中手骨骨折

監修医師：
井林雄太（井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院）

中手骨骨折の概要

中手骨（ちゅうしゅこつ）は、手のひらの中央部に位置する5本の長い骨で、親指側（橈側）から小指側（尺側）に向かって第1中手骨から第5中手骨と呼ばれます。これらの骨は、指の付け根の関節（MP関節）と手首の間に位置し、手の動きや握力を支える重要な役割を果たします。
中手骨は、手首から指先に向かってに向かって基部、骨幹部、頸部、骨頭部と分類されています。
中手骨骨折とは、この中手骨が折れることです。骨に直接強い力が加わったり、捻転力（ねんてんりょく）が加わったりした際に発症します。この骨折は、手の外傷全体の約40%を占めているという報告があるほど、頻繁に認められる骨折の1つです。
中手骨骨折は、骨折の重症度や発生部位によって治療方法が異なりますが、予後は良好なことがほとんどです。しかし、自己判断した結果、早期に専門医の診察を受けず、治療が遅れる場合などには、可動域制限が残る可能性があります。

中手骨骨折の原因

中手骨骨折は、以下のように手に強い衝撃が加わることで発症する場合があります。

転倒による衝撃

転倒時に手のひらを地面に強く打ちつけると、衝撃が親指側（第1・2中手骨）や小指側（第4・5中手骨）に負担が集中し、骨折を生じることがあります。

拳を強く打ちつける動作

格闘技のなかでボクシングなどの打撃動作を繰り返すスポーツでは、中手骨に繰り返し負担がかかることで、疲労骨折を引き起こすことがあります。
特に、小指側の第5中手骨は構造的に弱く、強い衝撃で折れやすいため、ボクサーや格闘技選手に多くみられることから、第5中手骨骨折のことをボクサー骨折と呼ばれることもあります。

中手骨骨折の前兆や初期症状について

中手骨骨折は、骨折した部位によって症状の現れ方が異なります。軽い骨折の場合は、捻挫や打撲と勘違いされることもありますが、適切な治療を受けなければ、手の変形や機能障害が残る可能性があります。
以下のような前兆や初期症状を感じた場合は、すぐに整形外科を受診しましょう。整形外科を受診し、画像診断などで詳細な評価を行えば、適切な治療を開始できます。
症状が軽いからといって自己判断せずに、症状が少しでも気になった場合は、専門医による診察を受けましょう。

骨折部への痛み

中手骨骨折でよくみられる初期症状は、骨折部位の痛みです。この痛みは、物を持ち上げる、握るなどの動作を行うと強くなる特徴があります。また、時間が経過するとともに痛みが悪化しやすい傾向です。

腫れと圧痛

周囲の組織が炎症を起こした結果、腫れが生じることがあります。腫れは骨折部位の周辺にみられ、触れると圧痛を伴うことが一般的です。特に、腫れが急速に強くなる場合は、骨折を発症しているかもしれません。

指の動きが難しくなる

中手骨骨折を発症すると、指の動きに関係する筋肉や腱も影響を受けるため、手を握ったり、指を動かしたりする動作が難しくなることがあります。

変形症状がみられる

骨折が重度の場合、手の形が変わることがあります。症状は患者さんによって異なりますが、骨がズレたり、指が曲がったりするなど視覚的に変形が確認できる場合もあります。

痺れや感覚の異常

骨折によって神経が圧迫されると、手や指に痺れや感覚の異常が生じることがあります。これらの症状は、神経に近い部位で骨折した場合にみられやすい症状です。

中手骨骨折の検査・診断

中手骨骨折の診断では、まず骨折の正確な位置や重症度を評価することが求められます。そのため、一般的に以下のような検査方法が行われます。

身体評価

診察の最初に医師は、以下のような内容を問診や視診で確認します。

• 発症した状況（転倒したのか、何かに手をぶつけたのか）
• 拳を握った際の痛みが強いか
• どの指の動きがしづらいか
• 腫れや内出血、変形の有無

特に、拳を握ったときの形の崩れや、痛みがある部位が診断する際の重要な1つの点です。その後、骨折部位を触診して痛みや腫れなどの詳細な評価を行います。

画像検査

骨折の有無や詳細な評価を行うために、以下のような画像検査が行われます。

X線検査

中手骨骨折の初期診断には、通常、X線検査が行われます。正面、側面、斜位の3方向から撮影して、骨折の有無や部位を確認します。特に、骨折線が明確でない場合や、複雑な骨折が疑われる場合は、より詳細な評価が必要になるため、X線検査以外で追加の画像診断を行います。

CT検査

X線検査では診断が難しい場合は、CT検査を行います。CT検査は、骨の詳細な情報が取得できるため、骨折の有無だけでなく、手術の必要性など重症度を評価する際にも使用されます。

MRI検査

多くの中手骨骨折は、X線検査やCT検査で骨折を確認できるため、MRI検査は行いません。ただ、骨折だけでなく、靱帯や軟部組織の損傷が疑われる場合は使用する場合があります。
　　

超音波（エコー）検査

超音波検査は、骨折の有無を迅速に評価できるため、緊急時に役立つ検査です。また、放射線を使わないため、小児への検査としても適しています。

中手骨骨折の治療

中手骨骨折の治療は、骨折の種類やズレの程度によって異なります。軽度な骨折では保存療法を選択しますが、骨のズレが大きい場合は手術療法が必要になることもあります。

保存療法

保存療法とは、手術を伴わない治療方法のことです。軽度の骨折の場合、ギプスやスプリントを用いて指を固定することが一般的です。固定期間は骨折の重症度や患者さんの状態によって異なりますが、4〜6週間程度が多い傾向にあります。

手術療法

骨折が不安定だったり、変形が著明だったりする場合は手術療法を選択することがあります。
手術は、骨折部位を元の位置に戻してピンやワイヤーで固定するピン固定術や、金属製のプレートとネジを使って固定するプレート固定術などを行います。

リハビリテーション

中手骨骨折を発症すると、指の筋肉や関節が硬くなるため、動かしにくくなります。そのため、リハビリテーションを行い、指の動きを改善させることが重要です。
中手骨骨折のリハビリテーションは、理学療法士の指導のもと、指の曲げ伸ばしの運動やマッサージ、筋力トレーニングなどが行われます。また、理学療法士によるリハビリテーションが受けられなくても、自宅などで自分自身で指を意識的に動かすだけでも効果が期待できます。
ただ、自分自身で行う場合、少しでも早く治そうと思って無理な運動を繰り返すと、痛みが増加するなど悪影響になる場合があります。主治医や理学療法士などの専門職などに相談してリハビリテーションを進めるようにしましょう。

中手骨骨折になりやすい人・予防の方法

中手骨骨折は、特定の要因に該当すると発症する可能性が高くなります。以下に、骨折しやすい方の特徴と予防方法をまとめます。

中手骨骨折になりやすい方の特徴

以下の要因に該当する場合は、中手骨骨折になりやすいので注意しましょう。

スポーツをする方

ボクシング・空手などの格闘技を行っている場合は、拳をよく使うため、ボクサー骨折である第5中手骨骨折が発症しやすいとされています。
ほかにも、スポーツ中に転倒し、その際に手を付くなど強い外力が加わった際に発症する場合があります。

高齢者

年齢が上がるにつれて筋力やバランス感覚が低下するため、転倒しやすくなります。また、骨の強度も弱くなっているため、骨折する可能性が高くなります。
特に骨粗鬆症の高齢者であれば、少しの外力でも骨折する場合があるため注意が必要です。

予防の方法

以下の方法を実践することで、 中手骨骨折の発生を予防できる可能性があります。

安全対策

スポーツを行う際は適切な保護具（手袋やプロテクター）を使用することで、手や手首の怪我を防ぐ効果が期待されます。

定期的な運動

骨を強くするために筋肉トレーニングやバランス運動を定期的に行うことが重要です。これにより、骨密度を維持し、骨折の発症を減少できる可能性があります。