

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
脊椎骨端異形成症の概要
脊椎骨端異形成症は、脊椎と長い骨の両端部分(骨端)の発育に異常をきたす先天性の骨疾患の総称です。
この異形成により背骨や関節の形態が正常と異なってしまう病気で、全身の骨格の成長に影響を与えます。
特徴として体幹が短く、手足とのバランスがとれない低身長の一型で、特に体幹が短い短体幹型低身長になります。
脊椎骨端異形成症には、大きく分けて2つのタイプがあります。一つは先天性脊椎骨端異形成症で、生まれたときから骨の異常が認められる型です。もう一つは遅発性脊椎骨端異形成症といい、幼児期から思春期にかけて徐々に症状が現れる型です。いずれの型でも基本的な骨の変化は似ており、脊椎と骨端の成長に障害が起こるため、成長とともに特徴的な症状が現れてきます。
脊椎骨端異形成症の原因
脊椎骨端異形成症は主に遺伝子の変異によって起こります。
多くの患者さんでは2型コラーゲンと呼ばれるタンパク質を作る遺伝子(COL2A1遺伝子)の変異が原因であることがわかっています。コラーゲンとは皮膚、靱帯、腱、骨、軟骨など身体の結合組織を構成する重要なたんぱく質です。そのなかでも2型コラーゲンは関節の軟骨や眼球の硝子体液の主成分で、骨の発達に欠かせません。この遺伝子に変異が生じると、2型コラーゲンの構造が変化して軟骨の成長がうまくいかなくなり、骨の発達にも支障をきたしてしまいます。その結果、脊椎や骨端の形成に異常が起こり、本症の症状が現れると考えられています。
そして、脊椎骨端異形成症の多くは新生突然変異といって、両親には変異がなく子どもに初めて変異が起こることがあります。しかし、場合によっては親から子へ遺伝することもあります。先天性脊椎骨端異形成症では常染色体顕性遺伝といって、片方の親から変異遺伝子を受け継ぐだけで発症する遺伝形式が知られています。この場合、親がこの病気の場合にはその子どもにも50%の確率で遺伝する可能性があります。一方、まれですが報告例として常染色体潜性遺伝やX連鎖による遺伝形式をとる型もあります。いずれにせよ原因は遺伝子の変化であり、環境要因や生活習慣によって起こる病気ではありません。
脊椎骨端異形成症の前兆や初期症状について
先天性型の場合、赤ちゃんのときから身体の特徴に変化がみられます。出生時から身長や身体の長さが平均より低く、特に首や胴が短い傾向があります。四肢の長さに比べて胴体が明らかに短い体型になるため、新生児健診や幼児健診で体幹の短さが指摘されることがあります。
また、乳幼児期には筋力の発達に伴って背骨のカーブが目立ってくることがあります。例えば首から背中の上部が丸く曲がった後弯や、背中が横に湾曲する側弯が現れることがあります。先天性型では乳児期からこうした背骨の変形や、股関節のゆるさ、足の変形(内反足)が見られる場合もあります。一方、遅発性型では幼少期には明らかな症状がなく、成長するにつれて身長の伸び悩みで気付かれることが多いです。小学校高学年頃や思春期になっても上半身の成長が遅く、座高が低く、背が伸びないなどで専門医を受診して判明する場合もあります。
脊椎骨端異形成症の主な初期症状としては、次のようなものがあります。
- 低身長(短体幹型)
- 胸郭の変形(樽状胸郭)
- 背骨の湾曲
- 関節・四肢の異常
- 眼科疾患(近視や網膜剥離)
- 難聴
これらの症状が見られても知能は基本的に正常で、顔つきにも大きな異常はありません。また、適切な医療管理を行えば命に関わることは少ないとされています。初期症状としては背が極端に低い、背骨や胸の形がおかしいといった身体的な特徴が主になります。
もしお子さんに上記のような症状や発育の異常が見られた場合は、早めに医療機関を受診しましょう。まずは小児科で相談し、必要に応じて専門的な検査ができる病院へ紹介してもらうのが一般的です。骨や関節の病変が疑われる場合は整形外科を受診するとよいでしょう。
脊椎骨端異形成症の検査・診断
この病気では特徴的な骨の変化があるため、診断のためには画像検査が重要です。まずX線検査により骨格の状態を確認します。脊椎骨端異形成症では、X線画像で脊椎や骨盤、股関節の骨端に高度の異形成が認められることが特徴です。具体的には、脊椎の骨が平べったく変形している(扁平椎)ことや、股関節の骨端の形状異常などが映し出されます。
確定診断のためには遺伝子検査が行われることもあります。血液などからDNAを調べ、先述したCOL2A1遺伝子など脊椎骨端異形成症の原因となる変異がないか解析します。遺伝子変異が特定されれば診断が確定し、今後の治療方針やご家族への遺伝カウンセリングに役立ちます。
また、合併症の評価も診断過程で重要です。例えば、眼科検査で網膜剥離の有無を調べたり、聴力検査で難聴の程度を確認したりします。脊椎の不安定性が疑われる場合は、詳細な評価のためにMRI検査やCT検査が行われることもあります。これらの情報を総合して診断し、今後の治療計画を立てていきます。
脊椎骨端異形成症の治療
現在、この疾患そのものを根本的に治す治療法はありません。 遺伝子の変異による病気であるため、現時点で発症そのものを止めたり正常な骨発達を取り戻したりする治療法は確立していません。そのため、症状や合併症に応じた対症療法が中心となります。以下に主な治療方法を挙げます。
成長へのアプローチ
残念ながら成長ホルモン療法などを用いて身長を大きく伸ばすことは効果が期待できません。低身長に対して根本的な解決策はないため、必要に応じて日常生活での工夫で対応します。まれに、専門施設で脚延長術などが検討される場合もあります。
脊椎・関節の治療
骨や関節の変形や不安定さに対しては整形外科的治療を行います。例えば、首の骨(環軸椎)が不安定な患者さんでは、背骨がずれて脊髄を圧迫しないように固定術を行うことがあります。同様に、重度の脊柱側弯がある場合は脊椎の矯正手術を検討します。膝や股関節の変形が強く痛みや機能障害を引き起こす場合には、骨の位置を矯正する手術や人工関節への置換術が将来的に必要になることがあります。整形外科医とリハビリ専門職が協力し、関節の可動域維持訓練や筋力強化などのリハビリテーションも行います。
眼の合併症への対処
網膜剥離が起こった場合は眼科的治療(レーザー治療や手術)で網膜を復位させ、視力の維持に努めます。強度近視に対しては適切な眼鏡やコンタクトレンズの使用、定期的な眼科検診が推奨されます。
耳の合併症への対処
難聴が生じた場合は補聴器の装用や、必要に応じて人工内耳の検討など耳鼻咽喉科での対応を行います。幼少期から聞こえにくい場合は言語発達への影響も考える必要があるため、言語聴覚士による介入など早期からケアします。
以上のように、脊椎骨端異形成症の治療は各分野の専門医による合併症の管理と生活の質の向上を目指したサポートが中心です。適切な治療とリハビリ、環境調整により、多くの患者さんは知的発達は正常で日常生活も自立して送ることが可能です。大事なのは、早期に異常を発見し対処することで合併症の影響を最小限に抑え、成長とともに必要な支援を続けていくことです。
脊椎骨端異形成症になりやすい人・予防の方法
脊椎骨端異形成症は遺伝要因によって生じる病気であり、生活環境によってなりやすくなるような性質のものではありません。したがって、特定の年齢層や性別、生活習慣の方が発症しやすいということは基本的にありません。強いていえば、家族に本症の患者さんがいる場合には遺伝的に発症する可能性があります。
先述のように多くのケースは両親からの遺伝ではなく偶発的な変異ですが、片親が脊椎骨端異形成症の場合は子に遺伝するリスクがあります。
また、現時点で、脊椎骨端異形成症の発症そのものを防ぐ確立された方法はありません。遺伝子の突然変異によって起こる疾患のため、妊娠中の過ごし方や食事などで発症を予防することはできないと考えられています。もし家系内に本症の患者さんがいる場合やご両親のどちらかが患者さんである場合には、遺伝カウンセリングを受けることがすすめられます。専門の遺伝カウンセラーや医師が、将来のお子さんへの遺伝リスクについて説明し、必要に応じて出生前診断などについて相談に乗ってくれるでしょう。
とはいえ、遺伝子検査にはメリットとデメリットがありますので、家族でよく話し合い専門家と相談して決めることが大切です。
関連する病気
- 軟骨無形成症
- 骨形成不全症
- 遺伝性骨異形成症
参考文献




