橈骨近位部骨折

橈骨近位部骨折の概要

橈骨近位部骨折（とうこつきんいぶこっせつ）とは、前腕の橈骨（肘から手首までにある2本の骨のうち、親指側に位置する骨）の肘関節付近で骨折が生じることを指します。 この骨折は、次の2種類に分類されます。

• 橈骨頭骨折
• 橈骨頚部骨折

橈骨頭骨折は、橈骨の頭部（肘関節に接続する部分）で発生する骨折で、成人に多くみられます。転倒時に手をついた際の衝撃や外傷が原因となることが一般的です。橈骨頚部骨折は、橈骨の頚部（頭部よりも手首側にある部分）で発生する骨折で、小児に多くみられます。特に、手を伸ばして転倒した際に生じることが多いです。

これらの骨折が起こると、肘関節の曲げ伸ばしや回旋の動きが制限されることがあります。また、骨折に伴い、肘関節周囲の腫れや痛みが生じ、特に腕を回す動作で違和感を覚えることがあります。

症状が軽度の場合は保存療法で改善が期待されますが、重度の骨折や複雑な骨折の場合は、手術療法が検討されることがあります。そのため、肘関節を動かして違和感がある場合は、医療機関に相談することが重要です。

橈骨近位部骨折の原因

橈骨近位部骨折は、以下のような状況で発生することが多くあります。

転倒

よくみられる原因は、手を伸ばして転倒することです。転倒時に、地面からの強い衝撃が手首を通じて肘関節へ伝わり、骨折を引き起こすことがあります。特に、滑りやすい路面や段差のある場所では転倒する可能性が高くなるため、注意が必要です。

スポーツ活動

バスケットボールやサッカーなどの接触が多いスポーツでは、転倒や衝突によって肘関節へ強い外力が加わるため、骨折する可能性があります。また、スキーやスノーボードで転倒した際、手を強くついてしまうと、橈骨近位部に過度な負荷がかかり骨折が生じることがあります。

交通事故

バイクや自転車での転倒事故ではとっさに手をつくことが多く、その衝撃が肘関節に集中することで骨折する場合があります。このような事故では、橈骨近位部だけでなく、周囲の靭帯や橈骨近位部以外にも損傷が及ぶ可能性があるため注意が必要です。

骨粗鬆症

高齢者では、骨がもろくなる骨粗鬆症が進行していることがあります。骨が弱くなっていると、軽い転倒やわずかな衝撃でも骨折してしまうことがあります。

橈骨近位部骨折の前兆や初期症状について

橈骨近位部骨折は、転倒や外的な衝撃が原因で発症することが多いため、明確な前兆はみられないのがほとんどです。ただし、次の症状がみられた場合、橈骨近位部骨折の可能性がありますので、早めに整形外科を受診しましょう。

整形外科で画像診断などの詳細な評価を受けることで、骨折の有無や重症度を詳しく評価できるため、適切な治療方針が決定されます。

痛み

肘関節周辺に強い痛みを感じます。特に、肘を曲げたり伸ばしたりする動作や、手のひらを上下に向ける（回内・回外）の動作で痛みが強くなります。

腫れや内出血

骨折による炎症で肘関節周辺が腫れてきたり、、赤紫色のあざ（内出血）が出たりすることがあります。

関節の動かしにくさ

肘関節の曲げ伸ばしが難しくなり、腕を伸ばしたり物を持ち上げたりする動作が制限されます。

変形

骨折が重度の場合、肘関節の位置が正常からずれてしまい、外見上からも変形していることが確認できます。

橈骨近位部骨折の検査・診断

橈骨近位部骨折の診断は、主に以下の方法で行われます。

身体検査

まず、医師が問診や視診・触診を通じて、次の点を確認します。

• 転倒やスポーツ中の外傷など、症状を感じたきっかけ
• 痛みが生じる動作（肘の曲げ伸ばしや、手のひらを上下に向ける動作など）
• 肘関節の動かしにくさ（可動域の制限の有無）
• 腫れや内出血の有無

その後、腕を動かして実際の痛みの程度を確認したり、骨折が疑われる部位を軽く圧迫して反応をみたりします。これにより、橈骨近位部骨折の可能性を判断します。

画像診断

橈骨近位部骨折の詳細な評価を行うために、以下の画像検査が実施されます。

X線検査

橈骨近位部骨折の診断には、まずX線検査が行われます。肘関節の正面・側面の画像を撮影し、骨折の有無や転位（骨のズレ）を確認します。多くの場合、橈骨近位部骨折はX線画像で明確に示されます。

CT検査

X線検査で十分な情報が得られない場合や、複雑な骨折が疑われる場合に実施されます。CT検査は、より詳細な骨の状態を確認するための有効な検査です。

MRI検査

骨折に加えて、靱帯の損傷や神経の圧迫が疑われる場合に行われます。MRI検査を行うことで、骨だけでなく、軟部組織の状態を詳しく把握することができます。

橈骨近位部骨折の治療

橈骨近位部骨折の治療は、骨折の重症度によって異なります。軽度の場合は保存療法が選択されますが、骨のズレ（転位）がある場合や骨折の程度が重い場合は、手術療法が検討されます。

保存療法

保存療法では、以下の方法が用いられます。

安静と固定

ヒビが入るなど軽度の骨折の場合は、安静を保ち、ギプスなどで骨折部を固定して骨の癒合を助けます。固定期間は症状によって異なりますが、一般的に3〜4週間程度です。

リハビリテーション

肘関節の運動療法や筋力強化を行うことで、機能の回復を目指します。リハビリテーションは個々の状態に合わせて進めることが重要です。適切な運動を継続することで、痛みの軽減や関節のこわばりを防ぐことができます。

手術療法

橈骨近位部骨折の手術療法の判断には、Mason-Morrey分類が用いられます。

• Type 1：転位なし（転位が2mm未満）
• Type 2：転位あり（転位が2mm以上）
• Type 3：粉砕骨折
• Type 4：合併損傷

Type 2以上の場合は、手術療法が検討されます。

手術では、骨の安定性を確保するためにプレートや髄内釘（ネイル）を用いた内固定が一般的です。粉砕骨折など、修復が難しい場合は、損傷した橈骨頭を人工関節に置き換える手術が行われることもあります。 手術後はできるだけ早期にリハビリテーションを開始し、関節の動きを取り戻すことを目指します。

橈骨近位部骨折になりやすい人・予防の方法

橈骨近位部骨折は、次の条件に当てはまる場合、骨折を生じる可能性が高くなるため注意が必要です。ここでは、骨折しやすい方の特徴と予防方法について説明します。

橈骨近位部骨折になりやすい方の特徴

次の要因に該当する場合は、骨折しやすいため注意が必要です。

高齢者

加齢に伴い骨密度が低下するため、ちょっとした転倒でも骨折しやすくなります。特に骨粗鬆症の方は、弱い衝撃でも骨折する可能性があるため注意が必要です。

スポーツ選手

バスケットボールやサッカーなどの接触が多いスポーツ、またスキーやスノーボードのようなスピードを伴う競技では、転倒時に肘関節へ大きな負担がかかり、骨折することがあります。

バイクや自転車をよく利用する場合

バイクや自転車に乗る機会が多い場合、転倒時に手をつくことで骨折することがあります。特に、路面の段差や滑りやすい場所では注意が必要です。

予防の方法

以下の方法を実践することで、 橈骨近位部骨折を予防できるかもしれません。

運動と筋力トレーニング

骨を丈夫にし、転倒を防ぐために、定期的な運動や筋力トレーニングが推奨されます。特に、下半身の筋力を強化するトレーニングやバランスを改善する運動が効果的です。

安全な環境を整える

転倒を防ぐために、自宅内の段差をなくしたり、障害物を取り除いたりして安全な環境を整えることが重要です。

定期的な健康診断

骨密度測定を含む定期的な健康診断を受けることで、骨粗鬆症の早期発見と対策が可能になります。特に高齢者は、骨の状態を定期的にチェックすることが推奨されます。

栄養管理

骨の強さを保つために、カルシウムやビタミンDを積極的に摂取しましょう。特に高齢者や成長期の子どもは、栄養が骨の健康に重要な役割を果たします。