

監修医師:
林 良典(医師)
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眼科(角膜外来)
足趾屈筋腱損傷の概要
足趾屈筋腱損傷とは、足の指(足趾)を曲げる働きを持つ屈筋腱が損傷を受ける疾患で、歩行や踏み込み動作、つま先立ちなどに支障をきたす状態を指します。
足趾の屈筋腱は主に長母趾屈筋と長趾屈筋からなり、これらが正常に働くことで足の指を曲げたり、足裏に力を加えることができます。
この腱が部分的に切れたり、完全に断裂したりすると、足趾を曲げることが難しくなり、歩行時に痛みや力の入りにくさを感じるようになります。特にスポーツや交通事故、重い物を足に落とすような外傷によって発症することが多く、症状の程度によっては手術が必要となる場合もあります。
足趾屈筋腱は、足裏の奥深くに位置しているため、損傷が起こっても外見上はわかりにくいです。したがって、痛みが軽度なうちは見過ごされやすく、症状を放置してしまうケースもあります。腱損傷は早期の診断と治療が重要であり、回復までの時間や運動機能の保持に大きく影響します。
足趾屈筋腱損傷の原因
足趾屈筋腱損傷は、過度な負荷や強い外力が腱に加わることで発症します。特に足の裏や足趾に瞬間的な衝撃が加わった際に、腱が伸ばされすぎたり切れたりすることがあり、スポーツ選手や労働中のけがなどで多くみられます。
例えば、ダッシュ中に急に方向転換したり、ジャンプの着地でつま先に強い力がかかった場合、あるいは重いものを誤って足に落とした場合などに、腱が過剰に伸展し損傷することがあります。また、長期間にわたる使いすぎ(オーバーユース)によって腱が摩耗し、日常のちょっとした動作でも断裂が起こることもあります。
中高年では、腱の柔軟性や強度が低下しているため、軽い動作でも損傷しやすくなります。さらに、糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患を持つ方では、腱が脆くなっていることがあり、軽い外傷で腱断裂を生じることもあります。こうした背景がある方は特に注意が必要です。
足趾屈筋腱損傷の前兆や初期症状について
足趾屈筋腱損傷の初期には、足趾を曲げにくい、踏み込んだときに足裏が痛いといった症状が現れます。損傷した腱の部位によって症状は多少異なりますが、多くの場合、足趾を曲げる動作に力が入らず、歩行中につまずきやすくなったり、地面を蹴る動作がぎこちなく感じられるようになります。
特に長母趾屈筋が損傷している場合は、母趾(親指)を単独で曲げることが難しくなり、立位で踏ん張る動作が困難になります。一方で、長趾屈筋の損傷では、2〜5趾の屈曲に障害が出て、複数の指が同時に動かしにくくなることがあります。これにより、靴の中で指が浮いたような違和感を覚える方もいます。
また、腱が部分断裂している場合は、足裏の深部に鈍い痛みを感じたり、押したときの圧痛がみられることがあります。炎症を伴うと腫れや熱感を伴うこともありますが、目立った外傷がないため軽視されがちです。
このような症状がある場合には、整形外科を早期に受診することが大切です。放置すると腱の断裂が進行し、手術が必要になる可能性もあるため、軽い症状でも早めの対応が望まれます。
足趾屈筋腱損傷の検査・診断
足趾屈筋腱損傷が疑われる場合、まずは問診と身体診察が行われます。
医師は、受傷時の状況や症状の経過、日常生活での困りごとなどを詳しく確認したうえで、足趾を屈曲する動作ができるかどうかをチェックします。腱が断裂していると、足趾を自力で曲げることが困難であり、また足裏に押したときの痛み(圧痛)が特徴的にみられます。
次に行われるのが画像検査です。まずはX線検査によって、骨折の有無や骨に付着した腱の断裂による裂離骨折などを確認します。腱そのものはX線には映りませんが、骨の変化から間接的に異常を推測できることもあります。より詳しく腱の状態を確認するためには、超音波検査やMRI検査が有効です。
超音波検査では、皮膚の上からプローブを当ててリアルタイムに腱の動きを観察することができ、断裂や部分損傷の有無をすぐに把握できます。一方、MRIは筋肉や腱、靱帯といった軟部組織を詳細に写し出すことができ、損傷の程度や範囲、周囲組織への影響なども確認できるため、手術の要否を判断する材料にもなります。
これらの検査を通じて、損傷の部位や重症度を総合的に評価し、適切な治療方針を決定します。
足趾屈筋腱損傷の治療
足趾屈筋腱損傷の治療は、損傷の程度や患者さんの年齢、日常生活での負荷のかかり方によって異なります。軽度の損傷や部分断裂であれば、保存療法が選択されることが一般的です。保存療法では、テーピングやギプスによる固定を行い、腱を安静に保ちながら自然治癒を促します。固定期間はおおむね2〜4週間程度で、その後はリハビリテーションによって関節の可動域や筋力を回復させます。
一方、完全断裂や機能的障害が大きい場合は、手術療法が必要になることがあります。手術では、断裂した腱を縫合したり、損傷が著しい場合にはほかの腱を移植して再建する方法が取られます。術後は一定期間のギプス固定が必要で、その後リハビリを行いながら徐々に足趾の機能を回復させます。回復までの期間は、症状の重さや年齢によって異なりますが、数ヶ月にわたるリハビリが必要になることもあります。
いずれの治療法でも、早期に適切な処置を行うことで良好な経過が期待できます。逆に、放置していると腱が短縮したり、関節拘縮が生じて、手術をしても完全な機能回復が難しくなる可能性があります。そのため、自己判断で様子を見るのではなく、専門の医師による早期診断と治療が大切です。
足趾屈筋腱損傷になりやすい人・予防の方法
足趾屈筋腱損傷は、スポーツをしている方や足に強い負荷がかかる仕事に従事している方に多く見られます。特に、走る・跳ぶ・止まるといった動作を繰り返す競技(サッカー、バスケットボール、バレーボール、陸上など)では、足趾や足裏の腱に繰り返し負担がかかるため、損傷のリスクが高まります。また、急な方向転換やジャンプの着地などで瞬間的に腱が引き伸ばされると、部分断裂や完全断裂につながることがあります。
加齢によって腱の柔軟性が低下している中高年の方や、糖尿病・関節リウマチなどの慢性疾患を持つ方も、腱が弱くなっているため軽い外力でも損傷しやすい傾向があります。日常生活のなかでも、重い物を落とす、つま先をぶつける、階段を踏み外すなど、ちょっとしたアクシデントが引き金になることがあります。
予防のためには、運動前のストレッチやウォーミングアップを丁寧に行い、足趾や足関節の柔軟性を高めておくことが基本となります。これにより、筋肉や腱への急激な負荷を避けることができ、損傷のリスクを軽減できます。特に寒冷時や運動習慣が不十分な場合は、念入りな準備運動を行うようにしましょう。さらに、足に合った靴を選ぶことや、足のアーチを支えるインソールを使用することで、足への過度な負担の集中を防ぐことができます。
過去に足の腱を痛めたことがある方や、長時間の立ち仕事・歩行が続く方は、日頃から足趾やふくらはぎのケアを意識し、痛みや違和感があれば早めに整形外科を受診するよう心がけましょう。適切な対策と早期対応によって、再発や重症化を防ぐことが可能です。
関連する病気
- アキレス腱断裂
- 足底筋膜炎
- 足趾の変形
参考文献
- Simpson MR, Howard TM. Tendinopathies of the foot and ankle. Am Fam Physician. 2009 Nov 15;80(10):1107-14.
- 足関節後方インピンジメント症候群(三角骨障害など)|東京科学大学 整形外科
- 足の外科 代表的疾患・手術方法|国際医療福祉大学市川病院




