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ムコ多糖症
山田 克彦

監修医師
山田 克彦(佐世保中央病院)

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大分医科大学(現・大分大学)医学部卒業。現在は「佐世保中央病院」勤務。専門は小児科一般、小児循環器、小児肥満、小児内分泌、動機づけ面接。日本小児科学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医。

ムコ多糖症の概要

ムコ多糖症は、遺伝性かつ進行性の病気であり、体内のムコ多糖の分解する酵素が欠損しているか、または機能不全に陥ることで発症します。ムコ多糖が細胞内に蓄積し、さまざまな臓器や組織に障害を引き起こします。

ムコ多糖症には7つの病型があり、代表的な病型としてはムコ多糖症I型(ハーラー症候群)、ムコ多糖症II型(ハンター症候群)、ムコ多糖症III型(サンフィリッポ症候群)、ムコ多糖症Ⅳ型(モルキオ症候群)、ムコ多糖症Ⅵ型(マロト・ラミー症候群)、ムコ多糖症Ⅶ型(スライ症候群)が挙げられます。欠損している酵素や蓄積しているムコ多糖の種類、症状の重篤度によって分類され、総称としてライソゾーム病とも呼ばれます。

赤ちゃんの頃は目立った症状は見られませんが、徐々に悪化し、3~5歳になると骨の変形、関節の硬直、特徴的な顔貌などがはっきりあらわれてきます。
出典:国立生育医療研究センター「ムコ多糖症」
また、脳や神経系が影響を受ける場合もあり、発達障害などを伴うことがあります。

ムコ多糖症Ⅱ型がムコ多糖症の過半数を占め、男児53000人につき1人の発症割合と推測されています。
出典:日本先天代謝異常学会「ムコ多糖症(MPS)Ⅱ型診療ガイドライン」

治療には、酵素補充療法や造血幹細胞移植が主に用いられ、並行して症状の進行を遅らせる対症療法も行います。

ムコ多糖症

ムコ多糖症の原因

ムコ多糖症は、ムコ多糖を分解する酵素が欠損もしくは機能不全をきたしていることが原因です。本来、ムコ多糖は細胞内のライソゾームという場所で、酵素がムコ多糖を段階的に分解していきます。しかし、ムコ多糖症の患者は、酵素のうちのいずれかが欠損しているか、または十分に機能しないため、ムコ多糖が完全に分解されません。その結果、ムコ多糖が細胞内に蓄積し、さまざまな臓器や組織に障害を引き起こします。

ムコ多糖症Ⅱ型はX連鎖潜性(劣性)遺伝の形式で遺伝します。この遺伝形式は母親が保因者の場合、生まれた男の子が50%の確率で発症し、女の子が生まれた場合は発症しませんが、保因者となる確率は50%です。
Ⅱ型以外は常染色体性潜性(劣性)遺伝の形式で遺伝します。両親からそれぞれ1つずつの異常な遺伝子を受け継ぐことで発症し、両親ともに保因者である場合に、子供がムコ多糖症を発症する確率は、男女関係なく25%です。
出典:日本ムコ多糖症患者家族の会「ムコ多糖症とは?」

ムコ多糖症の各型は、それぞれ原因の酵素やムコ多糖が異なります。たとえば、ムコ多糖症I型(ハーラー症候群)は「α-L-イズロニダーゼ」という酵素の欠損が原因です。この欠損により、デルマタン硫酸やヘパラン硫酸と呼ばれるムコ多糖が体内で蓄積します。他のタイプでは、異なる酵素やムコ多糖が原因となっていて、それぞれの病型によって症状の進行や重症度、症状が異なります。

ムコ多糖症の前兆や初期症状について

病型や重症度によって異なりますが、ムコ多糖症の一般的な初期症状として、新生児期に見られる蒙古斑(青あざ)や特徴的な顔貌が見られます。顔立ちに関しては、丸みを帯びており、鼻の広がりや唇の厚さが特徴的で、病気の進行に伴い、徐々に顕著になります。

他にも以下のような症状が見られます。

  • 皮膚症状:臍ヘルニア、鼠径ヘルニア、異所性蒙古斑など
  • 骨や関節症状:関節拘縮、骨変形など
  • 中枢神経症状:神経学的退行、知的障害、精神発達遅滞など
  • 眼症状:角膜混濁、緑内障など
  • 耳鼻咽喉症状:慢性的な鼻漏、巨舌、難聴など
  • 呼吸器症状:気管支の狭窄、閉塞性呼吸障害など
  • 心臓血管異常:心弁膜症など

同じ病型であっても、残存している酵素の機能の違いによって進行速度や症状が現れる時期が異なります。また、単独症状だと他の一般的な病気と区別が難しいですが、複数の症状が同時に現れた場合は、ムコ多糖症である可能性を考えて、早めに診察を受けることが重要です。

ムコ多糖症の検査・診断

症状や身体的な特徴からムコ多糖症が疑われる場合は、尿中ムコ多糖分析を行います。その後、確定診断として、遺伝子検査、酵素活性測定などを行います。

尿中ムコ多糖測定

ムコ多糖が尿中にどれだけ排出されているかどうかを調べることで、ムコ多糖症かどうか、その病型の推測ができます。ムコ多糖が高濃度で検出された場合、ムコ多糖症が疑われます。簡単に検査できるため、早期診断のためのスクリーニングとして広く用いられる検査方法となっています。

遺伝子検査

ムコ多糖を分解する酵素の遺伝子に変異がないかを確認する検査です。酵素の欠損あるいは機能不全の根本的な原因は、遺伝子の変異であるため、この遺伝子検査はムコ多糖症の診断を確定させるのに重要な検査となります。また、診断だけでなく、家族にムコ多糖症の発症リスクがあるかどうかを調べるために行われることもあります。

酵素活性測定

血液や白血球、皮膚細胞を用いて酵素の活性を測定します。遺伝子検査とともに確定診断するために用いられ、ムコ多糖症の病型を特定することが可能です。

ムコ多糖症の治療

ムコ多糖症の治療は、酵素補充療法 (ERT)や造血幹細胞移植が主に行われます。

酵素補充療法は、ムコ多糖症の治療において最も用いられている治療方法です。ムコ多糖症だと診断が確定している場合は、いずれの病型においても適用できます。酵素補充療法では、欠損している酵素を投与することで、ムコ多糖の蓄積を減らし、症状の進行を遅らせることができます。しかし、投与された酵素は短期間で分解されるため、週に1回、静脈注射での投与を永続的に続ける必要があります。中枢神経症状や発達の遅れに対する効果は期待できませんが、心臓や呼吸器など多くの臓器の症状改善に一定の効果が期待できると報告されています。

造血幹細胞移植は、健常者の造血幹細胞(赤血球や白血球、血小板の基になる細胞)を移植することで、体内で正常な酵素を作る方法です。酵素補充療法と異なり、中枢神経症状や発達の遅れに対して効果があると考えられていますが、必ずしも移植可能なドナーが見つかるとは限らないこと、また移植関連死亡など重篤な副作用が生じるリスクがあることを考慮する必要ががあります。

ムコ多糖症になりやすい人・予防の方法

ムコ多糖症は遺伝性の病気であるため、両親が保因者である場合に発症するリスクが高まります。結婚前もしくは妊娠前の遺伝子検査や、妊娠中に胎児の状態を調べる「出生前診断」を行うことでムコ多糖症のリスクがあるかどうかを事前に知ることができます。出生前診断では、羊水や絨毛を調べる検査を通じて、胎児の発症リスクを確認できます。

また、自治体によっては「新生児マススクリーニング」の検査項目でムコ多糖症(希望者のみ有料で実施)が含まれていることもあります。新生児マススクリーニングとは、赤ちゃんが先天性代謝異常などの病気をもっていないかを調べる検査方法です。生後すぐに検査を受けることで、早期にムコ多糖症への罹患を発見し、即座に適切な治療を始めることができます。


関連する病気

  • 呼吸不全
  • ライソゾーム病
  • GM1ガングリオシドーシス
  • GM2ガングリオシドーシス
  • ムコリピドーシスII型、III型
  • ガラクトシアリドーシス
  • ポンペ病
  • シスチン症

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