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巨人症
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

巨人症の概要

巨人症(先端巨大症)とは、「成長ホルモン(GH)」が過剰に分泌されることで極端な身長の発育を呈する疾患です。

巨人症は主に小児に発症し、成人期以降に同じく成長ホルモンの過剰分泌を呈する疾患は「先端巨大症」と呼ばれます。先端巨大症の発症率が100万人あたり3〜4人とされるのに対し、巨人症は100人あたり3人程度といわれています。
(出典:小児慢性特定疾病情報センター 「下垂体性巨人症」

成長ホルモンとは、脳の「下垂体」から分泌されるホルモンの一種です。名称の通り成長に必要なホルモンで、骨の先端部分に位置する軟骨や肝臓に作用するため、分泌されると骨が成長して身長が伸びます。

通常、成長ホルモンの分泌量は1日の間で変動し、夜間寝ている時の分泌量が最も多くなります。しかし、巨人症では下垂体の腫瘍などが原因で通常よりも成長ホルモンが過剰に作られ、身長が著しく伸びます。

巨人症の症状を認め下垂体に腫瘍がある場合は、腫瘍を摘出するための外科手術や薬物療法、放射線療法が検討されます。

巨人症

巨人症の原因

巨人症は、下垂体にできる「GH産生腺腫」という良性腫瘍が原因で発症します。GH産生腺腫から成長ホルモンが過剰に分泌されるものと、GH産生腺腫が周りの組織によって圧迫されるものに分かれます。

「マッキューン・オルブライト症候群」の合併症として起こることもあります。

巨人症の前兆や初期症状について

巨人症では通常の発育速度と比較して著しい成長の増加を認め、高身長を呈します。GH産生腺腫が周囲の組織に圧迫されている場合は、頭痛や視野障害を認めるケースもあります。

巨人症は、先端巨大症と比較して高身長以外の症状は出現しにくいことが特徴です。

巨人症の検査・診断

巨人症の検査では、血液検査や視力・視野検査、X線検査、MRI検査、CT検査などが行われます。
検査の結果、以下の診断基準に該当する場合には巨人症と診断されます。

巨人症の診断基準

  • 主症状
    ・顕著な身長の増加
    発育期は著しい身長の増加を認め、最終的に女性では175cm以上、男性では185cm以上の身長を認める場合
  • 検査結果
    ・血液検査で成長ホルモンと血中IGF-1(ソマトメジンC)の高値を認める場合
    ・CT検査やMRI検査で下垂体腺腫が認められる場合
    など
  • 主症状以外の症状(副症状)
    ・頭痛
    ・過剰な発汗
    ・視力障害、視野障害
    ・血糖値の異常
    ・睡眠時無呼吸症候群
    ・高血圧
    ・歯並びの異常(不正咬合)
    ・手根管症候群、変形性関節症
    ・手足や頭蓋骨の異常
    ・月経異常
    など
  • 条件
    「脳性巨人症」など他の疾患による高身長ではない場合

 
出典:一般社団法人日本内分泌学会「間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂)」

巨人症の治療

巨人症の治療では下垂体腺腫に対する治療や、ホルモン異常に伴う合併症に対する治療が行われます。

下垂体腺腫に対する治療

成長ホルモンの異常な産生の原因となる下垂体腺腫を取り除いたり、小さくしたりする治療が行われます。治療には外科手術と薬物療法、放射線療法があり、患者さんの状態に応じて選択されます。

外科手術

下垂体腺腫を取り除く「経蝶形骨洞的(けいちょうけいこつどうてき)下垂体腺腫摘出術」では、一般的に頭蓋骨を開かず鼻から器具を挿入し、腫瘍を摘出します。腫瘍が大きい場合には、開頭手術が必要になるケースもあります。切除可能な部位に腫瘍の一部が残っていたり、術後に再発を認めたりする場合には、再手術が行われることもあります。

薬物療法

薬物療法は、手術で腫瘍を完全に取り除けなかった場合などに行われます。薬物療法では、一般的に「ソマトスタチン誘導体」や「GH受容体拮抗薬」などの注射薬、「ドパミン作動薬」の内服薬が用いられます。

放射線療法

放射線療法は、術後に腫瘍の一部が残っていて症状が軽快しない場合や、薬物療法を行なっても十分な効果が得られない場合などに行われます。放射線療法では「ガンマナイフ」や「サイバーナイフ」などの定位的放射線治療が優先的に考慮されます。

ガンマナイフは、腫瘍がある部位にX線よりも短い波長の電磁波(ガンマ線)を照射する治療です。通常の放射線療法では、患部のみでなく周囲の組織にまで悪影響が及ぶリスクがありますが、ガンマナイフはガンマ線を照射した患部のみに作用します。

サイバーナイフは、自在に動くロボットのアームが患部に集中的に放射線を照射する治療法です。呼吸などの動きに合わせて動く腫瘍を追って放射線を照射できるため、ガンマナイフと同様、患部以外の正常な組織に与える影響が少ないことが特徴です。

合併症に対する治療

ホルモン分泌異常による合併症を認める場合には、それに対する薬物療法が行われます。

巨人症によって随伴する合併症には、「下垂体前葉機能低下症」や「中枢性尿崩症」などの内分泌疾患があります。

下垂体前葉機能低下症は、下垂体から分泌されるホルモンの一部または全部が十分に分泌されなくなる疾患で、疲れやすくなったり血圧が下がったりする「副腎不全症状」や、低体温、脈拍異常などを来す「甲状腺機能低下症状」などの症状を認めます。下垂体前葉機能低下症を呈する場合には、欠乏するホルモンを補充する治療が行われます。

中枢性尿崩症は、下垂体から分泌される「抗利尿ホルモン」の分泌が低下することで尿が大量に排泄される疾患です。発症を認める場合には、大量の尿が排泄されるのを抑える「デスモプレシン(DDAVP)」という薬剤が用いられます。

巨人症になりやすい人・予防の方法

下垂体腺腫を認める場合は、巨人症を発症するリスクがあるため、定期的に医師の診察や経過観察を受け、適切な治療を受けましょう。


関連する病気

  • 先端巨大症
  • マッキューン・オルブライト症候群
  • 下垂体前葉機能低下症
  • 中枢性尿崩症

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