

監修医師:
岡田 智彰(医師)
目次 -INDEX-
腕神経そう損傷の概要
腕神経そう損傷(わんしんけいそうそんしょう)は、首から腕にかけての神経の束が傷付くことで生じる神経障害です。
腕神経そう(わんしんけいそう)とは、首の骨(頸椎)から出た神経が集まり、肩を通って腕や手指へと伸びる神経の束です。この神経の働きによって、腕を動かしたり、触った感覚を感じたりすることができます。
しかし、交通事故やスポーツの強い衝撃、出生時の外傷などが原因で腕神経そうが引っ張られたり圧迫されると、腕の動きや感覚に異常が生じることがあります。例えば、腕をあげるのが難しくなる、コップを持ち上げる動作がしにくくなる、手の感覚が鈍くなるなどの症状が現れます。重症の場合、肩や腕がまったく動かせなくなることもあります。
腕神経そう損傷の治療は、損傷の程度によって異なります。軽度の損傷では、リハビリテーションなどの保存療法が推奨され、時間とともに回復が期待されます。一方で、神経が完全に断裂している場合は、手術による神経の修復が必要になることがあります。
腕神経そう損傷は、適切な治療を受けることで回復する可能性がありますが、重度の損傷では後遺症が残ることもあります。そのため、症状が現れた場合は早めに医師に相談し、適切な診断を受けることが重要です。
腕神経そう損傷の原因
腕神経そう損傷は、外からの強い力や長時間の圧迫などが原因で発症します。次のような状況が主な原因となります。
交通事故や転倒などによる外傷
自動車やバイクの事故は、腕神経そう損傷の一般的な原因のひとつです。事故の衝撃で首や腕が急激に引っ張られたり、圧迫されたりすると、腕神経そうが過度に伸ばされ、神経が部分的に断裂したり機能が低下することがあります。
スポーツ事故
ラグビーやアメリカンフットボール、柔道などの接触の多いスポーツでは、肩や首に強い衝撃が加わるため、腕神経そうが損傷することがあります。例えば、タックルを受けた際に肩から強く倒れ込むことで神経が圧迫される場合や、相手から腕を強く引っ張られることで腕神経そうが過度に伸ばされて損傷することがあります。
出産時の損傷
出産時に赤ちゃんの肩が母体の骨盤に引っかかると、腕神経そうが過剰に引き伸ばされることがあります。特に、4,000g以上の高出生体重児では、肩が産道にひっかかりやすく、無理に引っ張ることで損傷する可能性が高くなります。
腕神経そう損傷の前兆や初期症状について
腕神経そう損傷は、損傷の程度や場所によって異なりますが、以下のような前兆や初期症状が現れることがあります。これらの症状が現れた場合は、できるだけ早く整形外科を受診しましょう。放置すると症状が悪化し、筋力低下や感覚異常が悪化する恐れがあります。医師による画像診断や神経学的検査を受けることで、損傷部位や重症度が明らかになり、適切な治療を開始できます。
腕や肩が動かしにくい
腕や肩の筋力低下が見られ、日常的な動作が困難になります。例えば、シャツのボタンを留める、ペンを持って字を書くなどの動作が難しくなることがあります。
しびれや感覚の異常
腕や手にしびれを感じたり、感覚が鈍くなることがあります。特に、肩から手にかけてしびれが続く場合は、腕神経そうのどこかに障害がある可能性があります。
痛み
肩や腕に刺すような鋭い痛みや、焼けるような感覚が生じることがあります。痛みは腕を動かす際に悪化しやすく、特に物を持ち上げたり肩を動かしたりする際に強く感じることがあります。
腕神経そう損傷の検査・診断
腕神経そう損傷を正確に診断するためには、複数の検査を行って総合的に判断します。
身体検査
医師はまず、問診や視診・触診を通じて、次の点を確認します。
- 症状が現れたきっかけ(交通事故、スポーツ中など)
- どのような動作で痛みやしびれが出るか(物を持ち上げたときなど)
- 痛みやしびれを感じる部位(腕、肩、指先など)
その後、腕を持ち上げる、握る、押すといった動作を評価し、筋力の低下やしびれの部位を確認します。これにより、どの神経が損傷したか推定できます。
画像診断
腕神経そう損傷の詳細な評価を行うため、以下の画像検査が実施されます。
X線検査
X線検査は骨折の有無を確認するために行われます。腕神経そう損傷の直接的な評価はできませんが、首・肩・腕などに骨折がないかを調べる重要な検査です。
CT検査
損傷部位の詳細な確認や、神経や周囲の組織に異常があるかを評価するために用いられます。造影剤を用いることで周囲血管の損傷を詳細に調べることが可能です。
MRI検査
神経の損傷はMRI検査が最も有用です。損傷や断裂部の特定が可能です。また、筋肉・靱帯・血管の状態も詳しく確認できます。そのため、より精密な腕神経そう損傷の診断が必要な場合に行われます。
神経伝導速度検査(NCS)
神経の伝導速度を測定し、損傷の程度を評価します。手足の神経へ皮膚の上から電気的刺激を与え、信号の伝わる速さを測定します。神経が損傷している場合、電気信号がうまく伝わらず、結果として伝達速度が低下します。
筋電図(EMG)
筋電図検査では、筋肉に細い針を刺して電気信号を測定し、筋肉が神経からの命令を適切に受け取れているかを調べます。例えば、健康な筋肉であれば波形がしっかりと現れますが、腕神経そう損傷などで神経が損傷している場合、波形が不規則になったり、弱くなったりすることがあります。
腕神経そう損傷の治療
腕神経叢損傷の治療は、損傷の程度や発生時期、患者さんの年齢や活動状況などに応じて異なります。ほとんどの場合、保存療法で症状が改善しますが、症状が重度の場合は手術療法を検討することがあります。
保存療法
軽度の損傷であれば、保存療法を行うことで、数週間〜数ヶ月かけて自然に回復することが期待できます。例えば、腕が動かしにくいものの、しびれが軽度であり、痛みが強くない場合などは、保存療法が適用されます。
安静と装具の装着
症状が強くなる動きを避けるために安静を指示されることがあります。その際に、肩や腕を固定する装具を使用し、神経への負担を減らします。
リハビリテーション
理学療法士などの専門職が、関節の可動域の維持と筋力向上を目的に、運動療法やストレッチを行います。
投薬治療
鎮痛剤や抗炎症薬を使用して痛みを軽減させます。長期間の痛みに悩まされている場合、抗うつ薬や抗けいれん薬を投与することで痛みが軽減されることがあります。
手術療法
重度の損傷や保存療法で改善が見込めない場合は、手術療法を検討します。手術後も神経組織はゆっくりと再生するため、回復まで数ヶ月~数年かかる場合があります。特に、受傷後6ヶ月以内に手術を行うことで、機能回復の可能性が高まるとされています。
神経移植術
損傷した神経を修復するために、別の部位から神経を取って移植する方法です。一般的には、足の神経である腓腹神経が使用されます。
神経縫合術
切れた神経を顕微鏡下で直接つなぎ合わせる手術です。しかし、損傷の程度によっては神経縫合が難しいため、神経移植術を検討する場合もあります。
神経剥離術
損傷した神経を周囲の組織から取り除くことで、神経の再生や機能回復を促します。神経剥離術は単独で行われることもありますが、神経移植術などと併せて実施されることが多いとされています。
腕神経そう損傷になりやすい人・予防の方法
腕神経そう損傷は、誰でも発症する可能性がありますが、特定の条件に当てはまる場合は、より注意が必要です。ここでは、腕神経そう損傷になりやすい方の特徴と予防方法をまとめます。
腕神経そう損傷になりやすい方の特徴
次の要因に該当する場合は、腕神経叢損傷になりやすいので注意が必要です。
接触の多いスポーツをしている場合
アメリカンフットボール、ラグビー、格闘技などのスポーツでは、肩や首に強い衝撃が加わる場面が多く、腕神経そうが損傷する可能性があります。特に、タックルや転倒時に肩から強く落ちると、腕神経そうへの負担が大きくなり損傷の可能性が高まります。
バイクや自動車によく乗る場合
バイクや自動車の運転中に交通事故や転倒が発生すると、肩や首が激しく動かされることで腕神経そうが損傷することがあります。
予防の方法
以下の方法を実践することで、腕神経そう損傷の発生を予防できる可能性があります。
定期的にストレッチと筋力トレーニングを行う
普段から柔軟性を保ち、筋肉を強化することで、神経への負担を軽減できます。特に、首や肩の筋肉を強化することが効果的です。
事故の予防を努める
バイクや自転車などを使う際は、ヘルメットやプロテクターを装着することで、事故時の衝撃を和らげることができます。また、自動車の運転時も安全運転を意識し、シートベルトを着用することが重要です。ヘルメットやプロテクターは、衝撃を受けた際に首や肩の動きを制限し、腕神経そうへのダメージを軽減する効果が期待できます。
関連する病気
- 腕神経叢麻痺
- 上肢の運動障害
- 感覚障害
参考文献




