監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
知的障害の概要
知的障害とは、先天的または後天的な理由によって、脳に障害を受けたことにより知的発達が遅れることをいいます。
他者とのコミュニケーションが取れないなど、日常生活に支障をきたす可能性のある障害です。
知的障害の定義
厚生労働省では、知的障害を以下のように定義しています。
- およそ18歳までの発達期に、知的な機能に障害が見受けられること
- 日常生活に支障があり、特別な援助が必要な状態であること
過去のデータでは、国内には54.7万人の知的障害者がいると、内閣府の推計値で報告されています。知的障害は福祉用語であり、医学用語では精神遅滞といいます。知的障害と精神遅滞は同じ意味です。ここで定義される日常生活の能力とは、下記のような能力をさします。
- 自立できる能力
- 他人と意思疎通ができる能力
- 自身の身体を操る能力
- 好奇心や探究心を持つ能力
- 自由に移動できる能力
- 仕事をする能力 など
知的障害の定義は、およそ18歳までの発達期に障害が見つかること、としています。そのため大人になってから、事故や病気が原因となって知的な機能に障害が出た場合には、知的障害ではなく、高次脳機能障害などの診断になります。
知的障害の程度の判定
知的障害の程度は、以下の4つに区分されます。
- Ⅰ:最重度知的障害 おおむねIQ20以下
- Ⅱ:重度知的障害 おおむねIQ21〜35
- Ⅲ:中度知的障害 おおむねIQ36〜50
- Ⅳ:軽度知的障害 おおむねIQ51〜70
知的障害の判定は、知的水準(IQの数値)と日常生活能力の両方を考慮して行います。また、程度の判定においては、知的水準の数値よりも、日常生活能力が優先されます。
知的障害における保健面・行動面からの判断
保健面の判断基準は以下になります。
- 1度:身体に重度の問題があり、厳重な看護下にないと生命の維持が難しいような状態
- 2度:身体に問題があり、発作などが頻発する傾向にある状態。看護を必要とする
- 3度:発作などがときどき起きる、体調の変化によって看護が必要になる状態
- 4度:服薬などに配慮が必要な状態
- 5度:特に必要な配慮のない状態
行動面の判断基準は以下になります。
- 1度:行動に問題が多く、常に付き添いが必要な状態
- 2度:行動に問題があり、常に注意が必要な状態
- 3度:問題行動に対して注意をしたり指導したりすることが必要な状態
- 4度:問題行動に対して、多少注意をする程度の状態
- 5度:特に必要な配慮のない状態
行動の問題とは、多動・自傷行為・物の破壊・拒食など、障害を持つ本人の生活を阻害するような行動のことをさします。保健面・行動面の判断は、程度判定に付記されます。
知的障害の原因
知的障害の原因については、大きく分けて2つの原因が考えられます。
生まれる前にその原因が発生していると考えられる先天的要因と、生まれた後に原因が発生する後天的要因です。
先天的要因
先天的要因とは以下のような、出生前に生じた原因をさします。
- 出産前後の感染症や中毒によるもの
- ダウン症などの染色体異常に起因するもの
- 先天的な代謝異常によるもの など
先天的な代謝異常の場合は新生児スクリーニングなどで発見されることが多く、発見のタイミングによっては治療も可能で、投薬や食事療法などが行われます。
後天的要因
出生後の病気・栄養失調・ケガなどが原因となって知的障害が起きるケースです。インフルエンザが重篤化しておきるインフルエンザ脳症・日本脳炎・細菌性髄膜炎、ポリオ・百日咳・麻疹などが重篤化して脳炎を引き起こして知的障害につながることもあります。病気に起因する脳炎は、予防接種を受けることでそのリスクを下げることが可能です。病気以外にもケガなどの外的な要因によって、脳に損傷を負って知的障害を引き起こすことがあります。
知的障害の前兆や初期症状について
知的障害の症状はその程度によって変わってきますが、診断を受けられる医療機関としては子どもの場合は小児科、大人の場合は精神科が一般的です。
程度による症状の違いは以下のようになります。
軽度知的障害の症状
身の回りのことはほぼ年齢相応にできるため、就学前は症状に気付かれないことが多く、大人になってから診断を受けるケースもあります。就学すると計算や読字・書字が難しいなど、問題に気付くこともあります。ある程度年齢があがらないと気付けないことも多い症状です。
中度知的障害の症状
幼児期の言葉の発達がゆっくりなことが多く、療育で身支度や食事などの日常生活ができるようになります。言葉の発達がゆっくりなため、他者とのコミュニケーションが取りにくい傾向です。就学すると、計算・読字・書字などの発達は緩やかで、ある程度までの理解で止まります。
重度知的障害の症状
就学前の時期には、他者との会話は難しい状態です。就学すると少しずつ簡単な会話ができるようになります。また身振りなどでも意思の疎通がはかれるようになります。日常生活においては、身支度・食事・入浴などに多少の支援が必要です。
最重度知的障害の症状
幼児期・就学後に関わらず、会話による意思の疎通はほぼできません。知的障害者自身の欲求・要求・感情などは、言語以外の手段で表現します。日常生活における身体の安全や健康、身支度などの生活全般に支援が必要な状態です。
知的障害の検査・診断
知的障害の診断を行う際には、症状を評価するための検査と、実際の生活における適応機能の状態の評価が行われます。
また知的障害に加えて、ほかの障害や疾病を併発している場合も多いため、併発している障害や疾病についても特定が必要になります。
症状の評価をするための検査・判断
IQを測定する検査(ウェクスラー式知能検査・ビネー式知能検査など)や、保健面・行動面の判断が行われます。知的障害の程度が重症な程、気付くタイミングは早くなります。逆に軽症の場合は、大人になるまで障害に気付かれないこともあるのです。障害の検査を受け診断が出ると療育手帳(愛の手帳)が交付され、税金の軽減や、就職や生活のサポートなどが受けられます。成長途中の子どもに見られる症状のため、成長の具合や障害の現れ方が変わるので、知的障害を疑う症状を感じたら専門機関に相談することをおすすめします。IQ測定の検査は、各市町村の児童相談所や障害者センターなどが窓口になっていることが多いため、測定を希望する場合は問い合わせてみるといいでしょう。
日常生活における適応機能の状態から行う診断
日常生活の適応機能について、以下の3つの領域で状態を評価します。
- 概念的領域:読む・書く・記憶する・計算する・知識の習得・問題解決 判断能力など
- 社会的領域:共感・対人コミュニケーション能力・友人を作る能力・共感する能力など
- 実用的領域:セルフケア・自己管理能力・金銭管理能力・仕事に対する責任感など
知的障害の場合、ほかの障害や疾病と併発しているケースも多く、併発している場合は、併発している障害や疾病を特定する必要もあります。併発しやすい障害や疾病としては、下記のようなものがあります。
- 自閉症スペクトラム症
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 限局性学習症・学習障害(LD)
- 運動症
- コミュニケーション症
- 吃音
- てんかん など
知的障害の治療
知的障害における原因である脳の損傷そのものを治療することは難しいですが、障害を早く発見することにより、療育などの処置を行うことで障害の程度の改善が見込めます。
就学後は通級や特別支援教育などを受けることにより、障害の程度を最小限に抑えられる可能性があります。
家族や障害者本人にカウンセリングや適切な支援を行うことも有用です。また別の障害との併発の場合は、併発した障害の治療も併せて行う必要があります。
知的障害になりやすい人・予防の方法
後天的な知的障害に関しては予防接種の徹底によって、脳炎などの知的障害の原因となる病気の発症を抑えることはある程度可能です。
ケガや栄養失調に注意することでも知的障害になる可能性を下げることができます。
先天的な知的障害については予防は難しいことが多いですが、新生児スクリーニングによって代謝異常などを発見することで、食事療法や投薬などの対応が可能です。
参考文献