

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
頚肩腕症候群の概要
頚肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)とは、首から肩、腕にかけての痛み・しびれ・こり・違和感などの症状を総称したものです。特にデスクワークや長時間の同じ姿勢、反復動作をする職業の方にみられやすいのが特徴です。
頚肩腕症候群の主な症状として、以下が挙げられます。
- 首・肩・腕の痛み
- 肩こりや腕の重だるさ
- 指先のしびれや感覚異常
- 頭痛やめまい
- 手の力の入りにくさ
これらの症状は、日常生活のさまざまな場面で支障をきたすことがあります。例えば、仕事に集中できなかったり、家事が困難になったりするかもしれません。
対処が遅れると、症状が悪化し、精神的な負担が大きくなる恐れがあります。早い段階で症状に気付き、適切な対策を講じることが大切です。
頚肩腕症候群の原因
頚肩腕症候群の原因は一つに特定できないことが多く、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症します。主な原因として、以下の4つが挙げられます。
- 長時間の同じ姿勢
- 筋肉の疲労と緊張
- ストレスや自律神経の乱れ
- 頚椎の異常
続いて、それぞれの原因について詳しくみていきます。
長時間の同じ姿勢
パソコン作業やスマートフォンの使用・読書・車の運転など、長時間同じ姿勢を続けることは、頚肩腕症候群の原因の一つです。長時間の同一姿勢は、特定の筋肉に持続的な負担をかけ、血管が圧迫されて血流が悪化します。
血流が悪化すると、筋肉に必要な酸素や栄養素が十分に供給されなくなり、老廃物が蓄積しやすくなります。その結果現れるのが、痛みやこりなどの症状です。
筋肉の疲労と緊張
同じ動作の繰り返しや重いものを持ち上げる作業、不自然な姿勢での作業などにより、首や肩の筋肉に過度な負担がかかります。例えば、一日中パソコンのキーボードを叩く作業や、同じ方向に身体を捻る作業などは、特定の筋肉に集中的な負荷を与えるでしょう。
このような状態が続くと、筋肉の炎症や緊張状態につながり、頚肩腕症候群を引き起こす原因となります。
ストレスや自律神経の乱れ
精神的なストレスや過労が長期間続くと、私たちの身体は常に緊張状態に置かれます。ストレスによって自律神経が乱れ、交感神経が優位になると、血管が収縮し筋肉が緊張しやすくなります。その結果、血流が悪化することも、痛みやこりを引き起こす原因の一つです。
頚椎の異常
首の骨である頚椎や、頚椎を支えるクッションである椎間板に異常がある場合も、頚肩腕症候群の症状を引き起こす原因となるでしょう。例えば、加齢による頚椎の変形(変形性頚椎症)や、椎間板の損傷(頚椎椎間板ヘルニア)などが挙げられます。
これらの疾患により神経が圧迫されると、腕や手にかけての痛みやしびれにつながる場合もあります。
頚肩腕症候群の前兆や初期症状について
頚肩腕症候群は、初期の段階で適切に対応すれば、症状の悪化を予防できます。以下の前兆や初期症状に注意しましょう。
- 肩こり
- 首を動かしたときの違和感
- 腕のだるさ
- 疲れやすさ
- 目の疲れや頭痛
これらの症状が気になる場合は、以下の診療科を受診するとよいでしょう。
| 整形外科 | 骨や神経の異常を診断し、必要に応じてリハビリや治療をする |
| ペインクリニック | 痛みが強い場合、レーザー治療や神経ブロック注射などの治療をする |
| リハビリ科 | 運動療法や理学療法による改善を目指す |
頚肩腕症候群の検査・診断
頚肩腕症候群が疑われる場合、以下のような検査が行われます。
- 問診・身体検査
- レントゲン検査
- MRI検査
- 神経伝導検査
それぞれの検査について、一つひとつ解説します。
問診・身体検査
いつからどのような症状があるのか・日常生活・仕事の状況・既往歴などを詳しく伝えることが大切です。問診に加えて、首や肩、腕の動き・感覚・反射などを確認する身体診察が行われます。
レントゲン検査
骨の変形や頚椎の並びの異常、骨棘(骨のとげ)の有無などを確認するために行います。骨折や脱臼の有無も確認できます。
MRI検査
磁気を利用して、神経・椎間板・靭帯・筋肉などの軟部組織の状態を詳しく画像化する検査です。特に、椎間板の変性や突出などの詳細な所見を判読する場合に有効です。
神経伝導検査
手や腕のしびれが強い場合や、神経の障害が疑われる場合に行われることがあります。電気刺激を用いて、神経が正常に情報を伝達できているかどうかを調べます。
頚肩腕症候群の治療
頚肩腕症候群の治療は、患者さん一人ひとりの症状や状態に合わせて、さまざまな方法を選択します。一般的に行われる治療法は以下のとおりです。
- 薬物療法
- 運動療法
- 手術療法
患者さんに適した方法を組み合わせて、症状をコントロールし、生活の質の向上を目指すことが重要です。
続いて、それぞれの治療法について詳しくみていきます。
薬物療法
薬物療法として、鎮痛薬・筋弛緩薬の処方や、神経ブロック注射が行われます。
鎮痛薬や筋弛緩薬の処方
痛みや筋肉の緊張を和らげるために、内服薬や外用薬(湿布や塗り薬など)が使用されます。症状に合わせて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、筋肉の過度な緊張をほぐす筋弛緩薬などが処方されます。
神経ブロック注射
痛みが強い場合や、ほかの治療で効果がみられない場合に用いられます。痛みの原因となっている神経の周辺に局所麻酔薬などを注射し、痛みの伝導を遮断する方法です。
一時的な痛みの緩和だけでなく、慢性的な痛みの悪循環を断ち切る効果も期待できます。
運動療法
運動療法として、ストレッチや電気療法、適切な運動の指導が行われます。
肩や首のストレッチ
硬くなった筋肉の柔軟性を取り戻し、関節の可動域を広げるために、さまざまなストレッチをします。ゆっくりと呼吸をしながら、無理のない範囲で行うことが大切です。
温熱療法や電気療法
ホットパックや入浴などで患部を温めたり、電気刺激を与えたりすることで、血流を改善させ筋肉をほぐします。
適度な運動
ウォーキングや水泳、軽い筋力トレーニングなど、全身の血流を促進するような適度な運動をすることも治療の一つです。症状の改善だけでなく、再発予防にもつながるでしょう。
手術療法
神経障害を認める場合には、手術療法が行われることもあります。
頚肩腕症候群になりやすい人・予防の方法
頚肩腕症候群は、特定の生活スタイルをもつ方や、特定の職業の方に多くみられます。しかし、適切な予防法を実践することで、発症のリスクを低減できるでしょう。
本章では、頚肩腕症候群になりやすい方の特徴と予防の方法について詳しく解説します。
頚肩腕症候群になりやすい方の特徴
頚肩腕症候群になりやすい方の特徴は、以下のとおりです。
- 長時間のデスクワークをする方:同じ姿勢での作業が続くため、首や肩の筋肉が緊張しやすくなります
- スマートフォンやタブレットを長時間使用する方: 下を向いた姿勢が続くことで、首に大きな負担がかかります
- 姿勢がよくない方:猫背や前かがみの姿勢は、首や肩の筋肉に不自然な負荷をかけます
- 重い荷物を頻繁にもつ方:首や肩、腕の筋肉に過度な負担がかかります
- ストレスが多い方:精神的な緊張が、筋肉の緊張を引き起こしやすくなります
これらの特徴に当てはまる方は、特に予防を意識することが重要です。
頚肩腕症候群を予防する方法
頚肩腕症候群を予防する方法として、以下の5つが挙げられます。
- 姿勢を正しくする
- 長時間の同じ姿勢を避ける
- ストレッチを習慣にする
- 適度な運動を取り入れる
- ストレスをためない
続いて、上記について詳しくみていきましょう。
姿勢を正しくする
脊椎(背筋)に負担をかけないよう、正しい姿勢を取ることが重要です。背筋を伸ばし、顎を軽く引くように心がけましょう。
パソコンの画面は目の高さになるように調整し、足裏をしっかりと床につけることが大切です。
長時間の同じ姿勢を避ける
デスクワーク中やスマートフォン使用時は、定期的に立ち上がって身体を動かしたり、軽いストレッチをしたりする習慣をつけましょう。
ストレッチを習慣にする
首や肩、肩甲骨周りの筋肉を意識的に動かすストレッチを、毎日行いましょう。筋肉の柔軟性を保ち、血流を促進させることができます。肩をゆっくりと回したり、肩甲骨を寄せたりするストレッチが効果的です。
適度な運動を取り入れる
ウォーキングや水泳などの有酸素運動は、全身の血流を改善し筋肉を強化する効果があります。無理のない範囲で、運動習慣を取り入れましょう。
ストレスをためない
リラックスできる音楽を聴いたり、十分な睡眠を確保したりするなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
頚肩腕症候群は、放置すると慢性化し、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。生活習慣の改善や適切なケアを早めに行うことで、予防や改善につながります。




