

監修医師:
林 良典(医師)
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目次 -INDEX-
手指屈筋腱損傷の概要
手指屈筋腱損傷とは、指を曲げる役割を果たす屈筋腱が損傷する状態を指します。
屈筋腱は、前腕から指先にかけて伸びており、筋肉の収縮によって指を屈曲させる働きを持っています。この腱が切れたり断裂したりすると、指を曲げる動作が困難になり、握力の低下や日常生活への支障が生じます。
この損傷は、主に鋭利な刃物による切創や、スポーツなどで強い負荷がかかることで発生します。また、慢性的な腱の炎症や加齢による組織の弱化が原因となり、軽い外力でも断裂することがあります。特に、手を酷使する職業やスポーツ選手は発症しやすい傾向があります。
手指屈筋腱損傷が生じると、患部の痛みや腫れに加えて、指が思うように動かなくなることが特徴です。軽度の損傷では、ある程度の指の動きが保たれることもありますが、完全断裂の場合は、自力で指を曲げることができなくなります。このような場合、迅速な治療が必要となり、特に外傷による損傷では、早期の縫合手術が求められます。
ここでは、手指屈筋腱損傷を詳しく説明します。
手指屈筋腱損傷の原因
手指屈筋腱損傷は、切り傷や強い衝撃によって発生します。包丁やガラス片で指を傷つける、工具を使う作業中の事故、スポーツでの衝突や過度な負荷が主な原因です。腱が切断されると、指を自力で曲げることができなくなります。
加齢や繰り返しの負荷も原因となります。加齢により腱の弾力が低下すると、軽い衝撃でも損傷しやすくなります。また、長時間の作業や運動で腱に負担がかかると、炎症や摩耗が進んで弱くなります。
日常的な動作でも腱に負担がかかることがあり、楽器演奏や裁縫のような細かい動作の繰り返しが原因となることもあります。手指屈筋腱損傷は、突発的な外傷だけでなく、日々の負荷の積み重ねによっても発生するため、無理のない使い方を心がけることが重要です。
手指屈筋腱損傷の前兆や初期症状について
手指屈筋腱損傷の初期症状として、指を曲げることが困難になることが特徴です。特に、完全に断裂した場合は、自力で指を曲げることができなくなり、患部に強い痛みや腫れが生じます。また、腱が切れた際には、皮膚の下で腱が跳ねるような感覚を感じることもあります。
損傷の程度によっては、部分的に腱が残っている場合もあり、その場合はわずかに指を曲げることができることもあります。しかし、時間の経過とともに腱の断裂部が縮んでしまい、適切な治療を受けなければ指の機能が回復しにくくなります。
また、損傷した部位によっては、手のひらや前腕にまで痛みが広がることがあります。これは、腱が連続的に前腕の筋肉とつながっているためであり、指の損傷が腕全体の違和感につながることがあります。そのため、指だけでなく、前腕の不快感や力が入りにくいなどの症状がある場合も、腱の損傷を疑う必要があります。手指屈筋腱損傷が疑われる場合は、整形外科を受診しましょう。
手指屈筋腱損傷の検査・診断
手指屈筋腱損傷の診断は、視診と触診に加えて、画像検査を用いて行われます。指を動かした際の可動域の制限や痛みの程度を確認し、腱の断裂が疑われる場合にはさらに詳しい検査を行います。特に、指を曲げようとしても動かない場合は、完全断裂の可能性が高く、迅速な診断が求められます。
X線検査は、骨折の有無を確認するために行われますが、腱そのものを直接見ることはできません。そのため、超音波検査(エコー)やMRI検査が重要な診断手段となります。超音波検査では、腱の断裂の位置や程度をリアルタイムで観察でき、MRI検査では腱の状態を詳細に把握し、炎症の有無や周囲の組織への影響を確認することができます。
また、外傷が原因の場合には、周囲の神経や血管が損傷している可能性もあるため、神経の機能検査を行うことがあります。
手指屈筋腱損傷の治療
治療法は、損傷の程度によって異なります。保存療法と手術療法の2つの方法があり、損傷の重症度に応じて適切な治療が選択されます。
保存療法
部分断裂や軽度の損傷の場合には、安静と固定を基本とした保存療法が行われます。患部の負担を減らすために、指を固定するスプリントやテーピングを使用し、腱の修復を促します。また、アイシングによる炎症の抑制や、消炎鎮痛薬の使用が推奨されることもあります。
回復段階では、リハビリテーションを行い、指の可動域を広げながら筋力を回復させることが重要です。急激な負荷をかけると再損傷のリスクがあるため、医師や理学療法士の指導のもとで慎重にリハビリを進めることが求められます。
手術療法
完全断裂の場合や、保存療法で改善が見られない場合には、手術が必要になります。手術では、切断された腱を縫合し、可能であれば元の位置に戻すことで機能を回復させます。場合によっては、腱の移植手術が行われることもあります。
術後は、ギプスや装具を使用して指を固定し、一定期間の安静を保つことが必要です。この期間中は、腱が適切に癒着し、無理な動きによる再損傷を防ぐことが目的となります。固定期間が終了した後は、指の機能を取り戻すために段階的なリハビリが行われます。リハビリでは、最初に軽いストレッチや可動域の回復を目指し、その後、握力や細かい動作の回復を段階的に進めていきます。完全な回復までには数ヶ月を要することが多いようです。
手指屈筋腱損傷になりやすい人・予防の方法
手指屈筋腱損傷になりやすい人および予防の方法は以下となります。
なりやすい方
手指屈筋腱損傷は、特に手を頻繁に使う職業の方やスポーツを行う方に多く見られます。料理人や工場作業者など、手を酷使する仕事では、長時間の使用による腱への負担が蓄積し、損傷のリスクが高まります。また、バスケットボールや柔道のように強い衝撃が指に加わるスポーツでは、突発的な外力が加わることで腱が断裂することもあります。
加齢に伴い腱の弾力性が低下し、日常的な動作でも損傷しやすくなります。また、糖尿病や関節リウマチなどの疾患を持つ方は、腱への血流が不足しがちになり、その結果として組織がもろくなり損傷のリスクが高まります。
さらに、手指を頻繁に使う仕事や趣味を持つ方も注意が必要です。例えば、楽器を演奏する方や手作業を多く行う方は、指の動作を長時間繰り返すことで腱に負担がかかり、炎症や摩耗が生じやすくなります。特に、強く握る動作や細かい作業を続けることで腱に過度な負荷がかかり、損傷の原因となることがあります。
予防の方法
手指屈筋腱損傷を防ぐためには、日頃から腱や指の柔軟性と強度を維持することが大切です。運動や作業を行う前には、ウォーミングアップとストレッチを取り入れ、腱をしなやかに保つことで損傷のリスクを軽減できます。
また、筋力トレーニングによって、指や手首の筋肉を強化することも効果的です。筋力が不足していると、腱への負担が増し、わずかな外力でも損傷を引き起こす可能性があるため、軽い負荷をかけた運動を取り入れることが重要です。
さらに、スポーツ時にはサポーターやテーピングを活用することで、指への過度な負荷を避けることができます。特に、過去に損傷歴がある方は、再発防止のためにも保護をしっかり行うことが推奨されます。
日常生活でも、無理に指を酷使せず、適度な休息を取りながら使うことが大切です。特に、長時間の作業を行う際には、適度な休憩を挟むことで腱への負担を軽減できます。
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