

監修医師:
林 良典(医師)
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目次 -INDEX-
橈骨遠位部骨折の概要
前腕の親指側にある骨である橈骨の末端部分(手首に近い部分)に発生する骨折を橈骨遠位部骨折といいます。また別名で、コレス骨折やスミス骨折とも呼ばれています。
16歳以上における年間の発生率は、人口1万人あたり14.5〜28人程度で、女性の方が多く発症している傾向にあります。発生率は、加齢とともに増加し、70歳以上では若年層に比べて男性で2倍、女性で17.7倍程度ともいわれています。
また、発生する頻度も高く、65歳以上の高齢者では、全骨折の約20%が橈骨遠位部骨折を占めるという報告もあります。
この骨折は、日常生活で頻繁に起こりやすく、転倒時に手をついた際や、外的な衝撃によって発症します。特に閉経後の女性や、骨粗鬆症など、骨が弱い状態では骨折の可能性が高くなるので注意が必要です。
骨折の種類や重症度によって、保存療法、手術療法のどちらかが適用されます。適切な治療とリハビリテーションを行うことで、骨折後6ヶ月以内に多くの場合、元の機能に回復しますが、一部の場合では長期的な痛みや機能障害が残ることもあります。
合併症としては、骨折の炎症や腫れが原因で、手首の神経である正中神経が圧迫され、親指から薬指まで痛みやしびれを引き起こす手根管症候群などを発症する場合もあるため、早期の診断と治療が重要です。
橈骨遠位部骨折の原因
主に以下のような原因で発症しやすいといわれています。
転倒
転倒した際に手をつき、手首に強い力が加わった結果骨折を発症します。この原因で発症することが多く、49〜77%占めるともいわれています。
男女比を比べると女性の方が多いようです。
強い外力による外傷
交通事故やスポーツによる衝撃など、強い外力が加わることも原因の1つです。例えば、サッカーやバスケットボールなどの接触スポーツや、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツなどは、発症しやすい傾向です。
なお、この原因による男女比は、男性の方が多いとされています。
骨粗しょう症などの骨密度低下
骨粗しょう症などで骨密度が低下していると、軽微な外力でも骨折しやすくなります。特に高齢者や閉経後の女性は、骨密度の低下が進行しやすいため、注意が必要です。
環境要因
冬季の悪天候や不安定な地面など、滑りやすい環境下は、骨折の発症が高くなる原因の1つです。
橈骨遠位部骨折の前兆や初期症状について
前兆や初期症状として、以下のようなものがみられます。
痛み
骨折が発生すると、手首や前腕に強い痛みが生じます。この痛みは特に手を動かすときに強く感じられ、動かすことが難しくなる場合もあります。
腫れと内出血
痛みとともに、手首周辺が腫れて、皮下出血によって青紫色のアザができることもあります。
可動域の制限
骨折後に、手首の動きが制限される場合があります。患者さんは思っているように手首を曲げたり伸ばしたりが難しくなるため、日常生活に影響が生じてしまいます。
変形
骨折の重症度が高い場合は、手首の形が変わることがあります。特に、骨がずれていると、目に見えるくらいの変形が生じます。
神経症状
骨折に伴って神経が圧迫された結果、手や指にしびれや感覚の異常が現れることがあります。特に、橈骨の手のひら側を走っている正中神経が圧迫されると、親指から薬指にかけての感覚低下やしびれ、親指の運動障害が生じる手根管症候群を発症する場合があります。
これらの症状を感じた場合は、すぐに整形外科を受診しましょう。整形外科を受診し、画像診断などを実施すれば、詳細な評価が可能です。また、評価だけでなく、治療計画を併せて行うことができます。
橈骨遠位部骨折は、早期の診断と治療が、回復を早めるために重要です。手首に少し痛みがあるなど、症状が軽い場合でも、医療機関を受診して診断してもらいましょう。
橈骨遠位部骨折の検査・診断
橈骨遠位部骨折の検査・診断は、主に以下の内容が行われます。
身体診察
医師は初期評価として、以下の内容を診察します。
- 受傷した状況
- 痛みやしびれの強さ
- 変形の有無
- 内出血の有無
- 可動域の確認
画像診断
骨折の評価を詳細に行うために、以下のような画像診断を行います。
X線検査
短時間で骨折の有無や、骨のズレなどを確認できるため、最初の診断時によく使用します。橈骨遠位部骨折の場合は、正面および側面の2方向からX線の撮影を行い評価します。
CT検査
X線では骨折の有無が確認できない場合や、複雑な骨折の場合など、より詳細な骨の状況を評価したい場合にCT検査が行われることがあります。CT検査を行うことで、手術の必要性や具体的な治療方法を提示するのに役立ちます。
MRI検査
骨折に伴う靭帯や腱の軟部組織の損傷や、神経や血管に骨折部位が近い場合など、より詳細に状態を評価したい場合はMRI検査を行います。
橈骨遠位部骨折の治療
橈骨遠位部骨折の治療は、骨折の種類や程度、患者さんの状態に応じて保存療法、手術療法に分かれます。
保存療法
骨折のずれが少なかったり、安定した骨折だったりする場合は、基本的に手術は行いません。その場合は、麻酔下で医師が手で骨を元の位置に戻す徒手的整復を実施した後に、ギプスやスプリントで手首を固定して、骨が正しい位置でくっついているか観察します。
なお、固定期間は、患者さんの年齢や骨折の状態によって異なりますが、通常4〜6週間程度となっています。
また、固定期間は、骨に何か問題が生じていないかを確認するために、定期的にX線検査を行います。
手術療法
骨折のズレが大きい場合や、保存療法では十分な効果が得られない場合は、以下のような手術が検討されます。
内固定術
骨折が複雑な場合や、複数の骨が折れている場合など整復が難しい場合に行う手術です。この手術は、実際の骨折部位に金属プレートやネジを取り付けて骨を固定します。
手術後は、患部を安静に保ったまま、ギプスなどで固定します。
外固定術
一部の場合では、皮膚を切開せずに骨折部を固定する外固定術を行う場合もあります。この方法は、特に重度の骨折や皮膚の損傷がある場合などに適用されます。
リハビリテーション
骨折が安定した後は、手首の機能回復を中心にリハビリテーションを実施します。具体的な内容は、手首の可動域や筋力を回復させるための運動を行いますが、患者さんの回復状況によって運動量などは調整されます。
橈骨遠位部骨折になりやすい人・予防の方法
以下の要因に該当する場合は、橈骨遠位部骨折を発症する危険性が高くなります。以下に、骨折しやすい方の特徴と予防方法をまとめます。
橈骨遠位部骨折になりやすい方の特徴
以下の要因に該当する場合は、橈骨遠位部骨折になりやすいので注意しましょう。
高齢者
加齢に伴って、筋力やバランス能力が低下し、転倒しやすくなります。特に骨粗しょう症の場合は、骨がもろくなっているため、弱い外力でも骨折する可能性があります。
女性
閉経後の女性は、ホルモンの変化により骨密度が急激に低下し、骨折の危険性が高くなります。
予防の方法
以下の方法を実践することで、橈骨遠位部骨折の発生を予防できる可能性があります。
運動
普段から足を中心に、筋力トレーニングやバランス訓練を行うことで、転倒する危険性を減らすことができます。
骨密度の管理
カルシウム、ビタミンD、タンパク質などを適切に摂取し、骨の状態を管理しましょう。また、定期的に骨密度検査を受けて、骨粗しょう症の場合は治療を受けることも重要です。
環境の安全性向上
夜間時の適切な照明の使用や、滑りやすい場所の改善、手すりの設置など、転倒の危険性を下げるために、住環境の整備を行いましょう。
関連する病気
- 橈骨頭骨折
- 手根管症候群
- リストバンド変形
参考文献
- 公益社団法人 日本整形外科学会「橈骨遠位端骨折(コレス骨折・スミス骨折)」
- 一般社団法人 日本整形外傷学会「橈骨(とうこつ)遠位端骨折」
- 橈骨遠位端骨折 診療ガイドライン 2017
- Distal Radius Fracture Outcomes and Rehabilitation
- Pain and disability reported in the year following a distal radius fracture: A cohort study
- Variation in the Incidence of Distal Radius Fractures in the U.S. Elderly as Related to Slippery Weather Conditions




