目次 -INDEX-

疼痛
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

プロフィールをもっと見る
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

疼痛の概要

疼痛は、身体の異常を知らせる重要な感覚であり、急性疼痛と慢性疼痛に分類されます。

急性疼痛は、急性疾患や外傷などで生じる一時的な痛みです。通常は数日から数週間で、組織の損傷が治れば痛みは消失します。

一方、慢性疼痛は組織が修復された後も残り、急性痛を繰り返すことでも生じます。3か月以上続く痛みは難治性慢性疼痛と呼ばれ、しばしば生活の質を大きく低下させます。

痛みの性質は、鋭い痛みや鈍い痛み、間欠的な痛みや持続的な痛みなど様々です。また、痛みの感覚は個人差が大きく、同じ刺激でも人によって感じ方が異なります。疼痛のメカニズムは複雑で、感覚的要素と感情的要素が絡み合っています。

主観的な感覚である疼痛を管理・評価するには、視覚アナログスケール(VAS)や数値評価スケール(NRS)などが有用です。スケールを使うことで、患者さんの痛みの程度を客観的に把握でき、適切な治療法を選択できます。

疼痛の原因

疼痛の原因は、大きく分けて侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心理社会的疼痛の3つです。

侵害受容性疼痛は、外傷や炎症、手術などで組織が損傷し、痛みの受容体が刺激されることで生じる痛みです。様々な疾患や、切り傷、骨折、火傷などが該当します。このタイプの痛みは、体の防御反応として体を保護する役割を担っており、損傷部位に異常が見られているサインとして機能しています。熱くなったフライパンを触った時にすぐ手を引けるのも、侵害受容性疼痛を感じるからこそです。

神経障害性疼痛は、神経自体の損傷や機能障害によって生じる痛みです。例えば、帯状疱疹後の神経痛や糖尿病性神経障害、脊髄損傷などが原因となります。このタイプの痛みは、しびれや焼けるような痛み、電気が走るような痛みとして感じられることが多いです。一般的な鎮痛薬が効きにくく、慢性化しやすい特徴があります。

心理社会的疼痛は心因性疼痛とも呼ばれ、心理的な要因が関与する痛みです。例えば抑うつや不安、睡眠障害、職場や家庭でのストレスなどが原因で、頭痛や腰痛が生じることがあります。このタイプの痛みは身体的な原因が見つからないことが多く、心理的なアプローチが必要となります。

痛みの原因が明確でない場合、複数の要因が絡み合っていることも珍しくありません。治療の際には患者さんの症状や生活環境、心理状態などを総合的に評価し、適切な治療法を選択します。

疼痛の前兆や初期症状について

疼痛の前兆や初期症状は、痛みの種類や原因によって異なります。かかりつけ医や、症状に応じた専門医で、早めの診察を受けるのが大切です。

急性疼痛の前兆としては、例えば心臓発作の前触れとして胸部の不快感が起きたり、月経痛が始まる前に特徴的な体調変化が起きることがあります。外傷や手術後に、違和感や軽い痛みから始まって痛みが増してくることもあります。炎症が原因の場合、痛みに先立って患部が赤く腫れ、熱を持つかもしれません。これらの症状が現れたら、早期に適切な対処を行うことで痛みを軽減できる可能性があります。

慢性疼痛は急性疼痛と異なり、徐々に進行することが多いです。例えば、腰痛や関節痛が慢性的に続く場合、初期には軽い違和感や疲労感程度にしか感じないこともあります。しかし、長期化すると日常生活での活動の制限や障害につながる可能性がありますので、痛みが出る前に整形外科を受診し、適切な対策を講じて慢性化の予防に努めましょう。

神経障害性疼痛の場合、しびれやピリピリとした感覚が初期症状として現れることがあります。これらの症状が続く場合は、早めに神経内科等を受診し、医師の診察を受けることをおすすめします。

心理社会的疼痛は、ストレスや不安、うつ状態などが先行することが多いです。職場や家庭での環境変化、あるいは自己価値観の低下といったきっかけで発症することもあるでしょう。このような場合、心理的なサポートやストレス管理が重要となります。心療内科や精神科が助けとなるかもしれません。

患者さん自身が自分の体の変化に気付き、異常を感じた場合は整形外科や神経内科、心療内科などの医師に早めに相談することが推奨されます。

疼痛の検査・診断

疼痛は、問診や身体診察、必要に応じた検査によって診断します。治療効果は、疼痛評価スケールを使って客観的に把握可能です。

問診

問診では、痛みの部位や強さ、性質、持続時間、発生状況などを詳細に確認します。日常生活への支障や気分の変化の有無なども、必要に応じて確認する項目です。

身体診察

次に行うのは、視診や触診、打診などの身体診察です。視診では、患部の腫れや赤み、変形などを確認します。触診では痛みの部位や範囲、患部の硬さなどをチェックします。打診では、痛みの場所や反応や響き方から痛みの原因を推測可能です。

検査(血液検査、画像検査など)

血液検査では、炎症の有無や感染症の可能性などを調べます。画像検査(X線、MRI、CT、エコー検査など)は、骨や関節、内臓の異常など、複数の検査を組み合わせて疼痛の原因を探っていく検査方法です。神経障害性疼痛が疑われる場合は、神経伝導速度検査や筋電図検査を行い、神経の機能や損傷の程度を評価します。

疼痛の評価

患者さんが抱える主観的な痛みを客観的な情報として評価するには、疼痛評価スケールが有用です。

視覚アナログスケール(VAS)では、10cmの黒い線を自由に指さして痛みの程度を表現します。数値評価スケール(NRS)は、0から10までの数値で痛みの程度を示すスケールです。表情尺度スケール(FRS)は、表情のイラストを用いたスケールで、数で答えるのが困難な小児や高齢者などで使われます。

これらの指標を用いることで、患者さんの痛みの変化を客観的に把握し、治療効果を評価することができます。

疼痛の治療

急性疼痛の治療では、原因となる傷や炎症への速やかな対処が最優先です。外科的治療や物理療法、薬物療法のほか、落ち着いてくれば運動療法も行います。

慢性疼痛では、心理社会的要因が大きく関わる場合もあり、様々なアプローチで治療を行います。薬物療法や理学療法に加え、心理療法や神経ブロック療法、場合により外科的治療も選択肢となります。

薬物療法

薬物療法は、疼痛治療の基本となる方法です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンは、軽度から中等度の痛みに効果的です。NSAIDsには炎症を抑える作用もあります。

オピオイド鎮痛薬は、強い痛みに対して使用されることが多い薬です。一部の抗うつ薬や抗てんかん薬は、痛みの伝達を変化させることが分かっており、神経障害性疼痛に対して有効です。慢性疼痛には漢方薬が有用な場合もあり、体質も考慮して適切な製剤を選択します。

理学療法(運動療法・物理療法)

運動療法や物理療法は、総称して理学療法と呼ばれます。

運動療法は、亜急性期においては必要以上の安静を避けて長期化を予防するために、慢性期においては筋力強化や柔軟性向上を目的として行われます。

物理療法では、出血・炎症を伴う急性期には寒冷療法や低出力レーザー光線治療など、亜急性期には温熱療法などが選択されます。また、急性期から慢性期の広い期間で、経皮的電気神経刺激(TENS)が用いられます。

心理療法

心理療法は、心理社会的要因の絡んだ慢性疼痛に対して有効な治療法です。認知行動療法(CBT)は、痛みそのものよりも、痛みに関連する日常の動作に着目し、疼痛の管理をサポートします。ストレス管理やリラクゼーション法も、心理的な要因が関与する疼痛に対して効果的です。

神経ブロック療法

神経ブロック療法は、局所麻酔薬や高周波を用いて神経の伝達を遮断し、疼痛を軽減する方法です。即効性があり、急性疼痛・慢性疼痛どちらにも行われます。例えば、腰痛や坐骨神経痛に対しては、硬膜外ブロックや神経根ブロックが行われることがあります。神経の炎症を抑えたい場合は、局所麻酔薬にステロイド薬を添加して注射します。

外科的治療

外科的治療は、急性疼痛に対して必要な場合の他、慢性疼痛において薬物療法や理学療法の効果が不十分な場合に検討される方法です。例えば、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症に対しては、手術による神経の圧迫解除が行われることがあります。また、神経障害性疼痛に対して脊髄刺激療法、手足の一部が猛烈に痛む場合などはやむを得ず、神経切断術が検討されることがあります。

疼痛になりやすい人・予防の方法

疼痛になりやすい人の特徴

疼痛になりやすい人には、いくつかの共通点があります。

まず、加齢に伴う身体の変化が挙げられます。年齢を重ねると、筋肉や関節の柔軟性が低下し、痛みを感じやすくなります。骨密度が低下すれば、骨折や骨の変形から痛みが生じるかもしれません。

慢性的な病気を持つ人も疼痛になりやすいです。糖尿病や関節リウマチ、がんなどの病気によって、神経や組織にダメージが生じて、痛みを引き起こすことがあります。

生活習慣も疼痛に影響します。運動不足や不適切な姿勢、長時間のデスクワークなどは、筋肉や関節に負担をかけ、痛みを引き起こす原因となります。

ストレスや不安、うつ状態などの心理的要因も、疼痛を悪化させる一因です。

疼痛の予防方法(運動)

まず、適度な運動が重要です。運動には、筋力や柔軟性を向上させ、関節や筋肉の負担を軽減する効果が期待できます。ウォーキングやストレッチ、筋力トレーニングなどを日常生活に取り入れることで、疼痛の予防につながります。

疼痛の予防方法(姿勢の調整)

次に、正しい姿勢です。デスクワークや長時間の座位が多い場合は、定期的に休憩を取り、姿勢を整えましょう。椅子や机の高さを調整し、背中をまっすぐに保つことで、腰や肩の負担を軽減できます。また、適切な寝具を使用し、睡眠時の姿勢にも注意を払いましょう。

疼痛の予防方法(ストレス管理)

ストレス管理も疼痛の予防に関わります。リラクゼーション法や趣味、友人との交流などを通じて、ストレスを軽減することが大切です。また、心理的なサポートを受けることも有効です。カウンセリングや認知行動療法(CBT)などを利用し、心理的な負担を軽減しましょう。

疼痛の予防方法(定期的な健康チェック)

最後に、定期的な健康チェックも忘れてはいけません。早期に異常を発見し、適切な対処を行うことで、疼痛の予防につなげましょう。

関連する病気

この記事の監修医師