監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
ハンチントン病の概要
ハンチントン病は、遺伝によって発症する神経変性疾患です。
1872 年、医師ジョージ・ハンチントンが アメリカ合衆国のニューヨーク州で遺伝性舞踏病を診察したことが名称の由来になりました。
以前は「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていましたが、舞踏病運動のみ が主症状ではないことから、ハンチントン病と名称が変更されました。
主な症状として、体が勝手に動く不随意運動(舞踏病運動)、精神症状、認知障害を引き起こします。
原因は、ハンチンチン遺伝子のCAG3塩基繰り返し配列が異常に伸びることであり、ここにはCAG繰り返し配列による特徴的なDNA構造が関与しているのでは、と考えられています。
病気の進行は10〜20年とされ、軽微な症状から徐々に進行していきます。死因は低位栄養、感染症、窒息、外傷、不随意運動による転落、自殺が多く報告されています。
ハンチントン病は、常染色体優性遺伝の形式で遺伝します。親のどちらかがこの遺伝子を持っている場合、性別にかかわらず、子どもにも50%の確率で遺伝することがわかっています。
発症年齢は30〜40歳が最多ですが、小児期から老齢まで罹患の可能性があります。国内の有病率は10万人あたり0.7人です。
(出典:ハンチントン病研究グループ「ハンチントン病と生きる」)
現在のところ根本的な治療法はなく、対症療法が行われています。
ハンチントン病の原因
ハンチントン病の原因は、第4染色体にある遺伝子(IT15またはハンチンチン)の異常です。
遺伝子には4種類の核酸があり、正常なIT15遺伝子にはシトシン・アデニン・グアニン(CAG)の3つの核酸が繰り返し配列されています。しかし、ハンチントン病の患者では、このCAGの繰り返しが異常に長くなっており、徐々に病状を悪化させます。IT15遺伝子の異常により40回以上のCAGリピート(繰り返し配列)が起こることで、ハンチントン病を発症します。36回以上のCAGリピートで発症の可能性があるといわれています。
若年発症ほどリピート数が多く、重篤であることがわかっています。また、世代を経るごとにリピート数が増加する傾向があります。
症状が進行すると、脳の中では尾状核(びじょうかく)という構造の中の、 ガバと呼ばれる興奮を押さえる作用を持つ神経細胞が死んでいきます。これは、IT15遺伝子からつくられるタンパク質がたまることが原因であると考えられています。異常なタンパク質が広がるにつれて、尾状核がやせていき、大脳皮質にも影響を及ぼします。
ハンチントン病の前兆や初期症状について
ハンチントン病の初期症状は些細なものがほとんどで、次第に悪化します。
前兆として、箸を使うことや字を書くことなどの細かい動作が難しくなったり、物を落としたり、転ぶことが増えたりなどの症状が現れます。
このような症状は、運動能力の低下からくる場合と、注意力散漫や感情の浮き沈みといった性格の変化からくる場合に分かれます。
特に、舞踏病運動と呼ばれる小刻みな動き(不随意運動)は、ハンチントン病の代表的な症状として知られています。
ハンチントン病で見られる不随意運動の例として、手を曲げたり伸ばしたりする動き、足を踏み出したり曲げたりする動き、舌を出したり引っ込めたりする動き、首を回す動き、首を後ろに伸ばしたりする動きなどが挙げられます。
また、注意力の低下や計画力の低下といった、認知面での能力低下や、感情の起伏・変動が激しくなったり、うつ症状を伴うという精神的な症状を伴うこともあります。なお、ハンチントン病では記憶障害は比較的軽く、認知症などの記憶障害とは症状が異なっています。
精神症状の具体例としては、怒りっぽくなる、情緒不安定になるなどが報告されており、幻覚や妄想が目立つケースも存在します。
これらの症状はいずれも初めは軽微です。症状は複合的に、慢性的に進行し、徐々に日常生活に支障をきたすようになります。
ハンチントン病の検査・診断
ハンチントン病の診断は、主に脳画像検査、神経学的検査、そして遺伝子検査を用いて行います。
まず、脳画像検査については、頭部CT・MRIにて大脳基底核の一部である尾状核(びじょうかく)と呼ばれる部位の萎縮がおこり、進行とともに全脳が委縮、それに伴い側脳室前角が拡大しているという特徴が、診断の一助となります。
また、脳血流シンチグラムでは前頭・側頭葉型の血流低下が認められます。
神経学的検査では、舞踏運動を中心とした不随意運動や、認知機能の低下、精神症状などを調べます。
なお、最終的には遺伝子検査(PCR法)により診断が確定されます。
ハンチントン病の特徴である、IT15遺伝子のCAGリピートの異常伸長が認められると、ハンチントン病であると確定します。
ハンチントン病の治療
現時点でハンチントン病を根本的に治す治療法はなく、症状を和らげるための対症療法が行われます。
具体的には、抗精神病薬を使用して不随意運動や精神症状を抑える方法があります。また、クレアチン、CoQ10、リルゾール、胆汁酸誘導体、多糖体などの投与が試みられていますが、有効性はまだ確立されていません。
リハビリテーションでは、理学療法や作業療法を通じて運動機能を維持します。
また、心理サポートとして、認知行動療法やカウンセリングを行い、精神症状の管理を行います。
これらの治療法を組み合わせることが一般的です。
ハンチントン病になりやすい人・予防の方法
ハンチントン病は遺伝性のため、家族にハンチントン病の患者がいる人はリスクが高くなります。
現在のところ、ハンチントン病の発症を予防する方法はありませんが、遺伝カウンセリングを受けることで、リスクや対策について理解を深めることができます。
遺伝カウンセリングでは、遺伝子検査の結果や家族歴を元に、今後の生活や計画について相談することができます。
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