

監修医師:
林 良典(医師)
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目次 -INDEX-
真菌性関節炎の概要
真菌性関節炎とは、真菌(カビ)が関節に感染し、炎症を引き起こす病気です。
通常、関節炎は細菌やウイルス感染によるものが多いですが、免疫力が低下している場合や、人工関節の手術後などに真菌感染が関節内に及ぶことがあります。関節が腫れ、痛みや動かしづらさが特徴で、一般的な関節炎と比べ、治療期間が長引くことがあります。
本疾患はまれですが、放置すると関節の破壊が進み、関節機能が著しく低下する可能性があるため、早期の診断と適切な治療が必要です。特に、免疫機能が低下している方はリスクが高いため、関節の痛みや腫れが続く場合には、医療機関を受診することが重要です。
真菌性関節炎の原因
真菌性関節炎の主な原因は、血流を介して真菌が関節に侵入する経路と外傷や手術による直接感染の2つに分けられます。
血流を介した感染
血液を通じて真菌が関節に到達するケースは、体内の別の部位で感染が生じた後に関節に波及することがあります。通常、免疫機能が正常に働いていれば、真菌の増殖は抑えられます。しかし、免疫力が低下していると、真菌が血流に乗り、関節へ運ばれることで感染を引き起こします。
特に、カンジダ属やアスペルギルス属といった真菌が原因となることが多いです。これらの真菌は、皮膚や消化管に常在しています。しかし、長期間のステロイド使用、免疫抑制剤の服用、糖尿病、がん治療中などの影響で免疫力が低下すると、真菌が増殖しやすくなり、血流を介して関節へと広がるリスクが高まります。
外傷や手術による直接感染
外部からの侵入による感染も、真菌性関節炎の発症原因の一つです。外傷によって関節に直接真菌が入り込んだり、人工関節の手術や関節に針を刺す治療(関節注射・関節ドレナージ)の際に真菌が関節内へ侵入することで感染が成立することがあります。
真菌性関節炎の前兆や初期症状について
真菌性関節炎の初期症状は、関節の腫れや痛み、動かしにくさが中心ですが、進行が緩やかであるため、一般的な関節炎と区別が難しいことがあります。炎症の程度によっては、関節がこわばる感覚が出ることもあり、日常の動作に違和感を覚えることが増えます。発熱を伴わないことも多く、慢性的な関節痛と認識され、適切な診断が遅れることがあります。
感染が進むと、関節の可動域が狭くなり、関節を動かしたときに強い痛みを感じることが増えます。痛みは動作時だけでなく、安静時にも感じることがあり、特に朝起きたときに関節のこわばりを強く感じることがあります。また、関節に熱感を伴うこともあり、腫れが顕著になることもあります。抗生物質の投与による改善が見られない場合や、原因不明の関節炎が遷延する場合には、真菌感染の鑑別を行う必要があります。
真菌性関節炎が疑われる場合には、整形外科や感染症内科を受診しましょう。
真菌性関節炎の検査・診断
真菌性関節炎の診断では、まず視診と触診を行い、関節の腫れや発赤、圧痛があるかを確認します。続いて、関節を動かしたときの痛みの程度や可動域の制限を評価し、炎症の広がりを調べます。細菌性関節炎では抗生物質の効果が期待されるが、真菌性関節炎では抗生物質が無効であり、症状が数週間以上続く場合は真菌感染の可能性を考慮する必要があります。
より詳しく調べるために、関節液の採取を行い、培養検査や顕微鏡検査を実施します。関節液の透明度や粘度の変化、白血球数の増加なども診断の重要な手がかりとなります。また、血液検査を行うことで、全身の炎症の有無や免疫状態を評価し、体内で真菌が拡散していないかを確認します。
さらに、MRI検査や超音波検査により、関節内の炎症の範囲や、軟骨および骨の破壊の程度を詳細に評価できます。これにより、ほかの感染性関節炎や自己免疫疾患との鑑別が可能になり、適切な治療方針を決定することができます。
真菌性関節炎の治療
真菌性関節炎の治療では、抗真菌薬による内科的治療のみでは十分な効果が得られず、外科的治療の併用が必要となることがあります。関節内は血流が少ないため、全身投与された抗真菌薬が十分に届かず、感染の完全な除去が困難になることがあります。そのため、感染を効果的にコントロールするためには、関節洗浄や関節穿刺・ドレナージなどの処置を行い、直接関節内の炎症や膿を取り除くことが重要です。これらの外科的治療と抗真菌薬の組み合わせによって、関節の破壊を最小限に抑え、機能の回復を促すことができます。
抗真菌薬による治療
真菌性関節炎の治療では、抗真菌薬が中心となります。まず、感染の原因となる真菌の種類を特定し、それに適した抗真菌薬を選択して投与します。投与方法には経口薬と静脈内投与があり、感染の重症度や患者さんの全身状態に応じて決定されます。治療期間は数週間から数ヶ月に及びます。
特に、免疫力が低下している方では、真菌が関節内に定着しやすく、再発のリスクも高いため、長期的な治療計画が必要です。抗真菌薬の効果を最大限に引き出すためには、定期的な検査を行いながら治療の経過を慎重に観察し、必要に応じて薬剤の種類や投与方法を調整することが重要です。
関節洗浄と手術療法
抗真菌薬のみでは関節内の感染を完全に治癒することが難しく、治療効果が不十分な場合があります。特に、関節内に膿が溜まり炎症が持続している場合には、関節穿刺・ドレナージや関節洗浄によって、感染物質を物理的に取り除く処置が必要となります。これらの外科的治療を行うことで、炎症を抑え、関節のさらなる破壊を防ぐことができます。
感染が進行し、関節の破壊が強い場合には、人工関節置換術や関節固定術などの外科的処置が必要になることもあります。
治療後は、関節の機能を回復させるためにリハビリを行い、可動域の改善や筋力の回復を目指します。
真菌性関節炎になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
真菌性関節炎は、特に免疫力が低下している方に発症しやすいとされています。糖尿病、がん、HIV感染症の方や、長期間にわたりステロイドや免疫抑制剤を使用している方は注意が必要です。また、人工関節の手術を受けた方や頻繁に関節注射を受ける方も、関節内に真菌が侵入するリスクが高くなります。
慢性的な皮膚真菌症(カンジダ症など)がある方も、血流を介して関節に感染が広がることがあるため、適切な治療を受けることが重要です。
予防の方法
真菌性関節炎を予防するためには、まず感染予防対策が重要です。免疫力を維持するために、バランスの取れた食事や適度な運動、十分な休養を心がけることが重要です。また、糖尿病やその他の基礎疾患を持つ方は、病気の管理を適切に行い、感染リスクを最小限に抑えることが大切です。
手術や関節注射を受ける際には、無菌的な環境で処置を行い、感染予防策を徹底することが求められます。特に、人工関節を装着している方は、定期的な診察を受け、感染の兆候がないか確認が必要です。
また、皮膚の健康を維持することも重要です。真菌が繁殖しやすい環境を避け、手指や足の爪を清潔に保つことで、真菌感染のリスクを低減できます。適切な衛生管理を実践することで、真菌性関節炎の発症リスクを抑えることができます。
関連する病気
- 血行性関節炎
- 全身性真菌感染症
- 免疫抑制関連感染症
参考文献
- Mishra A, Juneja D. Fungal arthritis: A challenging clinical entity. World J Orthop. 2023 Feb 18;14(2):55-63
- Kohli R, Hadley S. Fungal arthritis and osteomyelitis. Infect Dis Clin North Am. 2005 Dec;19(4):831-51.
- 佐々木 毅, 15.感染性関節炎, 日本内科学会雑誌, 2010, 99 巻, 10 号, p. 2484-2489




