手指伸筋腱損傷

手指伸筋腱損傷の概要

手指伸筋腱損傷とは、指を伸ばす役割を担う伸筋腱が部分的に損傷したり、完全に断裂したりする状態を指します。 伸筋腱は手の甲側を通り、手首から指先までをつないでおり、日常生活のあらゆる動作に関与しています。そのため、損傷が生じると、指を伸ばすことが困難になり、細かい作業や握力を必要とする動作に支障をきたすことがあります。

この損傷は、スポーツや事故による外傷、長期間にわたる負担の蓄積によって発生することが多く、特に手を頻繁に使う方に起こりやすい傾向があります。症状の程度によっては、適切な治療とリハビリを行うことで機能を回復できますが、放置すると指の動きが制限され、日常生活に支障をきたすことがあるため、早期の診断と治療が重要となります。

ここでは、手指伸筋腱損傷を詳しく説明します。

手指伸筋腱損傷の原因

手指伸筋腱損傷の主な原因は、外傷による損傷と長期間の負荷による損傷の蓄積の2つに分けられます。

外傷による損傷は、スポーツ中の衝撃や転倒、機械操作時の事故など、急激な力が指に加わることで発生します。特に、ボールを強く受けた際や、指を無理に伸ばした際に腱が断裂することがあります。また、鋭利なものによる切り傷が原因で腱が切断されることもあります。

一方、長期間の負荷による損傷の蓄積は、日常的に指を酷使することで腱に小さな損傷が蓄積し、やがて断裂に至るケースです。特に、楽器演奏や手作業を伴う職業、パソコン作業の多い方では、指の伸筋腱に継続的な負担がかかり、炎症や損傷を引き起こしやすくなります。また、加齢に伴い腱の弾力性が低下すると、わずかな衝撃でも損傷しやすくなります。

手指伸筋腱損傷の前兆や初期症状について

手指伸筋腱損傷の初期症状として、指を伸ばしにくくなる、手の甲側に違和感がある、軽い痛みが続くといった症状が現れます。特に、指を伸ばそうとするとスムーズに動かせない、あるいは無理に動かそうとすると痛みが強まる場合は、腱の損傷が疑われます。

損傷が進行すると、指を完全に伸ばすことが難しくなり、手の甲に腫れや圧痛が生じることがあります。また、腱が完全に断裂してしまった場合には、指を自力で伸ばせず、曲がったままの状態になってしまうこともあります。この状態を放置すると、指の機能が低下し、日常生活の動作が困難になる可能性が高まります。例えば、物をつかむ、書く、タイピングするといった基本的な動作にも影響が出るため、早めに適切な診断を受けることが大切です。このような症状が続く場合や、指の動きに違和感がある場合は、早めに整形外科を受診しましょう。

手指伸筋腱損傷の検査・診断

手指伸筋腱損傷の診断では、まず視診と触診を行い、手の甲や指の腫れ、変形、圧痛の有無を確認します。次に、指を伸ばす動作を評価し、可動域の制限や筋力の低下が見られるかを評価します。特に、指が自力で伸ばせない、あるいは不自然な位置で固定されている場合は、腱の完全断裂が疑われるため、精密な検査が必要になります。

詳細な評価のために、X線検査を実施し、骨折の有無や関節の異常を確認します。X線では腱自体は映りませんが、腱の損傷に伴って骨片が剥離しているかどうかを調べることができます。また、超音波検査（エコー）を用いることで、腱の炎症や部分的な断裂の状態をリアルタイムで観察できます。さらに、MRI検査を行うことで、腱の損傷範囲をより正確に把握し、部分断裂か完全断裂かを診断します。これにより、損傷の程度に応じた治療方針を決定します。

手指伸筋腱損傷の治療

手指伸筋腱損傷の治療方法は、大きく分けて保存療法と手術療法の2種類があります。損傷の程度や日常生活への影響を考慮し、適切な治療法が選択されます。

保存療法

軽度の損傷では、まず患部を安静にし、腱に余計な負担をかけないことが重要です。指の固定にはテーピングや装具を使用し、必要に応じて添え木などで保護することで、腱の回復を促します。特に、損傷直後は炎症が起こりやすいため、患部を冷やすアイシングを行い、腫れや痛みを軽減することが推奨されます。また、痛みが強い場合には、消炎鎮痛薬を服用することで炎症を抑え、日常生活での指の動きを少しでも楽にすることができます。症状の改善に伴い、リハビリを進めることが重要です。

手術療法

腱が完全に断裂している場合や、保存療法では十分な改善が見られない場合には、手術が必要になります。手術では、切れた腱を丁寧に縫合し、指の機能を可能な限り回復させることを目的とします。損傷の範囲が広い場合や、腱の状態が悪化している場合には、健康な腱の一部を移植したり、補強手術を行ったりすることもあります。

手術後は、安定した回復を促すためにギプスや装具を使用して指を固定します。この固定期間中は、無理な動作を避けることが大切です。その後、リハビリをしながら指の動きを回復させていきます。

リハビリテーション

術後や保存療法による回復過程では、リハビリがとても重要になります。リハビリでは、初期の段階では無理な動きを避けながら、少しずつ可動域を広げるストレッチを行います。その後、筋力を取り戻すための運動を取り入れ、握力や指の安定性を高めるトレーニングを行うことで、日常動作の支障を減らします。適切なリハビリを継続することで、指の機能を回復させ、手を使う作業やスポーツなどへの復帰を目指します。

手指伸筋腱損傷になりやすい人・予防の方法

手指伸筋腱損傷になりやすい人および予防の方法は以下となります。

手指伸筋腱損傷になりやすい方

手指伸筋腱損傷は、特に手を頻繁に使う職業や活動をしている方に多く見られます。例えば、楽器演奏者やパソコン作業が多い方、または細かい手作業を行う職業の方は、指を日常的に酷使するため、腱に繰り返し負担がかかりやすくなります。特に、長時間同じ動作を続けることで腱が疲労し、炎症を起こしやすくなるため、注意が必要です。また、スポーツを行う方では、ボールが強く指に当たる動作や、無理な姿勢で指を伸ばす動作が原因で腱を損傷するケースが多く見られます。

加齢に伴い、腱の弾力性が低下すると、わずかな衝撃でも損傷しやすくなります。特に、高齢の方では、長年の使用による腱の摩耗や変性が進み、軽い負荷でも損傷を引き起こすリスクが高まります。さらに、糖尿病や関節リウマチなどの疾患を持つ方では、腱の血流が低下することで組織の回復力が低下し、損傷が治りにくくなることが知られています。そのため、こうしたリスクがある方は、日頃から指に過度な負担をかけないよう注意し、適切なケアを行うことが大切です。

手指伸筋腱損傷の予防方法

手指伸筋腱損傷を防ぐためには、指に過度な負担をかけないことが重要です。作業やスポーツを始める前には、十分なウォーミングアップを行い、指や手の甲の筋肉をしっかりとほぐしておくことで、突然の強い負荷による損傷を防ぐことができます。また、指を使う作業の際は、無理な動きを避け、できるだけ手や腕全体を使うようにすることで、特定の腱にかかる負担を軽減できます。

長時間指を酷使する作業では、一定の間隔で休憩を取り、指の疲労を軽減することが大切です。同じ動作を繰り返す場合は、適宜手の位置を変えたり、動作の合間に指を軽く動かしたりすることで、負担が集中しないよう工夫することが望まれます。

また、指の筋力を維持するために、日常的に軽いストレッチやエクササイズを取り入れることも有効です。例えば、手をゆっくり握ったり開いたりする運動や、指を一本ずつしっかりと伸ばすストレッチなどで、腱の柔軟性を高め、損傷のリスクを減らすことができます。