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慢性腰痛症
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

慢性腰痛症の概要

3ヶ月以上続く腰の痛みを慢性腰痛症といいます。慢性腰痛症は、世界的にも広く見られる症状であり、成人の約65〜80%が生涯のうちに何らかの形で腰痛を経験するとされています。
痛みの程度や頻度は個人差があり、軽い違和感から、日常生活に支障をきたす強い痛みまでさまざまです。
また、慢性的な腰痛が続くと、医療費の増加や労働生産性の低下を引き起こし、個人や社会にまでも大きな経済的負担をもたらす可能性もあるといわれています。

慢性腰痛症の原因は1つではなく複合的なため、特定が難しいことがほとんどです。ただ、一般的な原因として、筋肉や靭帯の損傷、背骨の骨と骨の間にあるクッションの役割を果たしている椎間板の変性、炎症、骨粗しょう症などが考えられています。
さらに、ストレスや不安などの心理的要因、長時間の不適切な姿勢、運動不足、肥満などの生活習慣も腰痛を発症する要因の1つと考えられています。
慢性腰痛症は、適切な診断と治療、そして生活習慣の見直しによって、症状の緩和や改善が期待できます。
そのため、気になる症状がある場合は、医師や理学療法士などのリハビリテーション職と連携し、自分に合った治療法や予防策を取り入れることが重要です。

慢性腰痛症の原因

慢性腰痛症の原因は以下のような原因が考えられます。

筋肉の問題

腰の筋肉が原因で腰痛が生じるのは、以下のような原因が考えられます。

筋肉の過度使用や損傷

長時間にわたって不適切な姿勢や重い物を持ち上げる際の無理な動作などによって、腰部の筋肉や靭帯が損傷し、慢性的な痛みを引き起こす場合があります。

腰筋労損

腰の筋肉が疲労したり、炎症を起こしたりして腰痛を引き起こす症状の腰筋労損も原因の1つです。
この症状は、腰部の筋肉や靭帯を過度に使用することによって引き起こされるといわれています。

筋肉のバランス低下

腰部の筋肉が弱くなったり、筋肉が硬くなると腰痛を引き起こす場合があります。特に、腰部の安定性を保つための筋肉のバランスが低下すると、痛みを生じやすくなります。

椎間板や関節の変性

腰には、背骨の骨と骨の間に、クッション的な役割をする軟骨組織である椎間板が存在します。
ただ、この椎間板が加齢や過度の負荷などによって、硬くなったり、劣化したりするなど変性し、神経が圧迫されることで痛みを引き起こすことがあります。
椎間板や関節の変性による病気は以下のようなものがあります。

  • 椎間板変性症
  • 椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症

骨の異常

以下のように骨の異常でも、慢性腰痛症を発症する場合があります。

脊椎すべり症

背骨の骨が前後にズレることで、脊柱管の中を通る神経が圧迫されて、腰痛を発症する病気です。

骨粗しょう症

骨密度が低下して、骨がもろくなるため、弱い外力でも骨折しやすくなります。これによって、いつの間にか腰の骨が折れて、腰痛を引き起こされることがあります。

その他

今まで解説した原因とは別に以下の内容が原因の場合もあります。

心理的要因

精神的なストレスや不安、抑うつなどの心理的要因は、慢性腰痛の発症や悪化に関係する場合があります。心理的な不安定さは、痛みを感じやすい傾向とされています。

生活習慣

運動不足や長時間の座位、肥満、喫煙などの生活習慣も、腰痛を発症する可能性が高まるといわれています。

慢性腰痛症の前兆や初期症状について

前兆や初期症状として、以下のようなものがみられます。

腰への痛みや違和感

初期段階では、腰への軽い痛みや違和感を覚えることがあります。この痛みは、長時間同じ姿勢を続けた際や、疲労時によく感じます。

動作時の軽い痛み

前かがみや物を持ち上げる際に、腰に軽い痛みを覚えることがあります。初めは一時的な痛みでも、そのままにしておくと慢性的な痛みに進行する可能性があります。

腰のこわばり

起床時などに、腰がこわばったり硬く感じる場合があります。この症状は、軽いストレッチや動き始めると少しずつ改善することが一般的です。

放散痛

腰の痛みがお尻や足に広がることがあります。この症状を感じた場合は、神経が圧迫されている可能性があるため、早めに医療機関を受診することが重要です。

これらの症状を感じた場合は、すぐに整形外科を受診しましょう。整形外科を受診し、骨や筋肉、関節などの評価と、必要であれば画像診断を実施すれば、腰痛の原因だけでなく、治療計画も併せて行うことができます。
慢性腰痛症は、初期症状が進行することで、より深刻な状態に至る可能性があります。そのため、腰に違和感があるなど、症状が軽い場合でも医療機関を受診し、医師の診察を受けましょう。

慢性腰痛症の検査・診断

慢性腰痛症の検査・診断は、主に以下の方法で行われます。

病歴の聴取

医師は症状を確認するために、以下の内容を聴取します。

  • 痛みの強さや種類(鋭い、鈍いなど)
  • 痛みの持続時間
  • 発症時期
  • 痛みの部位
  • 放散痛の有無
  • 日常生活への影響

身体診察

視診や触診を行って、腰部や周辺の筋肉、関節の状態を確認します。また、筋力の低下や、可動域の確認も併せて行います。

画像検査

必要に応じて、以下の画像検査が行われます。ただし、慢性腰痛種の場合、すべての患者さんに画像検査が必要ではないため、病歴の聴取や身体診察を行って検査の必要性を決めます。

  • X線(レントゲン)検査
  • CT検査
  • MRI検査

慢性腰痛症の治療

慢性腰痛症の治療は以下のように、患者さんの状態に応じて分かれます。

保存療法

保存療法は主に以下の方法があります。

運動療法

腰を中心に、筋力強化や柔軟性を高める運動を行うことで、痛みの軽減と、関節の可動域が広がるなど、機能改善に効果があるとされています。

物理療法

電気療法、超音波療法、赤外線療法などの物理療法は、筋肉の硬さを和らげて、血流を改善することが期待されます。

薬物療法

痛みや炎症を和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されます。
また、場合によっては、痛みの原因となる神経に、痛みのある部位の神経付近に麻酔薬を注射で注入するブロック注射を行う場合もあります。

認知行動療法(CBT)

心理的な要因が痛みに影響を与えることがあります。
その場合は、痛みについての間違った認識の修正と、生活習慣を改善するとともに、活動量を増やしながら痛みの軽減を目指す認知行動療法を行うことで、痛みの感じ方や生活への影響を和らげる効果が期待できます。

手術療法

保存療法の効果が低く、日常生活に影響が出るくらいの痛みが出ている場合は、手術療法を検討します。手術療法は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの特定の病状に対して行われます。

慢性腰痛症になりやすい人・予防の方法

次の要因に該当する場合は、慢性腰痛症を発症しやすい傾向とされています。以下に、痛みを感じやすい方の特徴と予防方法をまとめます。

慢性腰痛症になりやすい方の特徴

以下の要因に該当する場合は、慢性腰痛症になりやすいので注意しましょう。

以前に腰痛を発症している

過去にギックリ腰など、腰痛の経験がある場合は、そのまま慢性腰痛に移行する可能性が高いとされています。

ストレスを多く抱える

精神的なストレスを多く抱えていると、自律神経の乱れが生じた結果、血流の悪化や筋肉が緊張した状態となり、腰痛につながることがあります。

運動不足の方

日常的に運動する習慣がない場合、筋力や柔軟性が低下し、腰痛を発症する可能性が高まります。

職業的要因

職場が重労働な場合や、長時間のデスクワークで、前かがみの姿勢を続けると、腰への負担が強くなり、慢性腰痛を引き起こす場合があります。

予防の方法

以下の方法を実践することで、慢性腰痛症の発生を予防できる可能性があります。

定期的な運動

ウォーキングやストレッチなどの軽い運動を普段に取り入れて、筋力と柔軟性を高めましょう。

正しい姿勢を意識する

椅子に深く腰かけ、背筋をまっすぐ伸ばすなど、正しい姿勢を普段から意識することで腰への負担を軽減できます。

ストレスの管理

リラクゼーションや趣味の時間を持つことで、精神的なストレスを軽減し、自律神経のバランスを保てるはずです。

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