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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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前十字靭帯損傷の概要

前十字靭帯損傷とは、膝関節の中にある前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)が部分的または完全に切れてしまう状態を指します。前十字靭帯は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぎ、膝の安定性を保つ役割を担っており、特に膝が前方にズレる動きを防ぐ大切な靭帯です。
この靭帯が損傷すると、膝がガクッと崩れるような感覚や不安定さ、強い痛みが現れ、歩行や階段の昇り降りなど日常生活にも支障をきたすことがあります。軽度の損傷では自然回復するケースもありますが、多くは放置すると関節のゆるみや軟骨のすり減りが進み、将来的に変形性膝関節症などの問題を引き起こすこともあります。

前十字靭帯損傷は、スポーツ活動を行う若年層に多くみられますが、日常生活での転倒や交通事故などでも起こることがあります。特に、ジャンプの着地や急な方向転換のときに膝にねじれや過剰な負荷がかかると、靭帯が耐えきれず損傷に至ることが多くあります。
このような損傷は、競技レベルに関係なく、一般のスポーツ愛好家や日常生活での転倒でも起こりうるため広く注意が必要です。ここでは、前十字靭帯損傷の原因、症状、診断方法、治療、そして予防についてわかりやすく解説します。

前十字靭帯損傷の原因

前十字靭帯の損傷は、膝に強い負担がかかったときに起こります。特に多いのが、スポーツ中の急な方向転換急停止ジャンプの着地といった動作です。サッカー、バスケットボール、スキー、バレーボールなどの競技では、膝にねじれや大きな圧力がかかる場面が多く、非接触型のケガとして知られています。これは、相手選手と接触しなくても、自分の動きだけで靭帯を痛めてしまうという特徴があります。
また、交通事故や階段からの転倒、段差で足をひねるなど、スポーツ以外の場面でも発症することがあります。膝が内側に入りながら強くひねられる動作は特に危険で、前十字靭帯に大きな負担をかけます。
靭帯の損傷は一度起こると自然にはもとどおりに治ることが難しく、そのままにしておくと膝の不安定感が慢性化し、スポーツ復帰や日常生活の動作に大きな支障をきたします。さらに、靭帯損傷に伴って半月板や軟骨にも同時に損傷が生じていることがあり、これが膝関節のさらなる悪化を招く要因になることもあります。

前十字靭帯損傷の前兆や初期症状について

前十字靭帯を損傷した直後には、ブツッ、ポキッといった音や感触を自覚することがあります。すぐに膝に激しい痛みが起こり、膝が抜けたような感覚踏ん張りがきかない感じを訴える方が多くいます。時間が経つにつれて膝の腫れが目立ってくるのも特徴です。これは、靭帯が切れた際に関節内で出血が起きるためです。
膝の曲げ伸ばしがしづらくなったり、歩くと膝が崩れるような感覚がある場合は、靭帯損傷の可能性が高まります。痛みが一時的に落ち着くこともありますが、再び動いた際に同じ症状を繰り返すケースも多く、日常動作で異変に気付くこともあります。
腫れが出現してから数時間以内に急激に悪化することが多く、関節内に血液がたまる関節血腫によって膝が膨らみ、正座やしゃがみこみが困難になるケースもあります。特にスポーツ中に受傷した場合、その場で競技を続行できないほどの痛みや不安定感に襲われることが多くあります。
特に、階段を下りる動作や、方向を変えるときのぐらつきがある場合は注意が必要です。これらの症状がみられるときは、早めに整形外科を受診しましょう。早期の診断によって損傷の程度を正確に把握し、適切な治療につなげることが将来の後遺症を防ぐうえでも重要です。

前十字靭帯損傷の検査・診断

前十字靭帯損傷が疑われる場合、まず行われるのは問診と視診、そして膝を動かすことで安定性を確かめる徒手検査です。前方引き出しテストラックマンテストなどがあり、これらは膝が通常よりも前方に動いてしまうかどうかを確認することで、靭帯の損傷の有無を判断します。
ただし、受傷直後の腫れや痛みが強いと、徒手検査の精度が低下するため、画像検査が重要になります。なかでもMRI検査は、前十字靭帯の状態を直接観察できる代表的な方法です。MRIによって、靭帯の断裂の有無や損傷の程度だけでなく、同時に損傷を受けやすい半月板や関節軟骨の状態も詳細に確認できます。必要に応じてX線検査も行われ、骨折や関節の位置異常がないかもあわせて調べます。
また、関節内に血液がたまっている場合には、関節穿刺といって膝の中から液体を抜き取る処置が行われることがあります。これにより、痛みや腫れを軽減するだけでなく、関節内での出血の有無や程度を把握する助けにもなります。受傷時の状況や症状の経過を医師にしっかり伝えることも、正確な診断のためにはとても重要です。

前十字靭帯損傷の治療

治療法は、損傷の程度や患者さんの年齢、活動レベル、スポーツへの復帰希望の有無などに応じて選ばれます。靭帯が部分的に損傷していて、膝の不安定感が軽度である場合には、保存療法が第一選択となります。これは、膝をサポーターなどで固定して安静にして、痛みや腫れを抑える初期処置の後、専門的なリハビリを通じて膝周囲の筋力と関節の安定性を高めていく方法です。
一方、靭帯が完全に断裂している場合や、膝のぐらつきが強く日常生活やスポーツに支障がある場合には、前十字靭帯再建術が推奨されます。この手術では、患者さん自身の腱(例えばハムストリングス腱や膝蓋腱)を使って、新しい靭帯として再建します。術式にはいくつかのバリエーションがあり、患者さんの状態や希望に合わせて選ばれます。

手術後は、膝の機能を取り戻すための長期的なリハビリが欠かせません。術後数週間は可動域の制限や筋力低下が見られるため、理学療法士の指導のもとで段階的にトレーニングを進めていきます。通常は6ヶ月から1年をかけてスポーツ復帰を目指す流れとなり、リハビリの質が予後に大きく影響します。

前十字靭帯損傷になりやすい人・予防の方法

前十字靭帯損傷は、急な方向転換やジャンプの着地、急停止といった動作を多く伴うスポーツをしている方に多くみられます。代表的なスポーツはサッカー、バスケットボール、ラグビー、バレーボール、スキーなどです。また、女性は男性に比べて骨盤の構造や筋力のバランス、関節の柔軟性、ホルモンの影響により受傷リスクが高いといわれています。

予防の基本は、膝関節の安定性を保つ筋力の強化正しい身体の使い方の習得です。特に、大腿四頭筋やハムストリングス(太ももの裏)、臀部(おしり)の筋肉をバランスよく鍛えることで、膝にかかる負担を軽減できます。筋力トレーニングに加えて、姿勢の安定性やバランス感覚を高めるトレーニング(体感トレーニングやジャンプ着地の練習など)も重要です。
また、運動前のウォーミングアップやストレッチを入念に行うことで、筋肉や関節の柔軟性が高まり、急激な動作によるケガのリスクを減らすことができます。過去に前十字靭帯損傷を経験した方は、再発防止のために装具の使用や、医師や理学療法士の指導による定期的なチェックとトレーニングを継続することが大切です。
前十字靭帯損傷は、一度起こすと回復までに時間がかかるため、日頃から意識的に膝を守るトレーニングを行いましょう。予防の積み重ねが、将来のケガを防ぐ手段となります。

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