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13トリソミー(パトウ症候群)
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

13トリソミー(パトウ症候群)の概要

13トリソミー(パトウ症候群)は、13番染色体が3本存在する染色体異常が原因となる遺伝子疾患です。正常なヒトでは22対の常染色体と1対の性染色体で計46本の染色体を持っていますが、13トリソミーの患者さんでは47本の染色体があります。この異常により、多くが流産や死産のほか、無事に出生しても重度知的障害や中枢性無呼吸を含む中枢神経系合併症、成長障害、心臓、消化器、尿路生殖器など多臓器の先天性構造異常やその他の臓器の異常が引き起こされます。13トリソミーは、1657年にトーマス・バルトリンによって初めて報告された症候群ですが、1960年にクラウス・パトウとイーヴァ・テルマンによって染色体の性質が明らかにされたため、パトウ症候群とも呼ばれます。13トリソミーは稀であり、出生10,000人に対して約1人の割合で発生します。この疾患は生存率が低く、多くの患者さんは生後1年以内に亡くなります。

13トリソミー(パトウ症候群)の原因

13トリソミーの主な原因は染色体の不分離によるものです。具体的には、精子または卵子の形成時に染色体が正しく分離されず、13番染色体を余分に持つ細胞が形成されます。以下に原因を詳しく説明します。

染色体の不分離

染色体不分離は、減数分裂の際に染色体が正常に分離しないことによって起こります。結果として、13番染色体を余分に持つ精子や卵子が形成されます。この細胞が受精することにより、基本的に全ての細胞が13トリソミーとなります。

モザイク型13トリソミー

全ての細胞が余分な13番染色体を持つわけではない場合、この状態はモザイク型13トリソミーと呼ばれます。この場合、一部の細胞は正常であり、症状が通常の13トリソミーよりも軽度であることがあります。

転座型

稀に、13番目の染色体の一部がほかの染色体に付着する転座型があります。この場合、親もバランスが取れつつも転座を持っていることがあり、遺伝性の要因となることがあります。

13トリソミー(パトウ症候群)の前兆や初期症状について

13トリソミーには多彩な身体構造上の異常があるため、詳しい超音波検査で出生前から先天異常が疑われることがあります。出生後は、一般的に予後不良なことから手術などの積極的な治療が行われない事がしばしばですが、手術によって生命予後の改善を目指す場合は、小児科や小児外科、耳鼻咽喉科や心臓血管外科などによる包括的な治療計画を立てる必要があります。

出生前の前兆

  • 胎児超音波検査 一般的な妊婦健診よりも詳しい検査で、小頭症、口唇口蓋裂、心臓の異常、多指症(手や足の指が多い)が見られる事があります。
  • 羊水検査および絨毛検査 染色体異常を検出するための検査で、13トリソミーの確定診断が可能です。

出生後の初期症状

  • 頭蓋骨および顔面の異常 小頭症、狭い額、と言った顔の形態変化がみられることがあります。また、上唇に裂け目のできる口唇裂や口蓋に裂け目のある口蓋裂もあり、摂食障害や発声障害が生じることがあります。
  • 手足の異常 指の数が多い多指症や掌に横一本の皺がみられることがあります。
  • 心臓の異常 80%近くに先天性心疾患を合併し、心室中隔欠損(左心室と右心室の間の壁に孔が開いていて心不全の原因になる)や心房中隔欠損のほか、複雑な構造異常のことがあり、心臓の手術は特に負担が大きいことから、手術が必要かどうか、赤ちゃんにとって有益な選択かどうかを慎重に話し合われた上で、手術する場合があります。
  • 神経系の異常 全前脳胞症を含む脳の形成異常があり、出生後早期から中枢性無呼吸を発症したり、多くは重度の知能障害と運動障害をともないます。
  • その他の異常 腹壁が完全に閉じておらず、腸などの臓器がへその部分から外に飛び出す臍帯ヘルニア、腎臓の形状や機能異常による腎不全や尿路感染症や、食道閉鎖症などの消化器系の異常によって栄養摂取が困難になることがあります。

13トリソミー(パトウ症候群)の検査・診断

13トリソミーの診断は、以下のような方法で行われます。13トリソミーの90%以上が、出生前の検査によって診断されている、と言う報告もあります。

胎児超音波検査

超音波検査は、胎児の発育状態をリアルタイムで観察するための重要な検査方法です。胎児の形態的な異常を早期に発見することが可能です。超音波検査で疑わしい異常が見られた場合、さらなる検査が推奨されます。

羊水検査および絨毛検査

羊水検査は妊娠15〜20週に行われることが多く、羊水中の胎児細胞を分析します。染色体の数や構造の異常を確認することで、13トリソミーの確定診断が可能です。絨毛検査は妊娠10〜13週に行われることが多く、胎盤の絨毛細胞を採取して分析します。羊水検査と同様に、染色体の数や構造の異常を確認します。これらの検査によって胎児の細胞を直接検査し、染色体異常を確認します。

母体血清マーカー検査

妊娠中の母体血液を検査することで、胎児の染色体異常のリスクを評価します。例えば、非侵襲的出生前検査(NIPT)では、母体の血液中に存在する胎児のDNAを分析します。ただし、NIPT、妊娠初期コンバインド検査、母体血清マーカー検査は、染色体異常のリスクを調べるものであり、確定検査ではありません。

出生後の染色体分析

出生後、血液や皮膚の細胞を採取して染色体検査を行います。これにより、過剰な13番染色体の存在を確認できます。

13トリソミー(パトウ症候群)の治療

13トリソミーは遺伝子の異常であるため、治療に関しては症状の管理と合併症の治療に焦点を当てています。根本的な治療法は今のところなく、以下のような対症療法が行われます。

心臓手術

先天性心疾患は高率に合併し、生命予後を左右する場合があるため、早期に手術をするかどうかを決めなければならない場合があります。ただし、心臓の手術は赤ちゃんへの負担も大きいので、手術する場合も、それが赤ちゃんにとって有益かどうか、よく検討されてからになります。

整形外科的治療

多指症などの手足の異常に対する外科的修正が行われることがあります。これにより整容面の改善や動きがスムーズになることが期待されます。

口唇裂・口蓋裂の修復手術

口唇裂や口蓋裂は、哺乳障害の原因になっている場合に装具による治療や、整容面での改善目的で、赤ちゃんに有益であれば手術が行われることもあります。

神経系の治療

知的障害を含む中枢神経障害に対する根本的な治療法はありませんが、てんかんに対しては抗てんかん薬を、また発達に対しては、理学療法,作業療法,言語療法,聴覚訓練,摂食嚥下訓練などを赤ちゃんの状態に応じて行われる事があります。

消化器系の治療

食道閉鎖症や臍帯ヘルニア(腹壁の異常を修正し、内臓を適切な位置に戻す)などの消化器系の異常に対する外科的治療が必要に応じて行われる事があります。

腎臓の治療

腎臓の構造異常などが原因で尿路感染症をくり返す場合には、必要に応じて予防的抗菌薬の投与や、手術が検討されることもあります。

13トリソミー(パトウ症候群)になりやすい人・予防の方法

13トリソミーの発生は偶発的に起こる染色体異常であるため、加齢によって発生頻度が高くなるものの、どの年齢でも一定の割合で起こりうるものです。 13トリソミーとなることを確実に防ぐ予防方法はありませんが、お母さんやご家族が参考にすべきことについて、以下をご参照ください。

遺伝カウンセリング

13トリソミーの診断は、家族にとって大きな心理的負担となります。遺伝カウンセリングを受けることで、今後の妊娠に関するリスク評価や、疾患の理解を深めることができます。13トリソミーは必ずしも遺伝が関係するものではありませんが、トリソミーをもつ子どもの妊娠や流産・死産を繰り返している場合も、遺伝カウンセリングを受ける事が推奨されます。また、同じ経験を持つ家族との交流や、患者会・支援団体のサポートを活用することで、気持ちの整理や育児の情報交換に役立つことがあります。支援体制を上手に活用しながら、医療・福祉・教育の専門職と協力していくことが大切です。

出生前検査

特別な理由や強い希望がある場合には、出生前診断が可能で、非侵襲的出生前検査(NIPT)、母体血清マーカー検査、妊娠初期コンバインド検査が、妊娠週数によって選択され、これらの検査が陽性の場合に、診断を確定させるための絨毛検査や羊水検査といった確定検査が必要になります。

適切な妊娠管理

13トリソミーは、出生前診断で判明した場合でも、妊娠中に自然流産・死産となる可能性が高く、出生に至るケースは限られています。出生前診断で判明した場合には、妊娠の経過や赤ちゃんの状態について、医療者と十分に相談しながら対応することが大切です。

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