

監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
亜急性連合性脊髄変性症の概要
亜急性連合性脊髄変性症は、髄鞘(神経を包んで伝達速度を高める鞘)を維持するのに必要なビタミンB12の欠乏によって引き起こされる神経疾患です。
初期には全身の倦怠感、両側の手足にピリピリとした感覚異常や筋力低下が生じます。進行すると歩行時のふらつきや転倒が増加します。
ビタミンB12の欠乏は、食事からの摂取不足や消化管手術による吸収障害、悪性貧血などが原因です。
診断は神経学的診察と血液検査でのビタミンB12濃度測定などを組み合わせて行われます。MRIでは脊髄の後索に特徴的な異常信号が見られることがあります。
治療はビタミンB12の補充療法が基本です。発症から早期に治療を開始すれば症状は完全に回復する可能性がありますが、診断や治療が遅れると神経障害が残る可能性があります。
高齢者、消化器の手術歴がある人、長期の菜食主義者ではリスクが高い傾向です。

亜急性連合性脊髄変性症の原因
亜急性連合性脊髄変性症の主な原因は、体内のビタミンB12不足です。ビタミンB12は神経の髄鞘を維持する重要な栄養素であり、欠乏すると神経伝達に障害が生じます。ビタミンB12欠乏には複数の要因があります。
食事からの摂取不足
ビタミンB12は主に肉・魚・乳製品などの動物性食品に含まれます。長期間の厳格な菜食主義(ヴィーガンなど)によってビタミンB12が不足することがあります。
吸収障害
ビタミンB12は胃で分泌されるタンパク質と結合し、小腸で吸収されます。胃や腸の疾患・手術が原因でビタミンB12の吸収障害が引き起こされることがあります。
悪性貧血(自己免疫性胃炎)
悪性貧血は自己免疫によって胃の細胞を攻撃し、ビタミンB12の吸収に必要なタンパク質の生成が減少する疾患です。十分な食事摂取があってもビタミンB12欠乏と貧血を引き起こします。
亜急性連合性脊髄変性症の前兆や初期症状について
亜急性連合性脊髄変性症の初期症状は全身の倦怠感(だるさ)です。続いて両側の手足にしびれ感やピリピリとした感覚異常が生じます。異常感覚は休息しても改善せず、徐々に強くなる特徴があります。
症状が進むと、巧緻運動障害(細かい動作がしにくくなる)や軽度の筋力低下が見られるようになります。ボタンかけや箸の使用など、指の細かい動きが必要な日常動作にも影響します。
さらに進行すると、振動覚(物体の振動を認識する感覚)や位置覚(自分の手足がどこにあるのか認識する感覚)が鈍くなるため、歩行時に足がうまく上がらず躓きやすくなったり、ふらついて真っ直ぐ歩けなくなったりします。脚のこわばり(痙性)や腱反射の低下・亢進などの神経学的異常も検出されるようになります。
また、ビタミンB12欠乏の影響は脊髄だけでなく全身に及ぶため、めまい、動悸、疲労感といった貧血症状が現れることもあります。中枢神経への影響として、軽度の記憶障害、思考力の低下、抑うつ傾向、認知症などの精神神経症状が現れることもあります。
亜急性連合性脊髄変性症の検査・診断
亜急性連合性脊髄変性症が疑われる場合、神経学的診察や血液検査などによってビタミンB12欠乏の有無を確認し、他の疾患との鑑別が行われます。
神経学的診察
診察では医師による問診と診察で症状や既往歴を詳しく調べます。特に食生活(動物性食品の摂取状況)や胃の手術歴、貧血症状の有無などが重要な手がかりです。四肢の感覚(振動覚や位置覚など)、筋力、腱反射の状態も確認します。
血液検査
血液検査では血中のビタミンB12濃度を測定し不足の有無を確認します。葉酸値も測定して巨赤芽球性貧血の原因を鑑別します。赤血球の増大、またはヘモグロビン低下による貧血についても調べます。必要に応じて自己抗体検査を行い、悪性貧血の診断をします。
画像診断
MRI検査の特徴的な所見として、脊髄後方(後索)に左右対称の異常信号が認められることがあります。MRIの所見は確定診断の助けとなるだけでなく、椎間板ヘルニアや腫瘍、他の類似症状を起こす別疾患を除外するのに役立ちます。
その他の検査
必要に応じて神経伝導速度検査や誘発電位検査といった電気生理学的検査も行われ、末梢神経障害の有無や脊髄後索の機能が評価されます。
亜急性連合性脊髄変性症の治療
亜急性連合性脊髄変性症の治療は、ビタミンB12の補充療法を中心に行われ、必要に応じてリハビリテーションを組み合わせます。発症から早期段階で治療を開始できれば、多くの患者で症状は完全に回復する可能性があります。診断や治療開始が遅れると、進行した神経変性は不可逆的となり、失われた機能の十分な回復が難しくなる可能性もあります。
ビタミンB12補充療法
治療の中心はビタミンB12の補充療法です。主に筋肉注射によって体内にビタミンB12を補給し、不足状態を是正します。欠乏の原因(胃切除や悪性貧血など)が継続する場合は、生涯にわたって定期的な補充が必要です。
リハビリテーション
ビタミンB12補充と並行して、症状に対するリハビリテーションも行います。歩行障害や筋力低下がある場合には、筋力維持・向上や歩行バランスの訓練を実施します。しびれや感覚鈍麻が強い場合は、感覚が戻るまで杖や歩行器の使用を検討します。
亜急性連合性脊髄変性症になりやすい人・予防の方法
亜急性連合性脊髄変性症は、ビタミンB12が体内で不足しやすい人に多く見られます。高齢者では食事量の減少で慢性的なビタミン不足が起こりやすくなります。
また、胃全摘出や小腸切除などの消化管手術を受けた人、慢性萎縮性胃炎や悪性貧血のある人も吸収障害のリスクが高くなります。長期間の完全菜食主義も動物性食品からのビタミンB12摂取が制限されるため注意が必要です。
予防には肉・魚・乳製品などを含むバランスの良い食事を心がけることが大切です。なお、葉酸の過剰摂取は、貧血症状だけを改善してビタミンB12欠乏による神経症状が目立たなくなることがあるため、注意が必要です。
参考文献
- 早期に診断,治療し得た亜急性連合性脊髄変性症の一例/整形外科と災害外科/73巻/4号/2024年/p.915-917
- ビタミンB12欠乏性神経障害/臨床神経生理学/45巻/6号/2017年/p.532-540
- てんかん発作を主徴としたビタミン B12 欠乏性脳脊髄症の1例/臨床神経学雑誌/第49巻/4号/2009年/p.179-185
- 橋本病に悪性貧血と亜急性連合性脊髄変性症を合併した高齢男性の1例/臨床神経学/61巻/7号/2021年/p.461-465
- 高齢者の手足しびれ感の診断のポイント/日本内科学会雑誌/103巻/8号/2014年/p.1876-1884
- 亜急性脊髄連合変性症の2例/ビタミン/75巻/9号/2001年/p.485-486
- 血清ビタミンB12値正常の亜急性脊髄連合変性症の1例/日本内科学会雑誌/95巻/10号/2006年/p.2084-2086




