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炎症性腸疾患関連関節炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

炎症性腸疾患関連関節炎の概要

炎症性腸疾患関連関節炎は、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に伴って発症する関節炎です。炎症性腸疾患者の数割が炎症性腸疾患関連関節炎を発症するとされています。代表的な症状には、朝方の背中やお尻のこわばり、アキレス腱や足底の痛みがあり、体を動かすことで症状が改善するという特徴があります。診断には問診や身体診察に加え、血液検査や画像検査が行われ、化膿性関節炎などの他の関節疾患の鑑別が不可欠です。治療は関節と腸の両方の炎症制御を目標に、NSAIDsやDMARD、ステロイドなどを用いて治療します 。
炎症性腸疾患に関連する腸管外症状は関節以外にも体の各所に起こりえます。様々な診療科が協力して診療にあたります。

炎症性腸疾患関連関節炎の原因

炎症性腸疾患関連関節炎は、クローン病や潰瘍性大腸炎への罹患発症に伴って発症する関節炎のことです。
炎症性腸疾患の原因自体は解明されていない部分が多いですが、遺伝性の要因や環境要因、免疫系の異常など様々なことがいわれています。炎症性腸疾患が関節症状発症に寄与するメカニズムもよくわかっていません。

炎症性腸疾患関連関節炎の前兆や初期症状について

炎症性腸疾患関連関節炎では、背骨や骨盤などの体軸の関節に症状が出やすいことが特徴です。四肢の末梢関節の痛みのみの場合や、体軸と末梢の関節のどちらも症状がある場合もあります。研究により差がありますが、炎症性腸疾患患者の 13% に末梢関節炎、10% に仙腸関節炎 (骨盤の一部の炎症) 、3% に強直性脊椎炎がでるという報告があります (参考文献 1) 。
典型的な体軸関節の症状としては、朝方や安静時に自覚する、背中やお尻のあたりに長い時間続く”こわばり”があります (参考文献 1) 。この痛みは体を動かすと改善することが特徴です。
また、踵 (かかと) のあたりにあるアキレス腱の付着部に痛みが出たり、足の裏が痛くなることがあり、これらを付着部炎とよびます。

炎症性腸疾患に罹患中の方で、これらの症状がある場合には、かかりつけの病院を受診して相談してください。
本筋とは少しずれますが、炎症性腸疾患の初期症状としては腹痛、下痢、血便などの腹部症状があります。下部消化管内視鏡 (大腸カメラ) による検査が必要なので、検査ができる病院を受診してください。

炎症性腸疾患関連関節炎の検査・診断

まずは診察室でできるような問診と身体診察をします。関節炎の診断では、症状の経過や、どの関節が痛いのかを詳しくチェックすることである程度疾患を絞り込めます。
そのほかの検査としては血液検査やX線検査が一般的です。

注意しなければいけないのは「炎症性腸疾患の患者に起こった関節炎」=「炎症性腸疾患関連関節炎」ではないということです。関節が痛くなる病気はたくさんあり、その中には急いで治療しないといけないものもあるので、それらとの区別が必要です。

なかでも化膿性関節炎は必ず除外しなけれいけない疾患とされています。ただでさえ化膿性関節炎は重症疾患ですが、炎症性腸疾患関連関節炎に対して用いる免疫機能を抑える作用のある薬剤は、化膿性関節炎を悪化させてしまいます。関節内は普段は無菌状態であるうえに、血流が非常に乏しく、一度感染症が起こると治療に難渋することが多いです。したがって、症状の部位や経過から化膿性関節炎の可能性を捨てきれない場合には、関節を針で刺して感染が起こっていないかをチェックします。

炎症性腸疾患関連関節炎の治療

炎症性腸疾患関連関節炎では、関節と消化管の両方の炎症を抑えることを目標に治療します。初期治療として非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) を使い、治療への反応が乏しい場合には関節リウマチに対してつかうような薬剤 (DMARD) や、ステロイド、TNF阻害薬を使用して関節症状の緩和をねらいます (参考文献 2) 。

これらの薬剤は感染症を悪化させるリスクがあります。免疫機能への影響が大きい薬剤を用いる際には、B型肝炎ウイルスや結核に感染していないかをチェックします。

また、関節症状の治療だけではなく消化管症状や、そのほかの症状に対しての治療も行うため、様々な診療科が連携して治療にあたります。

炎症性腸疾患関連関節炎になりやすい人・予防の方法

炎症性腸疾患のリスクや予防の方法という観点から説明します。炎症性腸疾患の発症にはいくつかの遺伝子の関与が知られているほか、砂糖菓子をたくさん食べること、クローン病では喫煙が発症リスクを高めるとされています (参考文献 3) 。また、炎症性腸疾患の発症は10歳代後半から30歳代前半に多いことが知られています (参考文献 3) 。
食生活の見直しや禁煙は炎症性腸疾患や、関連する関節症状の予防になるといえるでしょう。
また、炎症性腸疾患は精神的なストレスでも悪化することがあるため、生活のなかの過剰なストレスを避けることが疾患のコントロールに寄与するかもしれません。

参考文献

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