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神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

プリオン病の概要

プリオン病とは、異常なプリオンタンパクが体内で蓄積することで症状を引き起こす病気の総称です。
主に中枢神経に蓄積し、急速に症状が進行し、致命的な経過をたどります。
明確な治療法はなく、稀な疾患群のひとつで、日本では指定難病となっています。
代表は孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病ですが、そのほか、遺伝性のゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病や致死性家族性不眠症も知られています。
さらに、異常なプリオンタンパクを取り込むことで発症する異常型クロイツフェルト・ヤコブ病、クールーなどもあります。
また、プリオン病は人獣共通感染症といわれており、ヒトだけでなく牛や鹿などの動物にも発症します。
牛のプリオン病のひとつが牛海綿状脳症(BSE)です。
2001年ころ、BSE問題として世間を賑わせ、牛肉の輸入停止の騒ぎとなったことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

プリオン病の原因

プリオン病の原因となるプリオンタンパクは通常でも体内に存在しています。
どのような働きがあるのか正確にはわかっていません。
神経細胞や免疫担当細胞の中に存在しており、一説には、神経や免疫担当細胞自体の維持や機能にかかわっているとされています。
この正常なプリオンタンパクがなんらかの原因で修飾され異常なプリオンタンパクとなることが原因でプリオン病を発症します。
異常なプリオンタンパクは構造が変化しており、免疫系で除去されにくくなっており、生体内に蓄積しやすくなっています。
そのため、はじめは免疫系である脾臓やリンパ節に蓄積します。
次いで中枢神経などへ進展し、蓄積していくことで種々の症状を引き起こすとされています。

プリオン病の前兆や初期症状について

まずは、プリオン病の代表であるクロイツフェルト・ヤコブ病について説明していきます。
クロイツフェルト・ヤコブ病の症状は3つの段階に分けられます。

第1期

第1期は非特異的症状が出現します。
具体的には、めまいやふらつき、倦怠感、活気がなくなり活動量が減るといった症状です。
この段階で確定診断に行きつくことは少ないかもしれません。

第2期

第2期では、クロイツフェルト・ヤコブ病に特徴的な症状が出現します。
特に認知機能の低下は著しく、数週間から数か月のうちに意思疎通が図れなくなります。
その間には、ミオクローヌスという手足の震えや小脳失調が出現します。
進行に伴い歩くことができなくなり、最終的には寝たきりとなります。

第3期

第3期では、寝たきりの状態が悪化し、まったく喋らず、動かなくなり、さらに手を屈曲し、脚を伸展させる除皮質硬直がみられるようになります。
このような状態が長く続くと関節が固まり拘縮します。
第2期には見られるミオクローヌスは、この時期になると消失するのも特徴です。

多くの方は、第2期のクロイツフェルト・ヤコブ病に特徴的な症状をきっかけに診断をされます。
気になる症状がある方は、脳神経内科を受診しましょう。

ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病は、症状は比較的クロイツフェルト・ヤコブ病に類似します。
家族性のため同じ家系内に同じような症状をもつ方が多発します。
発症はやや若年で40代が多いですが、進行は緩やかです。
しかし、確実に進行し、平均5年で死亡します。

致死性家族性不眠症も遺伝性の病気です。
しかし、最近の知見では遺伝子異常があってもすべての方が発症するわけではないことがわかりました。
平均して40代で発症し、夜に興奮したり、幻覚を見たりすることで眠れなくなります。
クロイツフェルト・ヤコブ病と同様に、数か月で進行します。
進行すると自律神経の症状として異常高血圧や異常発汗なども見られます。
末期になるとミオクローヌスなどが出現し、寝たきりを経て死亡します。

プリオン病の検査・診断

症状からプリオン病を疑った場合に、はじめに検査としてもっとも有用なのは頭部MRI検査です。
頭部MRI検査では、尾状核頭を中心とした基底核および大脳皮質に異常がみられます。
拡散強調画像で前述の部位が高信号として描出されることが特徴です。
T2強調画像やFLAIR (FLuid-Attenuated Inversion Recovery)でも同様の部位が高信号になります。
特に皮質の異常高信号は、皮質に限局しており白質には及んでいないことが重要です。
次に脳波検査を行います。
背景脳波(基礎律動)の徐波化と周期性同期性発射が特徴です。

以上の検査でプリオン病を疑った場合は、さらに脳脊髄液検査を行います。
腰椎穿刺を行い、得られた脳脊髄液に含まれる14-3-3蛋白とtau蛋白を検査します。
近年では、RT-QuIC (Real-Time Quaking-Induced Conversion)法という新しい検査法が開発され、より鋭敏に異常プリオン蛋白を検出できるようになりました。
遺伝子変異が確定しているプリオン病においては、該当する遺伝子検査が追加されます。
ここまでの検査結果を併せて、臨床診断を行い、プリオン病らしさを評価します。
しかし、確定診断は現在でも病理学的診断になっています。
そのため、多くの場合は亡くなってから脳組織を検査し、異常プリオン蛋白やプリオン病に特徴的な病理所見が証明されることで確定します。

プリオン病の治療

残念ながらプリオン病に対する確実な治療法は確立していません。
そのため、出現する症状に対応した治療をおこなっていくことになります。
ふらつきなどに対しては、リハビリテーションにてできるだけ機能を落とさないように注意します。
ミオクローヌスに対して抗けいれん薬などを用いて発作の頻度を抑えます。
拘縮が進んでくると筋肉の緊張をとる注射を行うこともあります。
このように出てくる症状に対応した治療を行い、できるだけ生活の質を落とさないよう支持的な治療を心がけています。

プリオン病になりやすい人・予防の方法

プリオン病の中のほとんどは孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病です。
明らかな原因も不明であり、明確な予防法などは不明です。
なりやすさも分かっていません。
一方で、原因がわかっているものもあります。
獲得性プリオン病は、1970年代後半から1990年代前半までに実施された脳神経外科手術において、使用されたヒト由来乾燥硬膜に関連しています。
異常プリオン蛋白を産生するヒト由来乾燥硬膜を移植された患者が、プリオン病を発症しました。
現在では使用されていない手術材料ですが、当該時期に脳神経外科手術を受けた方は注意が必要です。

また、非常に稀な疾患ですが、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病にも注意が必要です。
牛海綿状脳症(BSE)にかかっている牛の中枢神経部位を食べることで発症すると推定されています。
以前のイギリスを中心とした国々では、食肉加工の段階で脊髄などの中枢神経部位が除去されずに加工されていました。
異常プリオン蛋白を含んだ中枢神経部位が混入していたようです。
異常プリオン蛋白を含む加工肉を食べることで、特にイギリスを中心に変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が発症しています。
現在は多くの国々では中枢神経部位を除いて加工するような対策がとられています。
そのため、2000年代より前にイギリスを中心としたヨーロッパに滞在していた方は注意が必要です。

また、プリオン病は人獣共通感染症です。
食べ物が原因でプリオン病を発症することも考えられます。
特に海外を含む旅行先では、部位のわからない肉類は控えることがよいでしょう。

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