

監修医師:
菅原 大輔(医師)
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2007年群馬大学医学部卒業 。 自治医科大学附属さいたま医療センター小児科勤務 。 専門は小児科全般、内分泌代謝、糖尿病、アレルギー。日本小児科学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医、臨床研修指導医。
ダウン症の概要
ダウン症候群は、21トリソミーとも呼ばれる21番目の染色体異常によって引き起こされる遺伝的状態です。人間の体細胞には通常22対の常染色体と1対の性染色体が含まれていますが、ダウン症の場合、21番目の染色体が3つ存在します。この染色体の異常は、身体的特徴や発達遅延などの特徴を引き起こします。 主な症状は、顔の形状が特徴的で、平たい顔つき、小さな耳、短い首、そして目がアーモンド形をしていることが挙げられます。また、筋肉の低緊張や関節の可動範囲が広いなどの身体的特徴もあります。これに加え、心臓病や消化器系の問題、免疫機能の障害、視聴覚障害など、さまざまな健康問題を持ちます。 治療法は、症状に応じた支援が必要とされ、身体的な合併症に対しては適切な医療介入が行われます。また、教育や社会参加を支えるための特別支援教育や職業訓練も重要な役割を果たしています。小児科医、心臓病医、言語療法士、作業療法士などが協力し、ニーズに応じた治療計画を立て、健康を維持するためのサポートを提供します。ダウン症の原因
ダウン症は、母親の卵子や父親の精子の形成過程で、21番染色体が正しく分配されず、子どもに余分な染色体が渡されることで、トリソミー21の原因となります。 また、ロバートソニアン転座と呼ばれる形態もあります。21番染色体の一部が14番染色体に移動し、その結果として遺伝的に不安定な状態が生まれます。親がこの転座である場合、子どもにダウン症候群が発生するリスクが高まります。 さらに、モザイク型という珍しい形態もあります。個体発生の初期段階で細胞の一部が染色体セットを持ち、一部がトリソミー21を持つ状態です。このタイプは、症状の程度が大きく異なる可能性があります。 最後に、母親の年齢が高い程、ダウン症候群のリスクが増加することが広く認識されています。これは、高齢になるにつれて、女性の卵子の染色体分離エラーが増加するためです。このように、ダウン症の原因は複数ありそれぞれが異なる遺伝的メカニズムに基づいています。ダウン症の前兆や初期症状について
ダウン症には、どのような前兆や初期症状があるのでしょうか?以下では、見た目の特徴、発達の特徴、合併症別に解説します。見た目
ダウン症には、出生時から識別可能な特有の身体的特徴があります。具体的には、頭部が小さく平坦で、後頭部の形状に顕著な特徴が見られます。また、目はアーモンド形でやや上向き(つり上がっている)の形状をしており、目と目の間隔が広がっていることもあります。 耳は小さく、位置が低いために顔のバランスが異なって見えることがあります。さらに、首の短さも特徴となるため、身体的特徴は医師が診断を下す際の重要な手がかりとなります。 もし、この特徴に気付いた場合は、専門的な評価を受けるためにも医療機関の受診が推奨されます。発達
ダウン症の発達特性には、身体的および言語的な発達の遅れが含まれます。特に筋力の発達に関しては、普通の子どもよりもゆっくりとしたペースで進むため、身体活動が遅れがちです。これは、運動能力の発展に必要な筋肉の強化が十分に行われないことが原因で、寝返りや一人での歩行開始が遅れる場合があります。 また、言語発達に関しては発話の開始が遅れがちであり、話し始めても発音が不明瞭である傾向が多いとされています。 これらの特徴は、外界からの刺激が不十分だと現れる場合が多いとされており、幼少期からの適切な療育プログラムや、言語療法などを通じた子どもに対する発達の支援が推奨されます。合併症
ダウン症は、合併症を発症するリスクが高いとされています。合併症には、心疾患、聴覚障害、視覚障害、甲状腺機能異常、てんかんなどが含まれます。 心疾患に関しては、ダウン症の半数程度で何らかの形の先天性心疾患が見られます。これには心室中隔欠損(心臓下方にある心室を隔てる壁に穴がある状態)や心房中隔欠損症(心臓上方にある心室を隔てる壁に穴がある状態)などが含まれ、生後早期に適切な診断と治療が求められます。 また、耳の構造的な特徴により中耳炎が発生しやすく、難聴につながる場合があります。視覚関連では、白内障や斜視がしばしば観察され、視力に影響を及ぼす可能性があります。 甲状腺疾患もダウン症候群においてよく見られる健康問題の一つで、なかでも甲状腺機能低下症の発症が多いとされています。甲状腺疾患は、定期的な血液検査により甲状腺ホルモンのレベルのモニタリングが推奨されます。 これらの合併症に対しては、適切な医療チームによる継続的なフォローアップが、子どもの健康と生活の質を向上させるために不可欠です。ダウン症の検査・診断
ダウン症候群の検査・診断には、出生前と出生後の両方で行われる検査があります。出生前の診断には、母体の血液を用いた出生前検査(NIPT)や超音波検査、羊水検査が含まれます。これらの検査は、妊娠初期から中期にかけて行われ、胎児に染色体異常があるかどうかを調べます。 NIPTは、母体血液中の胎児DNA断片を分析することで、トリソミー21(ダウン症候群)を含む染色体異常のスクリーニングを行います。この検査は、10週の妊娠から検査を受けられます。ただし、あくまでも疑いを発見する検査であるため、確定診断には羊水検査や絨毛採取検査が必要です。 出生後の診断では、新生児の観察や身体的特徴を通じて初期の疑いを持ち、その後、確定診断のために染色体分析確定診断のために染色体分析が行われます。これは、新生児の血液を用いて行われる検査で、すべての染色体を詳しく調べられます。 これらの検査に関しては、妊娠中は産婦人科で相談し、出生後は小児科でのフォローアップが推奨されます。特に出生前検査を考慮する場合は、遺伝カウンセリングの受診が重要です。 また、ダウン症候群の子どもは心臓病や消化器系の問題、聴覚障害などの健康問題を持つことが多いため、定期的な健康診断も必要になります。ダウン症の治療
ダウン症候群は根本的な治療法が存在しないため、合併症の管理や症状の緩和に焦点を当てた治療が行われます。主な治療方法は、以下のとおりです。 先天性心疾患の治療: ダウン症候群に伴う先天性心疾患は、新生児期に重要な健康問題となります。心房中隔欠損症や心室中隔欠損症など、心臓の構造異常を修正するために外科的手術が必要になるケースもあります。 消化管奇形の治療: 消化管の奇形、例えば十二指腸閉鎖や鎖肛などは、生後早期に手術を必要とします。 療育サービス: 発達遅延が見られる場合、理学療法、作業療法、言語聴覚療法などの療育プログラムが提供されます。 これらの治療とサポートは、ダウン症候群の子どもたちがより健康で充実した生活を送るために不可欠です。ダウン症になりやすい人・予防の方法
ダウン症になりやすい方には次のような特徴があります。 母親の年齢が高い場合: ダウン症のリスクは、母親の年齢が高い程増加し、35歳以上の高齢出産では、卵子の老化により染色体の異常が発生しやすい傾向があります。年齢が上がるにつれて、卵子内の染色体分配の誤りが生じやすくなるため、ダウン症の発生確率が高まります。 遺伝的要因(転座型ダウン症): ダウン症のなかには、転座型ダウン症と呼ばれる形態があります。転座型では、親が転座染色体を持っている場合に発生する可能性があり、親自身には症状が現れないこともありますが、子どもにダウン症を遺伝させるリスクが高まります。 また、ダウン症を予防するためには、以下のような対策が有効です。 若い年齢での妊娠計画: 母親の高齢化はダウン症のリスクを高めるため、可能であれば若い年齢の内から妊娠計画を行うことが一つの方法です。そのため、女性が妊娠を希望する場合、早い段階での家族計画を考えることが望ましいとされています。 遺伝カウンセリングと出生前検査: ダウン症のリスクが懸念される場合や、過去にダウン症の子どもを出産した経験がある場合、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。 健康的な生活習慣の維持: 妊娠を計画している女性は、健康的な生活習慣を心がけることが重要です。適切な栄養摂取と運動は、妊娠中の健康を維持し、リスクを軽減するのに役立ちます。関連する病気
- 先天性心疾患
- 消化器疾患
- 白血病
参考文献




