監修医師:
林 良典(医師)
感電の概要
感電とは人体に電流が流れて何らかの障害を受けることです。
家庭用コンセントや家電製品からの感電、あるいは電気設備を取り扱う業務における感電、落雷による感電などがあります。
感電による人体の損傷を電撃傷といいます。
雷にうたれた場合は雷撃傷です。
感電で受傷するメカニズム
感電の際、人体は熱および電流によりダメージを受けます。
熱でのダメージは熱傷(やけど)の一種です。
熱は、体内を電流が流れる際の電気抵抗や、高電圧によるスパークで発生します。
体内では、流れた電流が大きい程発生する熱も大きく、深い部位でも熱損傷が起きる可能性が高まります。
また、高い電圧がかかった送電線などは、近付くだけで高熱を伴う持続的な放電が起きます。アーク放電といって、この熱で熱傷を負ったり、衣服に着火して広範囲の熱傷が発生したりします。
一方、電流そのものも筋収縮や神経伝達に影響を与えます。
5mAまでの微弱な電流であれば、ビリッとわずかな刺激を感じるのみで健康被害は生じません。
しかし10〜20mAをこえると、手や足の筋肉がけいれんしたり、神経の電気信号が乱れたりして、自分の意思で体を動かせなくなります。
50mA前後からは、気絶や体内の損傷、心拍の乱れ、呼吸への影響が起きる可能性が高まります。
心臓の電気信号が乱れると、不整脈や心停止が起こり、命に関わる危険性があります。
感電の重症度を左右する要因
電流が大きく、通電時間が長くなる程、人体へのダメージは大きくなります。
通電経路も重要です。
例えば右手から入って左手へ抜けるといった心臓を通る経路では、心室細動や心停止による死亡リスクが高まります。
電流は、人体に加わる電圧が高い程流れやすくなります。
身近な電気設備の電圧は以下のとおりです。
- 家庭用コンセント:100〜200V
- 電柱の電線:6,600V
- 電車の架線:数百〜数万V
- 鉄塔の送電線:数万V以上
雷は数百万から数億Vの高電圧ですが、通電時間が短いため体内の熱損傷は起きにくいとされます。
一方で、心停止が起きやすい、衝撃により鼓膜が破れる可能性、といった特有の危険があります。
感電の原因
感電の原因には次のようなものがあります。
- 家電製品や電気設備の不適切な使用
- 電線への接触
- 漏電
- 落雷
電気工事などの業務においては、ヒューマンエラーに起因する感電事故が少なくありません。
夏季には発汗により皮膚が電気を通しやすくなることや、保護具や防護具の使用を怠りがちになることから、感電事故の件数が増加します。
日常生活における感電の原因
日常生活においては、濡れた手で家電製品を操作したり、壊れた家電製品の使用により感電することがあります。
また、乳幼児の感電事故は以下のような原因が考えられます。
- 通電しているコードをなめた
- コンセントの差し込み口に金属を差し込んだ
屋外では電線に凧や釣竿が接触するなどして、高圧の感電事故が起こることも考えられます。
感電の前兆や初期症状について
労働現場では、いつもより疲れている、いつもと何か違う、といった違和感が事故のサインかもしれません。
落雷に関しては、空が暗くなってきた、雷注意報が発表されたなど、変化や情報をキャッチするのが大切です。
とはいえ多くの感電事故は突然発生します。火花や大きな音、乳幼児なら泣き声で気付くこともあるでしょう。感電直後の症状と受診先について説明します。
感電直後の症状
人体に一定以上の電流が流れると、電流の入口・出口となった部分の皮膚に電流斑と呼ばれるただれや黒焦げができます。
意識障害や手足の麻痺が起きることもあります。
電流が心臓を通ると心室細動や心停止を起こすかもしれません。
高圧や大電流では全身に熱傷を負うこともあります。
感電の受診先
感電した人の意識がない場合は、すみやかに救急車を呼んでください。
意識がはっきりしている場合も、体内での影響は見た目ではわかりません。
時間が経ってから重い症状が出現する可能性があるため、早めに救急外来を受診しましょう。
傷が小さいケースでも、見た目より深くまでダメージが及んでいる場合があります。感電の傷は形成外科や皮膚科で経過を見てもらいましょう。
感電の検査・診断
通電した部位を推定するには、感電時の状況を聞き取り、体表面の観察を行います。
電流が出入りした部分の皮膚には電流斑という損傷ができます。
落雷事故では電紋といって、電流の流れた方向に沿ってシダの葉状の軽い熱傷が生じることもあります。
これらをもとに、通電した部位を推定します。
ほかに血液検査、尿検査、画像検査、心電図検査などを必要に応じて行います。
血液検査・尿検査
血液検査と尿検査では、体内の損傷の程度を推定可能です。
腎機能の変化や感染の有無なども、必要に応じて血液検査で確認します。
画像検査
体内の損傷の様子を調べるため、必要に応じてレントゲンやCTなどの画像検査を行います。
特に高電圧による事故では、高所からの墜落や筋肉の痙縮などが原因で、電撃傷以外の傷を負っているケースも少なくありません。
心電図検査
電流の影響で不整脈が起きる場合があるため、心電図で心臓の状況を確認します。
遅れて不整脈が起きる場合に備えて、受傷後しばらくは継続して心電図を取るかもしれません。
感電の治療
感電の治療について、蘇生処置、全身管理、局所治療に分けて説明します。熱傷の治療に準じますが、異なる点もあります。
蘇生処置
感電で心肺停止に陥った場合は、胸骨圧迫やAEDによる蘇生処置を行います。
雷にうたれた場合は、ほかの原因による心肺停止よりも蘇生に成功する確率が高いとされており、すみやかな蘇生処置が特に重要です。
全身管理
通電による体内の損傷が疑われる場合や、熱傷の範囲が広い場合は慎重に全身管理を行います。
体内の組織や筋肉が損傷すると、腎臓の障害が起こり得ます。
腎障害を防ぐためには大量の点滴が必要です。
熱傷から感染が起きれば、抗菌薬の投与も行います。
全身の状態を観察しながら、状況に応じた治療を選択します。
局所治療
体表面に見える熱傷の治療は、通常の熱傷と同様です。
応急処置としては、流水で可能な限り冷やすのが大切です。
医療機関では傷の状態に応じて、創傷被覆材や軟膏で治療を行います。
広範囲が深くまで損傷した場合は、外科治療が必要となる場合も少なくありません。
損傷部位で内圧が高まる場合は、血管や神経が圧迫されないように、減張切開と呼ばれる外科的処置を行うことがあります。
損傷した組織が壊死すれば、外科的に切除する場合もあります。
血管の損傷によって血液が末梢まで届かなくなれば、四肢が壊死に至るかもしれません。
切断を余儀なくされ、義肢の装着やリハビリテーションが必要となるケースもあります。
感電しやすい人・予防の方法
電気設備に関わる仕事をしている人や乳幼児は、感電のリスクが高いといえます。
業務上および日常生活における感電対策と、落雷への対策を確認しましょう。
業務における感電対策
感電による労働災害は、以下のような対策を着実に実行することで予防につながります。
- 電気機器や配線の絶縁を良好に保つ
- 作業手順を遵守する
- 漏電遮断機を使用する
- 接地を確実に行う
毎年8月は電気使用安全月間と定められ、電気安全に関する注意喚起と啓蒙活動が行われています。
日常生活における感電対策
感電を予防するには、濡れた手で電気器具やコンセントを触らない、壊れている電気器具を使わないといった対策が有効です。
乳幼児の感電対策では、以下のような対策が考えられます。
- 家電を手の届く所に置かない
- コードが外れない製品を選ぶ
- 使っていないコンセントを家具などで隠す
コンセントにはめこむキャップは、生後6ヶ月未満の子どもでも外すことができたとの報告があり、過信しないことが大切です。
屋外では電線のほか、電車の架線も危険です。
- 切れた電線に近寄らない
- 電線の近くで凧揚げなどをしない
- 駅ホームで長い物を掲げない
落雷への対策
落雷に関しては、気象情報の確認が一番の予防策です。
雷注意報が出ている場合や雷雲が近づいている場合は、屋外でのスポーツやレジャーをためらわず中止してください。
雷が鳴っているときは、以下のような場所に避難しましょう。
- 建物の中
- 金属に囲まれた場所(車の中、鉄塔の下など)
建物の中ではコンセントから落雷電流が入り込むケースもあるため、コードのつながった家電製品からは離れておきましょう。
雷は高い物に落ちやすいため、完全に接地された電柱の近くは安全といえます。
しかし、接地されていない柱や高い木などからは、側撃雷が飛んでくることがあるため、近付きすぎてはいけません。
また、雷は地面を這うこともあります。
やむを得ず屋外で待機する場合は腹ばいにならず、しゃがんで身を低くしましょう。
地面からの電流が心臓に届きにくくなります。
参考文献
- 電撃傷|医学用語解説集|日本救急医学会
- 電撃傷|日本創傷外科学会
- 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)|日本皮膚科学会
- 感電災害の防止対策|日本電気技術者協会
- 感電の基礎と過去30年間の死亡災害の統計(2009年)|独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
- いたずら防止用コンセントキャップに関する調査 平成 24 年 6 月 東京都生活文化局消費生活部
- コンセントに鍵を差し込んだことによる手掌電撃傷|日本小児科学会
- コヘアアイロンによる口腔内電撃症(熱傷)|日本小児科学会
- 高圧電流による電撃傷の 4 症例(日救急医会関東誌 43(4),2022年)
- 両側下腿切断を要した電撃傷の1例(仙台市立病院医誌 20,7174,2000)
- 雷から命を守るための心得|日本大気電気学会