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FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の概要

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、血液中のリンが不足することによって骨の石灰化(硬くなること)が正常におこなわれなくなる病気です。

発症の原因は、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)という物質が過剰に産生されることです。

FGF23は血液中のリン濃度を適切に調節する役割を担っています。

しかし、FGF23が過剰に産生されると腎臓でのリンの再吸収が抑制されるため、体内のリン濃度が低下して骨が硬くならず、変形しやすい状態になります。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症を発症した場合、子どもの場合、骨が十分に硬くならないことによるO脚やX脚、成長障害や関節の腫れなどが生じることがあります。成人では骨痛や骨折、筋力低下などの症状が現れることが多いとされています。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の主な治療法は、リンや活性型ビタミンDを補う薬剤の服用により血液中のリン濃度を上げることです。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、適切な治療により患者さんの生活の質の向上が期待できる疾患です。できるだけ早期に発見することが重要です。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の原因

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の原因は、FGF23が過剰に産生されることです。本来FGF23は血液中のリン濃度を適正に保つために働く物質ですが、過剰に増えると血液中のリン濃度の低下を招きます。

体内のリンが減少すると骨の石灰化に問題が生じ、くる病や骨軟化症の症状が現れます。

FGF23が過剰になる原因は先天性と後天性に大別されます。

先天性のFGF23過剰の原因

先天性の場合、特定の遺伝子が変異することでFGF23の産生が過剰になると考えられています。

X染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)や常染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(ADHR)、常染色体劣性低リン血症性くる病・骨軟化症(ARHR)など、さまざまな遺伝子変異によって発症するタイプが知られています。

後天性のFGF23過剰の原因

後天性の場合は主にFGF23を産生する腫瘍の形成によって発症します。腫瘍性くる病・骨軟化症(TIO)といい、主に成人で発症が見られます。

腫瘍の発見が難しい場合がありますが、摘出により症状の改善が見込まれるケースが多いとされています。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の前兆や初期症状について

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の前兆と初期症状はは発症時期によってさまざまで、子どもの頃に発症した場合、成長の遅れによって気づくことが多いです。

同年代の子どもと比べて身長が低い、あるいは成長のスピードが遅いといった特徴がみられます。歩き始めが遅れたり、歩き方が不安定で左右に揺れながら歩いたりすることがあります。

症状の程度によってはO脚やX脚になる場合があり、立位時や歩行時に気が付くことが多いとされています。

身体的な成長のほかに歯の症状が生じることもあります。歯の主体であるエナメル質や象牙質(ぞうげしつ)が薄くなるため、むし歯や歯肉が腫れるといった症状が出る場合があります。

成人では骨や関節の痛み、筋肉の痛みや筋力低下が前兆や初期症状となり得ます。とくに腰や股関節周囲に痛みを感じることが多く、程度によっては日常生活の動作が困難になる場合もあります。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の検査・診断

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、症状の確認をはじめ血液検査や尿検査、画像検査などの結果を総合的に見て診断します。

血液検査

血液検査ではリンやアルカリホスファターゼ(ALP:リンを分解する酵素のこと)の数値を調べます。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症において、リンは基準値よりも低く、アルカリホスファターゼは高値を示します。

尿検査

リンが必要以上に体外に排泄されているかどうかを調べるため、尿中のリンの量を測定します。

画像検査

X線検査をはじめとする画像検査では、Looser’s zoneという特徴的な所見が認められることがあります。(骨を横断しない骨折の所見)
腫瘍性くる病・骨軟化症を疑う場合はCT検査やMRI検査などにより、FGF23を産生している腫瘍の有無や場所を定めるための全身的な画像検査をおこなうことがあります。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の治療

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の主な治療は、血液中のリン濃度を補い骨の石灰化を助け、症状を改善することです。

薬物療法

骨の痛みを緩和するための薬剤をはじめ、体内のリン不足を改善するためにリン製剤を投与します。また、リンの働きを助けるために活性型ビタミンD製剤を併用することもあります。

ビタミンDはリンの作用を促す働きがありますが、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症はその機能が十分ではありません。活性型ビタミンD製剤を使うことで、食事や薬剤から摂取したリンが体内に効率よく取り込まれるようサポートします。

現在、FGF23の働きを抑える薬剤が開発されており、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の症状改善において新たな治療の選択肢として期待されています。

歯科治療

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症では歯が弱くなりやすく、むし歯や歯茎の感染のリスクが高い傾向があります。食後の歯磨きをしっかりおこない、定期的に歯科検診を受けることが大切です。

手術療法

FGF23を産生している腫瘍が原因として特定できた場合は、外科的手術によりそれらを取り除きます。適切に腫瘍を取り除くことができれば症状の改善が期待できますが、腫瘍の場所や大きさによっては全て切除することが難しい場合もあります。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症になりやすい人・予防の方法

遺伝性のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症については、家族歴などによって、子どもが発症しやすい可能性があります。一方、腫瘍性くる病・骨軟化症については、現時点ではリスク要因は明確にされていません。しかし、他に原因が見つからない骨の痛みや筋力低下、骨折を繰り返す場合は可能性を考慮する必要があります。

どのタイプのFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症も、明確な予防法は確立されていませんが、重症化を防ぐために、早期発見と適切な治療の継続が重要です。

日常生活においては、適切な水分摂取やバランスの良い食事を心がけるようにしましょう。骨や筋肉を守るための適切な運動も心がけましょう。過度に負荷がかかる運動は避けつつ、骨や筋肉の機能を維持をすることが大切です。

ほかにも、定期的な歯科検診や毎日の口腔ケアにより、むし歯や歯肉炎などの合併症リスクを低減させることができます。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、発症自体を完全に予防することは難しい場合が多いですが、早期発見や早期治療によって症状の進行を抑え、生活の質を維持することができると考えられています。

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