアラニンの代謝異常が酵素自体の欠損によるものか、それとも補酵素の異常によるものかを判別することができます。

フェニルケトン尿症の治療

フェニルケトン尿症の治療の基本は、フェニルアラニンの摂取を制限する食事療法です。フェニルアラニンは、肉や魚、卵、乳製品などのたんぱく質を多く含む食品に含まれているため、これらの摂取を大幅に制限し、フェニルアラニンを含まない特別なアミノ酸製剤を使用することで、必要な栄養を補います。 食事療法は生涯にわたって継続することが推奨されていますが、特に乳幼児期や成長期には厳密な管理が必要です。成人になっても、適切な食事制限を続けることで、認知機能の低下を防ぐことができます。 また、BH4が不足しているタイプのフェニルケトン尿症の場合、BH4製剤(クルナバンなど)が有効な治療法となります。この治療を行うことで、一部の患者では通常の食事が可能になる場合もあります。

フェニルケトン尿症になりやすい人・予防の方法

フェニルケトン尿症は遺伝性の疾患であるため、予防することは難しいですが、家族にこの疾患の既往がある場合、遺伝カウンセリングを受けることでリスクを把握することができます。特に、保因者であることが判明した場合、パートナーと遺伝子検査を行い、子どもが発症するリスクを知ることが重要です。 また、新生児スクリーニングを受けることで早期発見が可能となり、適切な食事管理を行うことで、健康的な生活を送ることができます。適切な治療を行えば、知的障害を予防し、普通の生活を送ることが可能です。

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