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西村 絢子

監修医師
西村 絢子(医師)

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近畿大学卒業後、大阪府内で初期研修、その後東京女子医大や国立循環器病研究センターなどで後期研修を経て、現在は都内の総合病院勤務。日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医、日本抗加齢医学会専門医。

クーゲルベルグ・ウェランダー病の概要

クーゲルベルグ・ウェランダー病(Kugelberg-Welander病, KW病)は、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy, SMA)の軽症型であるⅢ型に分類される遺伝性の運動ニューロン疾患です。
乳幼児期から思春期に発症し、特に下肢を中心とした筋力低下や筋萎縮が徐々に進行し、30歳頃までに多くの例は歩行不能となります。知能や寿命には影響は少ないとされ、早期の治療介入や適切なケアにより良好な生活の質を維持できます。

クーゲルベルグ・ウェランダー病の原因

KW病は第5染色体(5q13という部位)にある運動神経生存遺伝子(survival motor neuron, SMN)の不活性化変異によって起こります。これによりSMN蛋白質が不足し、脊髄前角の運動神経細胞が徐々に減少することで筋力低下などの症状が現れます。遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、両親が保因者(父親由来または母親由来の遺伝子がどちらか1つだけ変異している場合)の場合、子どもが発症する確率は25%と報告されています。SMAのなかでKW病より重症であるSMAⅠ型やSMAⅡ型に95%にSMN1遺伝子欠失が認められる一方で、SMAIII型であるKW病は約半数のSMN遺伝子に変異がみられます。

主にSMN蛋白を作るSMN遺伝子はSMN1遺伝子です。また、SMN1遺伝子の近傍にあるSMN2遺伝子でもわずかなSMN蛋白が作られます。SMN2遺伝子はわずかなSMN蛋白の産生のほか、神経細胞アポトーシス抑制蛋白(neuronal apoptosis inhibitory protein,NAIP)という神経細胞の減少を抑える蛋白質の産生も担います。SMAにおいてはSMN1遺伝子の変異により、SMN1遺伝子由来のSMN蛋白質が作られず、代わりにSMN2遺伝子からつくられたわずかなSMN蛋白しかない状態になります。このため、両親から引き継いだSMN2遺伝子の数が多いほどSMAの症状は軽症の傾向がみられます。

クーゲルベルグ・ウェランダー病の前兆や初期症状について

KW病の初期症状は、歩きにくさや頻繁な転倒、階段の昇降困難、Gowers徴候と呼ばれる立ち上がりにくさなどです。太ももや腰回りの筋肉が特に弱くなり、進行すると筋肉のぴくつくような振え(線維束性収縮)がみられることもあります。多くの場合、発症は1歳6ヶ月以降であり、歩行はできるようになりますが、次第に転びやすい、歩けない、立てないといった運動症状がみられますが、個人差があります。思春期までに歩行不能となった場合は側弯症が目立ちます。

症状に気付いた場合は小児科を受診し、必要に応じて脳神経内科または小児神経医の診察を受けます。

クーゲルベルグ・ウェランダー病の検査・診断

診察では家族歴や症状が出現してからの経過などの病歴を聴取し、筋力低下や腱反射の低下などの身体の状態を確認します。これらによりKW病を含むSMAが疑われた場合に遺伝子検査を行います。遺伝子検査は、SMN1遺伝子の欠失や変異を血液からDNAを抽出して行います。補助的に血液検査(クレアチニンキナーゼ値測定)、筋電図や神経伝導検査、筋MRIが用いられることもあります。また、近年では新生児スクリーニングによる早期発見も行われています。

クーゲルベルグ・ウェランダー病の治療

KW病の治療は、疾患修飾療法と対症療法に分けられます
疾患修飾療法遺伝子に対する治療であり、SMN2蛋白の産生を促す治療薬(ヌシネルセン、リスジプラム)やSMN1遺伝子を補う遺伝子治療薬(オナセムノゲン アベパルボベク)があります。

ヌシネルセンとリスジプラムは、SMN2遺伝子の選択的スプライシングを調整する薬剤です。これらの作用により、SMN2遺伝子の作用が発現しやすくなります。ヌシネルセンは核酸医薬、リスジプラムは低分子薬に分類される薬剤です。SMN2遺伝子が発現しやすくなると、SMN蛋白や神経細胞アポトーシス抑制蛋白が増え、既存の運動神経細胞の保護作用が期待できます。

ヌシネルセンの投与方法は髄腔内注射という、腰部から脊髄腔に向かって長い注射針を挿入して薬液を投与する方法をとります。KW病では多くの場合6ヶ月ごとの投与になります。リスジプラムの投与方法は経口投与で、毎日の服薬が必要です。乳幼児でも口にしやすいイチゴ味のシロップで毎日投与します。ヌシネルセンは全年齢に使用ができ、リスジプラムは2ヶ月以上の乳児であれば使用できます。

オナセムノゲン アベパルボベクは自己相補型アデノ随伴ウイルス9型と呼ばれるウイルスのカプシドという構造に封入された正常ヒトSMN1遺伝子を含む薬剤です。これがSMN蛋白産生細胞の閣内に取り込まれると、SMN1遺伝子によるSMN蛋白の産生が期待できます。投与方法は点滴などの投与と同じく、静脈投与です。静脈から1時間程度で投与し、血液脳関門という脳のバリア構造を通過することができます。1回の投与で治療が完結する利点はあるものの、投与の対象が2歳未満かつ自己相補型アデノ随伴ウイルス9型の抗体に対して陰性であるなどの条件があります。

これらの疾患修飾療法が2017年以降に国内で薬事承認されているものの、使用例が少ないため10年後、20年後の有効性と安全性は不明です。また、疾患修飾療法薬を切り替えたり追加したりするケースもあるため、疾患修飾薬によるSMAの発症抑制作用作用や、発症する場合にいつどのような形で発症するかは明らかではありません。

少なくとも、発症前治療の実施が望ましいとされているのは、SMN2遺伝⼦コピー数3以下であるコピー数少ないケースとされています。これらの治療以外にも、対症療法も重要です。主な対症療法はリハビリテーションです。歩行可能な状態をなるべく長期に維持することや、側弯や関節拘縮の予防を目的に行います。必要に応じて、装具の使用やロボットスーツによる歩行運動処置なども考慮します。小児神経医、脳神経内科医、整形外科医、理学療法士の連携が必要です。また、肥満にならないように体重管理も行います。

これらの治療と併せて遺伝子カウンセリングも行います。
KW病含めSMAの治療は高額のため、遺伝子検査でSMAの診断を受けた場合には、小児慢性特定疾病または指定難病の申請をし、医療費助成を受けるようにしましょう。

クーゲルベルグ・ウェランダー病になりやすい人・予防の方法

KW病は遺伝性疾患であり、生活習慣などによる予防は困難です。また、KW病を含むSMAの国内の有病率は10万人あたり1〜2人であり、ある一定の確率で発症します。きょうだい児にSMAの発症がある場合には、遺伝カウンセリングや出生前診断、着床前遺伝子診断、新生児スクリーニングを活用することで、早期に発見することが可能です。遺伝子検査でSMAと診断された場合は、発症前に疾患修飾療法を受けることで発病を抑えたり、症状を軽症化させることができる可能性があります。

KW病は早期に診断し、適切な治療やサポートを開始することが可能です。家族歴などで不安のある方は専門医への相談を検討しましょう。。

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