

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
変形性頚椎症の概要
頚椎とは、頭を支える役割を担いながら、首を前後・左右・回旋など多方向に動かす機能を持つ骨の連なりです。7つの椎体と、その間にある椎間板、さらにそれを補強する靱帯や関節、周囲の筋肉によって構成されています。この構造によって頚椎は柔軟でありながら安定性も保たれていますが、年齢とともに変性が起こりやすい部位でもあります。
変形性頚椎症とは、こうした頚椎の構造に加齢や長年の負荷が積み重なることで、椎間板の変性や骨棘(骨のでっぱり)の形成、靱帯の肥厚などが起こり、脊髄や神経根が圧迫されることによって生じる神経障害です。
圧迫の部位によって症状が異なり、脊髄そのものが障害される頚椎症性脊髄症と、脊髄から分岐した神経根が圧迫される頚椎症性神経根症に分類されます。両方が同時に生じることもあり、症状が複雑になる場合もあります。
この疾患は特に中高年に多くみられますが、スマートフォンやパソコンの長時間使用によって若年層でも頚椎に慢性的な負荷がかかり、同様の変性が進行する例も増えています。放置すると徐々に進行し、生活に支障をきたすため、早期発見と対応が重要です。
変形性頚椎症の原因
変形性頚椎症の主な原因は、加齢に伴う頚椎構造の変化にあります。なかでも椎間板は、年齢とともに水分が失われて弾力性を失い、圧力を吸収する能力が低下します。これにより椎体同士の隙間が狭くなり、骨同士の接触が増えることで椎体縁に骨棘が形成されやすくなります。
同時に、頚椎の安定を支える靱帯(特に後縦靱帯や黄色靱帯)が肥厚したり、椎間関節に炎症や変形が起きたりすることで、脊髄や神経根が圧迫される状態になります。これらの変化は複合的に進行し、特に頚椎の可動部位(第5〜7頚椎)で起こりやすい傾向があります。
また、近年注目されている要因としてストレートネック(スマホ首)があります。長時間前かがみの姿勢を続けることで、頚椎の自然な湾曲が失われ、常に不自然な負荷がかかる状態が続くと、若年層でも変性が進行しやすくなります。これに加え、体幹の筋力低下、姿勢不良、過去の頚椎外傷、さらには遺伝的な骨格の特徴もリスク因子となり得ます。
このように、変形性頚椎症は加齢だけでなく、現代の生活習慣や身体的背景が複雑に絡み合って発症する疾患であるといえます。
変形性頚椎症の前兆や初期症状について
変形性頚椎症の初期症状は軽度で不明瞭なことが多く、肩こりや首の重だるさといった症状として現れることが一般的です。これらは日常的によくある不調と捉えられてしまうため、疾患としての認識に至らないまま進行してしまうことがあります。
しかし、神経への圧迫が強くなると、徐々に手のしびれや細かい動作の不器用さが現れてきます。例えば、箸が使いにくい、字が書きにくい、小さなボタンが留めづらいといった症状が代表的です。これらは脊髄が圧迫されることで出現する頚椎症性脊髄症によるもので、進行すると歩行中のふらつきや階段の昇降が不安定になるなど、下肢の運動障害も見られるようになります。排尿が困難になる、あるいは頻尿などの膀胱障害が現れることもあり、これらは進行した脊髄障害のサインとされます。
一方、神経根が圧迫される頚椎症性神経根症では、首から肩、腕、指先にかけて電気が走るような鋭い痛みや焼けるようなしびれが片側に出ることが多く、特に腕を下げたり首を後ろに反らせたりしたときに痛みが強くなる傾向があります。
これらの症状が日常的に現れるようになった場合は、早期に整形外科や脳神経外科を受診しましょう。
変形性頚椎症の検査・診断
変形性頚椎症の診断には、問診と神経学的診察、そして画像検査が欠かせません。まず問診では、症状の経過や痛みの性質、どのような動作で症状が悪化・軽減するかなどを詳しく確認します。その後、医師による神経学的診察を通じて、感覚の異常、筋力低下、深部腱反射の異常や病的反射の有無などを評価します。
まず、画像検査としてX線(レントゲン)撮影を行います。X線では頚椎の配列異常や骨棘の有無、椎間板の高さの減少など、骨に関する変化を確認することができます。ただし、脊髄や神経そのものの状態まではわからないため、症状がある場合にはより詳細な検査が必要となります。
精査として行われるのがMRI検査です。MRIでは脊髄や神経根の圧迫の程度、椎間板の状態、さらには脊髄内に浮腫や変性が起きていないかなどを確認することができます。特に頚椎症性脊髄症が疑われる場合には、MRIが診断において重要な情報源となります。
必要に応じてCT検査を併用することもあります。CTは骨の細かい構造を評価するのに優れており、椎間孔の狭小化や骨棘の形成状態を詳しく確認できます。手術を検討する際の術前評価としても利用されます。
また、症状がほかの神経疾患と重複している場合には、末梢神経障害(手根管症候群など)や筋疾患との鑑別のために神経伝導検査や筋電図が行われることもあります。
変形性頚椎症の治療
治療は大きく保存療法と手術療法に分かれ、まずは症状の程度や進行度に応じて保存療法から開始されることが一般的です。保存療法には、薬物療法、理学療法、装具療法、神経ブロックなどが含まれます。
薬物療法では、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬、神経障害性疼痛に対するプレガバリンやビタミンB12製剤などが用いられます。症状が強い場合には、頚部神経根ブロック注射などにより局所の炎症と痛みを緩和することもあります。装具療法としては、頚椎カラーを短期間使用して首の動きを制限し、症状の悪化を防ぎます。
理学療法では、牽引療法や温熱療法、電気刺激療法などが行われ、首や肩周囲の筋肉の緊張を和らげ、血流を改善することを目指します。さらに、頚部の可動域や姿勢の改善を目的とした運動療法も併用します。
保存療法で十分な効果が得られず、運動障害や排尿障害など明らかな神経症状が進行している場合には、手術を検討します。主な手術方法としては、前方除圧固定術、椎弓形成術、後方除圧固定術などがあります。
前方除圧固定術は、首の前側から椎間板や骨棘を除去して神経の圧迫を解除し、人工骨やケージを用いて椎体を固定する方法です。椎弓形成術は、後方から椎弓という骨を開くことで脊柱管を広げ、脊髄への圧迫を取り除きます。後方除圧固定術では、椎弓形成に加えてスクリューやロッドを用いて椎体を安定化させる処置を行います。
どの手術法を選ぶかは、病変の部位、圧迫の程度、頚椎のアライメントなどを総合的に判断して決定します。
変形性頚椎症になりやすい人・予防の方法
変形性頚椎症は加齢とともに誰にでも起こりえる疾患ですが、特に注意が必要なのは、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用などにより、常に前かがみの姿勢で頚椎に負担をかけ続けている方です。また、頚部外傷の既往がある方、姿勢が悪い方、筋力が低下している方も発症リスクが高くなります。
予防のためには、まず日常生活での姿勢を意識し、首や背中に過度な負担をかけないことが重要です。長時間同じ姿勢を続けず、定期的に首や肩を動かすストレッチや軽い運動を取り入れることで、筋肉の柔軟性と血流を保つことができます。
また、睡眠時の姿勢にも注意が必要であり、頚椎の自然な湾曲を保てるような高さと硬さの枕を選ぶことがすすめられます。枕の高さが合わないと、寝ている間にも頚椎に過度な負荷がかかる可能性があります。
さらに、体幹や肩甲帯の筋力を維持することも、頚椎にかかる負担を分散するうえで有効です。適度な筋力トレーニングや有酸素運動も日常的に取り入れるとよいでしょう。




