

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
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タナトフォリック骨異形成症の概要
タナトフォリック骨異形成症は先天性の骨の病気で、四肢の骨が極端に短くなるために低身長を引き起こし、肋骨の短縮によって呼吸障害をもたらす疾患です。
この病気は1967年にMaroteauxらによって独立した疾患として報告され、ギリシャ語で『死をもたらす』という意味の"thanatophoric"が名称の由来となっています。
以前は出生後早期に死亡することが多かったため致死性骨異形成症とも呼ばれていましたが、現在では人工呼吸などの呼吸管理の進歩により、長期生存も可能になっています。しかし、生存した場合でも多くの患者さんに重度の精神的・身体的な発達障害が認められます。
本症の患者さんは、日本全国で100人程度と推定されています。2~5万分娩に1人程度とされていますが、出生されても呼吸管理を行わなければ、出生後すぐ周産期死亡に至ります。
タナトフォリック骨異形成症は指定難病275として、厚生労働省が定める難病として登録されており、医療費減免や福祉サービス提供などの制度が整備されています。
タナトフォリック骨異形成症の原因
この病気は、線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)遺伝子の変異によって引き起こされます。 FGFR3遺伝子は骨の成長と発達に重要な役割を果たしており、この遺伝子に変異が生じると、骨の形成や成長に異常が発生します。
多くの場合、健康な両親から突然変異としてこの遺伝子変異が生じ、胎児の段階で発症します。つまり、遺伝的な家族歴がなくても発症する可能性があります。父親の年齢が高いほど、この突然変異が生じるリスクが高まるという報告もありますが、全体的な影響は限定的とされています。
タナトフォリック骨異形成症の前兆や初期症状について
タナトフォリック骨異形成症の主な症状は以下のとおりです。
四肢の短縮
特に大腿骨(太ももの骨)や上腕骨(腕の骨)が著しく短くなります。
頭蓋骨の大きさと形状の異常
頭が大きく、前頭部が突出し、鼻根部(鼻の付け根)が陥没して見えることがあります。
胸郭の低形成
肋骨が短く、胸囲(胸郭)が小さくなるため、呼吸不全を引き起こすことがあります。
皮膚のしわ
四肢の皮膚に過剰なしわが見られることがあります。
上記の症状のいくつかは、妊娠期間中から可能性を疑われることがあります。特に四肢短縮については、妊娠中期の妊娠16~18週から明らかとなり、妊娠20週の後半以降はほとんど大腿骨の伸長がみられなくなります。また妊娠30週頃から羊水過多を伴うことも多くなります。
さらに胎児の児頭が大きいことから、児頭骨盤不適合のため経腟分娩が困難になりがちです。
それ以外の症状も出生時には明らかで、特に呼吸不全は生命に直結する重大な問題となります。
妊娠中に疑われた場合は産婦人科医を通じて専門医に紹介されますが、出生時にはじめて上記のような症状が疑われる場合は、小児科を受診します。
タナトフォリック骨異形成症の検査・診断
タナトフォリック骨異形成症の診断は、以下の方法で行われます。
身体的特徴の観察
出生時の身体的特徴、特に四肢の短縮や頭蓋骨の形状、胸郭の発達状態などを確認します。
画像検査
X線検査で骨の状態を詳しく調べます。
なお本症はレントゲン画像で2つのタイプに分類されますが、区別が難しい場合もあります。
顔面と頭蓋底の低形成、大きな頭蓋冠と側頭部の膨隆、前頭部突出が特徴です。特に頭蓋骨がクローバー葉様に変形すると2型に分類されます。
肋骨の短縮により胸郭は著しく低形成で、ベル型になります。
四肢の長管骨は弯曲し、特に大腿骨が正面像で電話の受話器のようにみえる変形は1型に特徴的です。
また長管骨の骨幹端が拡大し、杯状変形や棘状変形とよばれる形状を示します。
脊椎は扁平化して正面像では逆U字型やH字型となりますが、椎間腔は保たれます。
骨盤は腸骨翼が垂直方向で低形成のため四角に、臼蓋は水平化、坐骨切痕の短縮がみられます。
遺伝子検査
FGFR3遺伝子の変異を特定するための遺伝子検査を行います。これにより、確定診断が可能となります。
出生前診断
上記に記載したとおり、妊娠期間中から四肢短縮や羊水過多が観察され本疾患が疑われた場合、先端的な医療として羊水細胞を用いたFGFR3遺伝子変異を検出することで確定診断が可能です。
ただし、FGFR3遺伝子の変異が検出されなかった場合、ほかの骨系統疾患は診断不明のままです。
また近年は、胎児の3次元ヘリカルCTを撮影することで、ほかの骨系統疾患も含めて診断に迫ることが可能になってきました。ただし放射線被ばくがあるため慎重に検討する必要があります。
これらの検査結果を総合的に評価し、タナトフォリック骨異形成症の診断が下されます。
厚生労働省の難病センターでは以下の診断基準を採用しています。
診断基準
本診断基準によりタナトフォリック骨異形成症1型または2型の診断を確定する(Definite)。
それぞれの項目については下の解説を参照すること。
A.症状
- 著明な四肢の短縮
- 著明な胸郭低形成による呼吸障害
- 巨大頭蓋(または相対的巨大頭蓋)
B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)
- 四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨の著明な短縮と特有の骨幹端変形
- 肋骨の短縮による胸郭低形成
- 巨大頭蓋(または相対的巨大頭蓋)と頭蓋底短縮
- 著明な椎体の扁平化
- 方形骨盤 (腸骨の低形成)
C.遺伝子検査
線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)遺伝子のアミノ酸変異を生じる点突然変異
診断カテゴリ
各項目の基準
- A.症状の1)~3)のすべてを満たすこと。
- B.出生時の単純エックス線画像所見の1)~5)のすべてを満たすこと。
- C.遺伝子検査でいずれかの変異が同定されること。
判定基準
上記(1)と(2)の両方を満たせば診断が確定する(Definite)。
また(1)は満たすが、2)は満たさないまたは明確ではない場合、(1)と(3)の両方を満たせば診断が確定する(Definite)。
タナトフォリック骨異形成症の治療
現在、タナトフォリック骨異形成症を根本的に治す治療法は存在しません。治療は主に症状を緩和し、患者さんの生活の質を向上させることを目的とした対症療法が中心となります。特に重要なのは呼吸障害への対応であり、以下の方法が取られます。
酸素投与
血中の酸素濃度を維持するために酸素を供給します。
人工呼吸
自発呼吸が困難な場合、人工呼吸器を使用して呼吸をサポートします。
気管切開
長期的な呼吸管理が必要な場合、人工呼吸器のチューブを挿入する穴を気管に空ける手術を行います。
これらの呼吸管理を適切に行うことで、患者さんの生存率を高めることが可能です。しかし、長期生存した場合でも、重度の精神的・身体的な発達障害が残ることが多く、継続的なリハビリテーションや支援が必要となります。
タナトフォリック骨異形成症になりやすい人・予防の方法
タナトフォリック骨異形成症は、主に健康な両親からの突然変異によって発症するため、特定のリスク要因を持つ方が発症しやすいということはありません。しかし、以下のような点が考えられます。
高齢の父親
いくつかの研究では、父親の年齢が高いほどFGFR3遺伝子の突然変異が起こるリスクが高まる可能性が指摘されています。
遺伝子異常の家族歴
まれではありますが、家族内にFGFR3遺伝子の異常がある場合、発症の可能性がわずかに高くなることがあります。
現時点では、タナトフォリック骨異形成症を予防する確実な方法はありませんが、妊娠前の遺伝カウンセリングや出生前診断を受けることで、リスクを把握することができます。
関連する病気
- 軟骨無形成症
- 遺伝性骨異形成症
- 短躯症
参考文献




