監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
臍ヘルニアの概要
臍ヘルニアは、腹部の内容物(主に腸管や腹膜)が腹壁の弱い部分、特に臍(へそ)の部分から突出する状態を指します。
この疾患は新生児や乳児に多く見られますが、成人でも発症することがあります。多くの場合、痛みを伴わず、生命を脅かすものではありませんが、適切な管理と治療が必要です。
臍ヘルニアの原因
臍ヘルニアの主な原因は、腹壁の筋肉や結合組織の脆弱性です。
新生児や乳児の場合、出生時に臍帯が落ちた後の腹壁の閉鎖が不完全であることが原因となります。これは臍輪閉鎖不全と呼ばれる状態です。
一方、成人の臍ヘルニアは、腹圧の上昇や腹壁の脆弱化によって引き起こされます。先天的な腹壁の脆弱性が基礎にある場合もありますが、後天的な要因も大きく関与しています。例えば、妊娠や出産による腹壁の伸展は、女性の臍ヘルニア発症リスクを高める重要な要因です。また、肥満や急激な体重増加も腹壁に過度な負担をかけ、ヘルニアの発症を促進する可能性があります。さらに、腹水や腹部腫瘍による腹圧の持続的な上昇も、臍ヘルニアの発症リスクを高めます。日常生活においては、慢性的な咳や便秘、重い物の持ち上げなどによる腹圧の急激な上昇が、臍ヘルニアの発症や悪化につながることがあります。
これらの要因が単独または複合的に作用することで、腹壁の弱い部分が押し広げられ、臍ヘルニアが形成されます。
臍ヘルニアの前兆や初期症状について
臍ヘルニアの初期症状は比較的軽微であり、多くの場合視覚的な変化が最初の兆候となります。
主な症状は以下の通りです。
- 臍の膨らみ:
最も一般的な症状で、特に立位や腹圧が上がる動作時に顕著になります。 - 違和感:
臍周囲に軽度の不快感や違和感を覚えることがあります。 - 痛み:
多くの場合痛みはありませんが、大きなヘルニアや嵌頓した場合に痛みを感じることがあります。 - 色の変化:
ヘルニアの部分が皮膚の色と異なって見えることがあります。 - 触診時の感覚:
臍部を押すと柔らかく、中に何かが入っているような感覚があります。
これらの症状は、体位や腹圧によって変化することが特徴的です。
例えば、横になると膨らみが減少し、立ち上がったり咳をしたりすると膨らみが増大することがあります。
臍ヘルニアの検査・診断
臍ヘルニアの診断は、主に以下の方法で行われます。
視診と触診
医師が臍部の膨らみを観察し、触診を行います。
これにより、ヘルニアの大きさや還納性(押し戻せるかどうか)を評価します。
超音波検査
非侵襲的で安全な検査方法であり、ヘルニアの内容物や大きさを詳細に観察できます。
特に小児の場合に有用です。
CT検査
より詳細な画像が得られ、ヘルニアの正確な大きさや内容物、周囲の解剖学的構造を評価できます。
成人の場合や、合併症が疑われる場合に実施されることがあります。
MRI検査
これらの検査により、臍ヘルニアの診断だけでなく、その大きさ、内容物、還納性、周囲組織との関係など、治療方針を決定するための重要な情報を得ることができます。
臍ヘルニアの治療
臍ヘルニアの治療方針は、患者の年齢、ヘルニアの大きさ、症状の有無、合併症のリスクなどを考慮して決定されます。主な治療法は以下の通りです。
経過観察
- 新生児や乳児の場合、多くは自然に閉鎖するため、2-4歳まで経過観察されることが一般的です。実際、2歳までに約90%が自然治癒するとされています。
- 成人の小さな無症状のヘルニアでも、経過観察が選択されることがあります。
保存的治療
- 小児の臍ヘルニアにおいては、保存的治療が効果的な場合があります。
- 近年、成人においても保存的治療の効果について報告されています。
- ただし、小児の臍突出症のうち、瘢痕によって形成されたヘルニアを伴わない”でべそ”においては保存的治療は無効です。
手術治療
手術方法には主に以下の2種類があります。
- 開腹手術:
臍周囲に切開を加え、直接ヘルニア門を縫合閉鎖します。 - 腹腔鏡手術:
小さな切開を数か所設け、腹腔内からメッシュを用いてヘルニア門を補強します。 成人では meshを用いた手術が選択されることもありますが、小児ではヘルニア囊および腹直筋膜の縫合閉鎖が標準的です。余剰皮膚の大きい症例では、整容的観点から臍形成も必要となることがあります。
※以下のような場合に手術が考慮されます。
- 2歳を過ぎても自然閉鎖しない症例
- 頻度はまれですが、嵌頓を起こした症例
- ヘルニア門は閉鎖したが余剰皮膚が大きく残存した症例
- 成人の症候性ヘルニア
- 大きなヘルニア(直径2cm以上)
合併症への対応
嵌頓や絞扼が生じた場合は緊急手術の適応となります。
臍ヘルニアの治療、特に手術療法の選択に関しては、個々の症例に応じて慎重に判断する必要があります。医師と患者が十分に相談し、最適な治療法を選択することが重要です。
なお、成人の臍ヘルニアは自然閉鎖しないため、多くの場合手術の対象となります。一方、小児の臍突出症のうち、臍ヘルニアのみが保存的治療の対象となり得ることに注意が必要です。
臍ヘルニアになりやすい人・予防の方法
臍ヘルニアになりやすい人
臍ヘルニアになりやすい人には、いくつかの特徴があります。
新生児や乳児の場合、早産児や低出生体重児がリスクが高いとされています。
成人では、肥満、妊娠・出産経験、慢性的な咳や便秘、重量物の持ち上げを頻繁に行う職業の人などがリスク群に含まれます。また、腹部手術の既往がある人や、家族歴のある人も臍ヘルニアのリスクが高くなる傾向があります。
予防の方法
臍ヘルニアの予防には、リスク因子を可能な限り減らすことが重要です。
具体的には、適正体重の維持、バランスの取れた食事と適度な運動、便秘の予防、重い物を持ち上げる際の正しい姿勢の維持などが挙げられます。
妊娠中や出産後の女性は、腹部の筋力を維持するためのエクササイズを医師や理学療法士の指導のもとで行うことが推奨されます。ただし、先天的な要因や避けられない状況(例:妊娠)によって臍ヘルニアが発症することもあるため、完全な予防は困難です。そのため、定期的な健康診断や自己チェックを行い、早期発見・早期対応に努めることも重要な予防策の一つと言えます。
臍ヘルニアは、適切な管理と必要に応じた治療により、多くの場合良好な経過をたどります。しかし、症状が気になる場合や増悪傾向がある場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医の診断を受けることをお勧めします。
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