FOLLOW US

目次 -INDEX-

伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

プロフィールをもっと見る
専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

発達障害の概要

発達障害は、脳の発達に関連した障害の総称です。主に、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などがあります。
これらの障害は、コミュニケーション、社会性、学習、注意力などの低下が日常生活に困難をもたらします。
例えば、ASDの人は対人関係や非言語的コミュニケーションに困難があり、ADHDの人は集中力の維持や衝動性のコントロールに苦労するでしょう。

発達障害は生まれつきの障害であり、生涯にわたって影響を与える可能性があります。
ですが、適切な支援や対策により、多くの人が充実した生活を送ることができます。
早期発見と適切な介入が重要で、教育や心理面などで総合的なアプローチが効果的です。

発達障害の原因

発達障害の正確な原因は完全には解明されていませんが、主に以下の要因が関与していると考えられています。

遺伝的要因

発達障害の原因には遺伝的要因が関与しています。
特にASDの発症は遺伝的要因が高い疾患と言われており、さまざまな原因遺伝子が発見されています。

また、一卵性双生児は二卵性双生児よりASDの発症率が高く遺伝の影響が強いです。

環境要因

胎児期や出生後早期の環境が影響する可能性があります。

例えば、妊娠中の母体の栄養状態、ストレス、薬物使用、環境汚染物質への暴露などは胎児に悪影響です。
これらが早産や低出生体重児、出産時の酸素不足などに繋がり脳に影響する場合があります。

また、幼児の総睡眠時間が短縮しており、睡眠時間の減少が心身に影響を与えている可能性があります。
発達障害では睡眠障害を併発することも多く、睡眠が影響しているかもしれません。

これらの要因が複雑に絡み合って発達障害が生じると考えられていますが、個人によって影響の度合いは異なります。
重要なのは、発達障害は誰かの責任ではなく、脳の発達における自然な変異の一つだということです。

発達障害の前兆や初期症状について

発達障害の初期症状は個人差が大きく、年齢によっても異なりますが、一般的に以下のような症状が見られることがあります。

  • 言語発達の遅れや偏り
  • 非言語コミュニケーションの少なさ
  • 対人関係の困難さ
  • 特定の物事への強い興味や固執
  • 感覚過敏または鈍感さ
  • 運動発達の遅れや不器用さ
  • 注意力の持続が難しい
  • 多動や衝動的な行動
  • 学習の困難さ
  • こだわりが強い、変化を嫌う

これらの症状が単独で見られても必ずしも発達障害とは限りませんが、複数の症状が持続的に見られる場合は受診を検討するべきです。

発達障害は小さい時に症状がみられることが多い傾向です。
そのため、小児科や児童精神科を受診するのが良いでしょう。
また、かかりつけ医や地域の保健センターに相談し、適切な専門機関を紹介してもらうのも良い方法です。
早期発見・早期支援が重要なので、気になる症状があれば躊躇せずに相談することをお勧めします。

発達障害の検査・診断

発達障害の検査・診断プロセスは多面的で複数の検査を実施し、総合的に判断します。

問診

医師が保護者や本人から成育歴、現在の状況、困っていることなどを詳しく聞き取ります。

行動観察

自然な環境での行動を観察し、社会性やコミュニケーション能力を評価します。

心理検査

  • 知能検査では、WISC-IVなどを用いて認知機能や知的能力を測定
  • 発達検査では、新版K式発達検査などを用いて発達の程度を評価
  • 自閉症スペクトラム検査では、ADOS、ADI-Rなどを用いて自閉症の特性を評価

言語検査

語彙の理解や発声、表現能力を評価します。

感覚・行動検査

感覚処理能力や運動機能を評価します。

注意力検査

持続性注意、配分性注意などを評価します。

医学的検査

必要に応じて脳波検査やMRIなどの画像検査を行います。

これらの結果やDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)などの診断基準に基づいて診断が行われます。
診断は一度で確定せず、経過観察を含む長期的なプロセスになることもあります。
重要なのは、診断は適切な支援を受けるためのスタートポイントだということです。
診断結果を踏まえて、個々のニーズに合わせた支援計画が立てられます。

発達障害の治療

発達障害の治療は、個々の症状や特性に応じて多角的なアプローチが取られます。
主な治療方法は以下の通りです。

行動療法

行動療法は主に応用行動分析(ABA)と認知行動療法(CBT)の2種類が用いられます。
応用行動分析(ABA)は、望ましい行動を強化し、問題行動を減少させる行動療法です。
一方、認知行動療法(CBT)は、思考パターンの変容を通じて行動を改善するものになります。

言語やコミュニケーションの学習

言語理解や表現能力の向上を目指す治療です。
言語理解と表現、社会的コミュニケーションスキルの向上に焦点を当てたプログラムを実施します。
具体的には、語彙の拡大、文法の習得、対人スキルの練習、非言語コミュニケーションの理解などです。
遊びや日常生活の場面を活用し、楽しみながら学べるよう工夫されています。

作業療法

発達障害の作業療法は、日常生活能力の向上を目指す治療です。
感覚統合療法で感覚処理を改善し、微細運動や粗大運動のスキルを高めます。
着替えや食事などの自立を促進し、社会的スキルの訓練も実施します。
遊びを通じた療育で総合的発達を促し、学習支援も行います。

薬物療法

発達障害の薬物療法は、主に症状の軽減が目的です。
ADHDには中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)や非刺激薬(アトモキセチンなど)が用いられ、注意力や衝動性の改善を図ります。
自閉症スペクトラム障害には、興奮や攻撃性に対し抗精神病薬、不安や強迫症状には抗うつ薬が処方されることがあります。

ペアレントトレーニング

ペアレントトレーニングは、保護者が発達障害に対する適切な対応を学ぶ治療です。
世界保健機構(WHO)でも推奨されており、ASDの子供に対して行った結果、問題行動の改善言語理解の向上などさまざまな効果が得られています。
また、ADHDの子供に対しても同様に改善が認められています。

これらの治療法を組み合わせ、長期的かつ継続的に支援を行います。
早期介入が効果的とされていますが、年齢に関わらず適切な支援は有効です。個人の強みを伸ばし、弱点をサポートしながら、社会適応力を高めQOLを向上させるのが大切です。

発達障害になりやすい人・予防方法

発達障害は、特定の人が「なりやすい」というよりも、生まれつきの脳の発達の特性によるものです。しかし、いくつかのリスク要因が指摘されています。

遺伝的要因

家族歴がある人(特に近親者に発達障害がある場合)では発達障害を持って生まれやすいです。
例えば、ASDやADHDでは遺伝子の変異や染色体異常が関連して発症すると言われています。

出生時の要因

出生時の要因が影響する場合もあります。
早産児や低出生体重児、出産時の合併症(酸素不足など)を経験した子どもでは発達障害を発症しやすいです。
また、高齢出産で産まれた子どもは染色体異常のリスクが高まるため、発達障害を発症しやすくなります。

環境要因

発達障害を発症する要因に環境要因があります。
例えば、妊娠中の母体のストレス、喫煙、飲酒、薬物使用、栄養不良、慢性的なストレス環境などです。
これらは脳の発達や行動に影響を与えるため、発達障害のリスクを高める可能性があります。
しかし、個人差もあるため環境要因の改善は重要です。

これらの要因があるからといって必ず発達障害になるわけではなく、逆にこれらの要因がなくても発達障害になる可能性があります。
早期発見適切な支援が重要なので、発達に気になる点がある場合は医師に相談することをお勧めします。

発達障害は主に生まれつきの脳の発達特性によるものであり、完全に予防することは困難です。しかし、リスクを軽減し、早期発見・早期支援につなげるための取り組みはあります。

妊娠・出産時のケア

発達障害のリスクを軽減するために、妊娠中や出産時のケアがあります。妊娠中のケアでは、バランスの取れた栄養摂取 ・ストレス管理 ・アルコールやタバコの禁止、定期的な健康診断を行います。出産時のケアでは、適切な医療サポート ・早産や低出生体重のリスク管理が必要です。
また、産まれた後は愛着形成を促すために親子関係の構築 ・適切な栄養と睡眠 ・豊かな環境で様々な刺激を入れるのが大切です。

発達チェックによる早期介入

定期的な発達チェックは大切です。
乳幼児健診の活用 ・発達マイルストーンの確認などを行い、早期から症状に気づけるようにしましょう。
気になる症状があれば早めに医師などに相談 ・必要に応じて治療・療育を開始します。

これらの取り組みは、発達障害の予防というよりも、子どもの健全な発達を支援し、問題が生じた場合に早期に対応するためのものです。
発達障害は個人の責任ではなく、社会全体で理解と支援を深めていくことが重要です。

この記事の監修医師