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水中毒
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

水中毒の概要

水だけの大量摂取により起こる水中毒は水分補給の落とし穴で、熱中症と並び注目されてきている症状です。水中毒が原因での死亡例も報告されています。
熱中症予防の水分補給では必要な水分の、必要なだけの摂取が重要です。適度な塩分補給にも注意しなければなりません。日本のように気温・湿度ともに高いところでは水分を過剰摂取しがちです。熱中症予防には、水分摂取と電解質補正の両輪が必要といえます。水中毒を知り、正しい水分補給を心がけて暑さを乗り切ることが重要になります。
一方で、水中毒には別の原因もあります。精神疾患の患者さんによく見られる症状で、多飲症からくる発作性のものです。精神疾患の患者さんが薬の副作用で喉が渇き、水を飲む習慣が増えるといわれています。水分摂取の不足と薬の副作用、原因が異なるにしても、電解質バランスが崩れて希釈性低ナトリウム血症が生じる点は同じです。
以下で、水中毒の原因・初期症状・治療・予防の方法などを確認しましょう。

水中毒の原因

私たちの体の約78%は水分で構成されています。臓器別でいうと肺は83%・脳や心臓は73%・骨は31%・筋肉と腎臓は79%・皮膚は64%です。水分は体内で多岐にわたる重要な働きを担っています。

自律神経とホルモンで厳密に、自動的にコントロールされているのが、体内の水分量です。水分が足りなくなると腎臓は尿から水分を出さないようにし、脳の視床下部では水分を摂った方がよいと指令を出します。それでも、さまざまな原因で体内の水分量が正常範囲内に保たれなかったときに起こるのが、水分不足です。

発汗・下痢・嘔吐などの脱水症状で水分補給しない、水分補給が追いつかないなど、さまざまな原因が考えられます。発熱や尿量が増えたり薬の副作用による場合もあり、原因が何であれ、適切な水分摂取がなされていないことからくるものです。

水中毒は1つの浸透圧異常の状態ですが、特に低浸透圧状態あるいは低ナトリウム血症が短時間の内に起こり、何らかの症状が現れます。腎臓の処理能力を超えて電解質バランスが崩れ、低ナトリウム血症が原因で起こるのが、水中毒です。

水分の過剰摂取で大量の水分が体内に入り込むことにより、血液中のナトリウム濃度が下がってしまうことが原因といわれています。高ナトリウム血症・高(低)カリウム血症なども何らかの要因で生じる電解質異常です。私たちの体内で電解質はイオン化し、体液の調整や体内物の輸送を担います。

水中毒の前兆や初期症状について

中毒症状への対応は救急医の専門分野です。急を要する重篤な症状の場合は救急科を受診してください。薬の副作用・水分摂取に対する誤った認識・食事摂取の困難など、水中毒の原因はまれなケースも含めると多岐にわたります。患者さんの通院歴は精神科・小児科・産婦人科・腎臓内科・泌尿器科などさまざまです。

私たちの身体の筋肉の動きや体内水分量の調整の役割を担っているのは、ミネラルです。ミネラルが不足すると痙攣が起こり、重症化すると意識障害が起こることもあります。汗と一緒にミネラルが失われると現れるのが、さまざまな前兆です。ミネラルは経口補水液やスポーツドリンクで手軽に補えます。梅干・塩昆布・塩飴などを水やお茶と一緒に摂るのもよい方法です。

水中毒ではめまい・頭痛・多尿(頻尿)・下痢などの症状が現れ、さらに重症化すると嘔吐・錯乱・意識障害・呼吸困難などの症状が現れます。

代表的なミネラルには以下のものが挙げられます。

  • ナトリウム
  • クロール
  • マグネシウム
  • カルシウム
  • カリウム
  • リン
  • セレン
  • 亜鉛
  • 硫黄
  • 塩素

体液を調整する主な電解質は以下のとおりです。

  • ナトリウム
  • クロール
  • マグネシウム
  • カルシウム
  • カリウム

血液の電解質代謝異常では以下の症状が現れます。

  • 高ナトリウム血症:意識障害・口渇 
  • 低ナトリウム血症:意識障害・手足のつりや脱力
  • 高カリウム血症:意識障害・徐脈(脈が遅い)・手足のつりや脱力・血圧低下
  • 低カリウム血症:手足のつりや脱力
  • 高カルシウム血症:意識障害・口渇・食思不振・悪心・嘔吐
  • 低カルシウム血症:手足のつりや脱力
  • 高マグネシウム血症:血圧低下
  • 低マグネシウム血症:手足のつりや脱力・食思不振・悪心・嘔吐

水中毒の検査・診断

低ナトリウム血症は、血清ナトリウム濃度が135mEq/L未満の場合を指します。血中レベルによる分類は以下のとおりです。

  • 軽度:130~134mEq/L
  • 中度:125~129mEq/L
  • 高度:124mEq/L以下

症状による分類は以下のとおりです。

  • 軽症:症状がほとんどないとされているもの
  • 中症:嘔吐のない嘔気・頭痛・軽度意識変容
  • 重症:嘔吐・痙攣・傾眠・心肺不全・意識障害~昏睡

経過による分類は以下のとおりです。

  • 急性:48時間以内に発症
  • 慢性:急性以外のもの・発症時期不明なものを含む

水分が足りているかどうかは、運動の前後で体重を測るとよくわかります。1時間あたりの発汗量の計算は以下のとおりです。

  • 発汗量=運動前の体重-運動後の体重+飲水量を、運動時間(時間)で割ります。

水中毒の検査と診断では以下の方法が挙げられます。ある程度わかると知られているのが、ツルゴールテスト・尿の色です。

  • ツルゴールテスト:手の甲の皮膚をつまみ上げ、そのまま離すと通常皮膚は2秒以内に戻りますが、脱水状態のときはしわが立ったままになります。ただし、年齢により戻りにくい場合があるので、普段の状態を知っておくことも大切です。
  • 尿の色:飲料やほかの疾患の影響もありますが、色の黄色が濃い場合は脱水傾向、透明に近い場合は水分は足りています。

水中毒の治療

水中毒の治療は水分制限が基本です。腎機能に問題なければ、水分制限のみで血清ナトリウム値は改善すると知られています。重症の場合は輸液の補充が必要となりますが、急速な補正は橋中心髄鞘崩壊症(低ナトリウム血症を急速に補正したときに橋底部を中心に広範な脱髄が見られる病態)を生じる可能性があり、ゆるやかな補正が必要です。

水中毒の治療は、マンニトールの静脈内投与による脳浮腫の抑制、生理食塩水あるいは細胞外液補充液による低ナトリウム血症の補正となるでしょう。水中毒後、血中CPK値が著しく上昇してくる場合はダントロレンナトリウムを静脈内投与します。その他、水分摂取抑制・スポーツドリンク飲料による血清ナトリウム低下の抑制・オピオイド拮抗薬ナロキソンの投与などです。

多飲水症状はD1遮断作用の強い抗精神病薬に多いことから、それらを服用中の患者さんでは、D1遮断作用の少ない抗精神病薬への変更が有効なことがあります。気候・湿度・状態で異なりますが、1日の水分摂取量は適量の2L前後を守りましょう。

水中毒になりやすい人・予防の方法

多量の発汗で体内の水分が失われるとき、水だけの過剰摂取は危険です。簡単に補給できるのは経口補水液やスポーツドリンクですが、2つには違いがあります。スポーツドリンクには糖分が多く含まれ、水やお茶のような頻繁な摂取はおすすめできません。経口補水液は電解質濃度が高く、水分の吸収を速めるため、適切な量の糖分と塩分がバランスよく入っています。梅干・塩昆布・塩飴などと一緒に水やお茶を飲むのもおすすめの予防法です。

精神疾患の患者さんが薬の副作用で水中毒や病的多飲水になりやすいことは、あまり知られていません。水中毒は重篤な合併症を起こし生命の危険に関わる場合もあり、早期発見と予防が重要です。統合失調症を中心とした精神疾患の患者さんの多飲症は、薬の副作用で複雑な水中毒を起こす場合もあり対応が困難なことから、生体インピーダンス法による体内水分率の測定が有効ではないかとの論文報告があります。

生体インピーダンス法とは体内に微弱な電流を流し、電流の流れやすさ(電気抵抗=インピーダンス)の程度を計測し、体脂肪率を推定する方法です。体内の筋肉や骨など電解質を多く含む組織は電気を通しやすく、体脂肪はほとんど電気を通しません。また、2002年に行われたボストンマラソン時のランナーの水中毒発症に関する論文があります。ゴール後に3人のランナーが重篤な低ナトリウム血症であったとの報告です。

結論として走行中の体重増加、長いレース時間、体格指数が低ナトリウム血症に関連しています。脱水を気にするあまり運動中に水分を摂り過ぎると低ナトリウム血症、水中毒になる可能性があることも知っておきましょう。


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