

監修医師:
吉川 博昭(医師)
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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。
学習障害の概要
学習障害(限局性学習症・LD)は、読む・書く・計算するといった特定の分野において困難さが表れる障害です。そのなかでも文字の読み書きに限定した困難があるタイプを発達性ディスレクシアといいます。学習障害は発達障害の1つで、就学後に顕在化することが少なくありません。発達障害者支援法の対象となる障害で、教育現場において特別支援教育が行われます。 また、学習障害は注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)を併発する場合が少なくありません。そのため、適切な検査・診断を行い、一人ひとりの特性に合わせたサポートが重要です。 一般的に読み書きの能力は、就学前に自然に習得できると言われています。しかし、就学前に読み書きの習得が困難であったり、習得に時間がかかったりするなど、幼児期から症状が表れる場合もあります。学習障害の子どもは周囲の子どもと比べ、学習全般に著しく遅れが生じることが少なくありません。子ども自身が周囲との違いを認識することで、不登校や引きこもりといった問題行動が起こったり、うつ病や対人恐怖症などを発症したりすることがあります。障害による二次障害を引き起こさないようサポートをすることが大切です。 学習障害の定義は、文部科学省が定義する教育的な定義と、医学的診断による定義の2つに分けられます。文部科学省が定義する学習障害は、聞く・話す・読む・書く・計算するといった能力の習得と使用に困難さがあるものを指します。一方で、医学的診断の定義では、DSM-Vを用いて読みの障害・書き表現の障害・算数の障害の3つに限定した困難さがある状態です。文部科学省の定義では、学習障害に加え自閉スペクトラム障害が含まれている可能性が指摘されています。どちらの定義であっても、学習面に何らかの困りごとが生じていることが明らかで、適切なサポートが必要なことに変わりはありません。そのため、早期発見と積極的なサポートの介入が必要です。学習障害の原因
学習障害の原因は医学的に明らかにされていません。しかし、中枢神経系に何らかの機能障害があるのではないかと考えられています。また、知的障害や発達障害などほかの障害や、環境的な要因は直接的な原因ではありません。 原因が明確でないため、根本的な治療方針は確立されていませんが、学習環境の調整・療育の介入・カウンセリングなどが有効とされています。学習障害の前兆や初期症状について
一般的な成長発達過程では、読み書きの習得は、4歳頃から始まります。4歳頃から文字に興味を持ち始め、ひらがなの絵本を読んだり、街中の看板の文字を読むことができるようになります。そして、おおよその文字や数字の読み書きを習得するのが就学前(5歳頃)です。しかし、知的障害がなく学習に対し意欲的なのにも関わらず、読み・書きの学習面において困難さが生じることが学習障害の前兆といえます。 読字障害の初期症状は、文字への興味の薄さ・逐次読み・黙読の苦手さ・易疲労感などです。書字障害の初期症状は、促音・撥音・二重母音などの特殊音節に間違いが頻繁にみられたり、似ている文字の区別が付きにくかったりする症状があります。どちらも脳機能の発達が未熟なため、音韻処理の困難さに障害があります。 学習障害を早期に発見する場合は、母子保健分野で行われている5歳児健診です。5歳児健診では、精神・神経発達といった理解に関するチェック項目があり、障害の気付きの場となっています。しかし、障害の相談や就学への支援に介入が留まっていることも少なくありません。そのため、学習障害の早期の発見には至らない場合もあります。 注意したいことは、文字や数字に興味がないからといって学習障害ではないということです。興味や関心は個人差が大きいものです。そのため、周囲の子どもと比べて読み書きに遅れが出たからといって、学習障害とは言い切れません。学習障害は医師の診察や検査などを用いて総合的に診断されるものです。遅れがあるからといって学習障害なのではないかと過度に心配する必要はありません。症状があった場合には、小児科・精神科・心療内科を受診しましょう。学習障害の検査・診断
学習障害を診断するためには、十分な問診と知的機能評価が行われます。問診では、医師からの聞き取りのほかに、チェックリストやスクリーニングが行われます。標準化されたスクリーニング検査は、PRSやLDI-Rなどです。全般的知能検査には、WISC-Ⅳ・WISC-Ⅲなどの検査を行います。学習障害の子どもの全般的知能(IQ)は、知的障害のレベルではなく定型発達の子どもと同等です。そのため、まずは知的障害の有無を判別する必要があります。また場合によっては、頭部のMRI検査などを用いた中枢神経系の器質的な疾患の有無の確認も必要です。 知的機能に障害がみられない場合に、学習障害の検査が実施されます。学習障害全般を測定する標準化された検査はありません。しかし、読み・書きに困難さが生じている人によく使用されている検査として、ひらがな音読検査・STRAW-R・KABC-Ⅱ習得度検査・URA WSS・CARDなどがあります。これらの検査は、漢字やひらがなの読字・書字到達度を数値化するものです。 また、症状に応じて音韻認識機能検査(しりとり・単語逆唱・非語の複唱)・視覚認知機能の検査(Ray複雑図形模写・視知覚発達検査)・言葉の記銘力検査(AVTL)などが追加されます。 いずれも問診やスクリーニング・年齢などを考慮し複数の検査の実施が必要です。検査や問診などすべての結果を総合的に判断し、学習障害が診断されます。 学習障害の診断に用いる検査には、対象となる年齢が設定されている場合が少なくありません。ほとんどの検査は就学後の年齢が対象とされています。学習障害の早期発見は重要ですが、未就学児を対象とした学習障害に関連する検査は標準化されていません。学習障害の治療
学習障害には根本的な治療方法がありません。そのため、学習障害の可能性に気が付いたら、早期にサポートを開始することが大切です。読み・書き・計算に困難さが生じる学習障害は、症状の表れ方も一人ひとり異なります。個々の特性にあったサポートを、適切な時期に行うことが必要です。家庭や学校でのサポートだけではなく、療育の場につなげることもサポートの1つです。 療育はできる限り早期に介入することが望ましいため、前兆や初期症状がある場合には療育へつなげるためのサポートを行います。病院や市区町村の保健センターなどへ相談し、適切な機関へつながることが望ましいです。学習障害になりやすい人・予防の方法
学習障害には、家族因子と家庭環境が影響しやすいといわれています。家族に学習障害や発達障害がある方がいる場合には、子どもも同様の特性がある可能性があります。家族因子は予防することが難しいため、前兆がみられる場合には早期にサポートを開始するとよいでしょう。 また子どもにより文字や数字への興味は異なりますが、文字や数字に触れる環境が極端に少ない場合には遅れが生じる可能性があります。一般的な子どもの発達は、4歳頃から文字に興味を持ち、就学前にはおおよその音読ができるようになります。そのため、読み書きを学んでいる子どもたちの活動に参加するなど、文字や数字に興味がもてる環境の設定や、活動への参加を積極的に促しましょう。 また、学習障害のある子どものなかには、学業不振や学校不適応などの二次障害を引き起こすことが少なくありません。発達障害は周囲から理解を得ることが難しく、ときに周囲から誤解されてしまう場合があります。そのため、精神的・身体的症状に加え、不登校や引きこもりといった問題行動が表れることも少なくありません。 二次障害を予防するためには、療育やトレーニングに取り組み、生活環境を整えることが欠かせません。また、家庭だけでなく教育現場や地域のサポートが大切です。関連する病気
- 注意欠陥・多動性障害
- 自閉症スペクトラム障害
- 発達性言語障害
- 知的障害
- 神経発達障害
- 精神障害
参考文献




