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ビタミンD欠乏症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ビタミンD欠乏症の概要

ビタミンD欠乏症は、骨や筋肉、免疫などに重要なはたらきのあるビタミンDが足りなくなることによる病気です。骨に関する症状が出ることが一般的で、小児では「くる病」青年期や成人期では「骨軟化症」とよばれます (参考文献 1) 。
くる病や骨軟化症として気づかれなくても、骨折や骨粗しょう症の原因を調べていくうちにビタミンD欠乏症が明らかになることがあります (参考文献 2) 。
病歴や血液検査の結果からビタミンD欠乏症であると診断されれば、その欠乏度に応じてビタミンD製剤を内服して治療していきます (参考文献 3) 。
予防のためにはビタミンDが多く含まれるサケやマグロ、サバといった食品を摂取することが有効ですが、ビタミンDが多く含まれる食品は限られるため、サプリメントによる補充も選択肢の一つです (参考文献 1, 2) 。また、皮膚が日光に当たることでもビタミンDが産生されるため、日光浴も欠乏症予防に一定の効果があるといえるでしょう (参考文献 4) 。

ビタミンD欠乏症の原因

ビタミンD欠乏症は、その名の通りビタミンDが必要量に対して足りなくなる病気です。ビタミンDは主に骨を強く保つために重要なもので、必要な分を摂取できていない状態が続くと骨が弱くなって「くる病」「骨軟化症」という病気につながることがあります (参考文献 1) 。
ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を増やすほか、血中のカルシウム濃度とリンの濃度を適切な範囲に保つことで正常な骨形成のサイクルを維持したり、血中のカルシウム濃度が低くなりすぎないようにします (参考文献 1) 。
その他にも筋肉のはたらきや免疫、心血管系を健康な状態に保つことにも、ビタミンDは一役買っていることが知られています (参考文献 1, 2) 。

ビタミンD欠乏症の前兆や初期症状について

小児の場合は「くる病」として症状が現れます。くる病は骨が適切なミネラル化がされないことによる病気で、骨の変形や痛みが代表的な症状です (参考文献 1) 。重症になると発育に悪影響が出たり、低カルシウム血症による症状、痙攣、心筋の病気、歯の異常が現れることがあります (参考文献 1) 。
青年期や成人にくる病のような症状が出た場合は骨軟化症とよばれます。
ビタミンDが欠乏して明らかな自覚症状が現れることは、日本のような先進国では比較的稀ですが、気づかれないままビタミンD欠乏症が進んで骨粗鬆症や骨折につながることはあります (参考文献 2) 。
骨粗鬆症や繰り返す骨折などといった症状に悩んでいる方は、お近くの整形外科を受診して原因をしっかり調べて、適切な治療を受けましょう。

ビタミンD欠乏症の検査・診断

後ほど紹介するリスク要因の有無や患者個人の病歴から、ビタミンD欠乏の可能性があると判断されれば、血液中のビタミンD濃度の測定をします。血液中のビタミンD濃度によってどれだけビタミンDが欠乏しているか判断し、治療方針を決定していきます (参考文献 3) 。
実際に骨に関する症状が出ている、出ていることが疑われる場合には、X線写真を撮影することで骨の状態を評価することも診断に有用です (参考文献 3) 。

ビタミンD欠乏症の治療

各種検査の結果ビタミンDが欠乏していると判断されれば、ビタミンD製剤の内服による治療を始めます (参考文献 2, 3)。。
ビタミンD欠乏症の臨床症状や病型には色々なものがあり、治療戦略は患者さんごとに決めていきますが、ビタミンD製剤の内服を長期間続けなければいけない場合も多いです (参考文献 3)

ビタミンD欠乏症になりやすい人・予防の方法

ビタミンD欠乏症になりやすい人としては次のようなものが知られています (参考文献 1) 。

母乳栄養の乳児

母乳だけでは乳児に十分なビタミンDを与えられないことが知られています。ビタミンDの補充なしに完全母乳栄養を長期間続けることはビタミンD欠乏症のリスクになるとされています。

高齢者

高齢になり皮膚によるビタミンD生成能力が落ちることや、室内で過ごす時間が増えることがリスクとされています。

日光にあたる時間が少ない人

脂肪を吸収しにくい背景がある人

ビタミンDは脂肪に溶けるという特徴があります。脂肪を吸収しにくくなるような背景、具体的には肝臓病やクローン病、潰瘍性大腸炎などに罹患している人、乳製品など脂肪性食品の摂取量が少ない人はビタミンDが欠乏するリスクが高いです

肥満や胃バイパス手術を受けたことがある人

肥満の場合は皮下脂肪などにビタミンDが閉じ込められてしまうほか、胃バイパス手術を受けると、ビタミンDが吸収される上部小腸を食べ物が迂回してしまうため、ビタミンDが吸収されずらくなってしまいます。

身体の中のビタミンDを増やす方法は①ビタミンDの多く含まれる食品を摂取すること②太陽の光に当たることの2つです。前提として、日本人では一日あたり 15 μg のビタミンDを食事と日光から身体の中に取り入れたいとされています (参考文献 4) 。

ビタミンDの多く含まれる食品としては脂肪性の魚 (サケ、マグロ、サバなど) や魚肝油があるほか、牛のレバーやチーズ、卵黄、キノコにもビタミンDが含まれていることが知られています (参考文献 1) 。
日本の食事摂取基準では、一日あたり食事からビタミンDを 10 μg 程度摂取したいとされていますが、成人のビタミンD摂取量は約 8.5 μg/日 とされており、少し少ない状況です (参考文献 4) 。

ビタミンDを比較的多く含む食品を普段の食生活に取り入れることはビタミンD欠乏症の予防になるといえるでしょう。また、乳製品の中にはビタミンDが添加されたものがあるので、意識的にそれらのビタミンD添加食材をレシピに取り入れてみることもよいかもしれません。これらが難しければ、ビタミンDのサプリメントを摂取してみることもよいでしょう。

また、UVB とよばれる紫外線にあたることでビタミンDが生成されるため、理論上は日光浴がビタミンDの予防になります。しかしながら、皮膚の色や季節、時間帯など多くの要因によってビタミンD欠乏症の予防に有効な日光浴の時間は変わってくるため、明確な目安をつくることは難しいとされています (参考文献 1) 。
日本における報告 (参考文献 4) を参考にすると、顔と両手を露出した状態でおよそ 5.5 μg のビタミンDを産生するために必要な時間は、夏だと札幌・那覇ともに晴天の日で10分前後、冬の札幌であれば晴天の昼でも75分程度、那覇だと冬の晴天の昼で7.5分と、地域や季節、さらには天気や時刻によっても大きく差があることが報告されています。

また、UVBはガラスを通り抜けられないため、窓際で日光浴をしてもビタミンDは作られません (参考文献 1) 。
紫外線への曝露は皮膚の癌にもつながるため、日光浴のやりすぎはしないようにしましょう。


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