

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
先天性筋性斜頚の概要
先天性筋性斜頚は、生まれつき乳児の首が傾いてしまう病気です。
斜頚とは、首が傾いている状態を意味します。この病気は、耳の下から鎖骨にかけての筋肉である胸鎖乳突筋が何らかの理由で硬くなり、首の動きが制限されることで起こるのが特徴です。
生まれてすぐに首の傾きに気付く場合もありますが、成長とともに傾きが目立ってくることもあります。具体的には、顔がいつも同じ方向を向いていたり、授乳の際に一方向だけ向きにくそうにしたりするなどの場面で発見されることがあります。
先天性筋性斜頚の発生頻度は0.5〜2%であり、出生1000人に対し5〜20人程度の割合でみられます。女児にやや多く、難産児に多いのが特徴です。
発見後、早期に対応すれば改善が期待できるでしょう。多くの場合、1歳頃までに自然治癒が期待できます。一方で長期間にわたり放置すると、顔や頭の形が左右で違う顔面非対称を引き起こしたり、強い肩こりの原因となったりする恐れがあります。そのため、症状を疑う所見があれば、速やかに医療機関を受診することが重要です。
先天性筋性斜頚の原因
先天性筋性斜頚の原因はさまざまな報告がありますが、はっきりした原因はまだ明らかになっていません。ただ、以下の要因が関係していると考えられています。
- 胎内での圧迫
- 分娩時の損傷
- 筋肉の発育異常
胎内での圧迫
胎児は胎内でさまざまな姿勢を取りますが、狭い子宮の中で首が強く圧迫され続けることがあります。特に骨盤位(逆子)で産まれた乳児では、首に負担がかかりやすくなります。
分娩時の損傷
出産時、産道を通る際に首の筋肉に強い力が加わることがあります。特に吸引分娩や鉗子分娩のように機械の力を使う分娩では、筋肉への損傷が大きくなりやすく、筋性斜頸の発生リスクがあります。
筋肉の発育異常
発育過程で胸鎖乳突筋にうまく血液が届かず、筋肉が硬くなることがあります。これを繊維化と呼びます。
先天性筋性斜頚の前兆や初期症状について
先天性疾患のため、先天性筋性斜頚の前兆はありません。初期症状は以下のとおりです。
- 首がいつも同じ方向に傾く
- 首の筋肉にしこりがある
- うつ伏せにしても首がうまく持ち上がらない
これらの症状を認め、発見されることが多いのは生後1ヶ月頃です。一方で、徐々に症状が目立ってくることもあります。乳児期を過ぎてから発見される場合、側湾症として指摘されることもあります。
首がいつも同じ方向に傾く
片側の首の筋肉が縮んで固くなるので、左右どちらかに首が傾くのが特徴です。例えば、抱っこしても寝かせても、いつも右に傾いているなどの様子が見られます。
また身体をまっすぐにしても、顔が片側を向いたままになることがあります。無理に正面を向かせようとしても、乳児が嫌がったり、すぐもとに戻ってしまったりするのが特徴です。
首の筋肉にしこりがある
傾いている側の胸鎖乳突筋を触ると、筋肉が硬くなり、しこりになっていることがあります。小さなしこりや筋肉のハリは、生後2〜3週間くらいで気付かれることもあります。
うつ伏せにしても首がうまく持ち上がらない
乳児の首すわりにも影響が出ることがあります。うつ伏せで首を上げる練習をしても、片側だけ動きが悪く持ち上がらないことや、頭が傾いたままになることがあります。
後頭部が片側だけ平らになる
乳児が片側ばかりを向いていることから、後頭部が片方だけ平らになる場合があります。これを斜頭と呼び、先天性筋性斜頚の初期にみられるサインの一つです。頭の形が左右非対称であることに保護者が気付き、受診につながるケースがあります。
これらの症状がみられたら小児科、整形外科を受診しましょう。
先天性筋性斜頚の検査・診断
先天性筋性斜頚の検査・診断は、主に以下の内容が行われます。
- 視診・触診
- 超音波検査
- X線検査
視診・触診
乳児の首の傾きや、胸鎖乳突筋の硬さ・太さを見たり触れたりして、左右差の有無があるか確認します。
超音波検査
首の筋肉を詳しく見るために、超音波(エコー)検査を使います。筋肉の厚みに左右差がないかをチェックします。
X線検査
首の骨である頚椎の異常がないかを確認するため、X線検査(レントゲン)を撮ることがあります。斜頸の原因として、骨の奇形によって起こる先天性骨性斜頚という疾患の可能性もあります。またしこりがある場合、筋性斜頸ではなく腫瘍の可能性も拭えません。適切な治療につなげるため、X線検査にてこれらの疾患を区別する必要があります。
先天性筋性斜頚の治療
先天性筋性斜頚の8〜9割は、1歳6ヶ月までに自然治癒するといわれています。ほとんどの場合、適切なストレッチや抱き方・寝かせ方の工夫など内科的な治療にて改善します。外科的な治療が必要になることはまれです。
内科的治療
内科的治療として行われるのは以下の治療法です。
- ストレッチ
- 日常の姿勢指導
- 頭の形のケア
続いて、それぞれを詳しく解説します。
ストレッチ
先天性筋性斜頚の治療の基本はストレッチです。理学療法士や医師から適切なストレッチ指導を受け、家庭でも継続して行いましょう。
先天性筋性斜頚に対して行う、具体的なストレッチを2つ紹介します。
一つ目は、短縮している側の筋肉を緩めるストレッチです。例えば、右側の胸鎖乳突筋が短縮している場合は、赤ちゃんの頭をゆっくり左側へ倒し、右側へ向かせるように誘導します。
二つ目は、頭を回すストレッチ です。片方の手を首の筋肉が硬いほうの肩に置き、もう一方の手を赤ちゃんの頭におきます。そして、ゆっくりと首を動かし赤ちゃんの顔をまっすぐ向かせます。その後、首をゆっくりと頭を曲げにくい方に回転させましょう。
ストレッチは乳児の機嫌がよいときに、10回を1セットとし1日3回程度行うのが理想です。
日常の姿勢指導
続いて、日常の姿勢指導をします。斜頸を直すためには、寝るときに傾きが強い側を下にする、抱っこの向きを変えるなどの工夫が必要です。また、遊ぶときに反対側から声をかけるのもよいでしょう。
頭の形のケア
筋性斜頚が続くと、頭が片側だけ平らになる斜頭症になることがあります。頭の形が気になる場合には、ヘルメット治療(頭の形を整えるためのヘルメットをかぶる治療法)を検討することもあります。
外科的治療
ストレッチや生活指導だけでは改善が難しい場合は、全身麻酔下で胸鎖乳突筋を切り離す手術をすることがあります。3歳を過ぎても斜頸が見られる場合には手術を検討することがありますが、ほとんどのケースにおいて手術が必要になることはありません。
術後は再発予防のため、装具を2ヶ月ほど装着し、ストレッチを1年ほど継続する必要があります。
先天性筋性斜頚になりやすい人・予防の方法
ここでは、先天性筋性斜頚になりやすい乳児の特徴と予防方法を解説します。先天性筋性斜頚になりやすい乳児の特徴として、以下が挙げられます。
- 骨盤位の乳児
- 多胎児
- 吸引分娩・鉗子分娩で産まれた乳児
- いつも同じ向きに寝ている乳児
それぞれの特徴と予防方法を詳しく解説します。
骨盤位の乳児
骨盤位とは逆子のことです。逆子で産まれた乳児は先天性筋性斜頚になりやすいといわれています。対策として、妊娠中に妊婦体操や逆子体操などの逆子対策をすることが挙げられます。
多胎児
双子や三つ子などの多胎児の場合も、先天性筋性斜頚になりやすいといわれています。多胎児の妊娠を予防する方法はありません。
吸引分娩・鉗子分娩で産まれた乳児
吸引分娩や鉗子分娩などの難産で産まれた乳児も、先天性筋性斜頚になりやすいといわれています。これらも予防する確かな方法はありませんが、難産であった場合、早期に助産師や医師によるチェックを受けることが望ましいでしょう。
いつも同じ向きに寝ている乳児
いつも同じ向きに寝ている場合も、先天性筋性斜頚の要因となる可能性があります。抱っこの向き、寝る向きをこまめに変え、いつも同じ方向に顔を向けないように気を付けましょう。左右交互に授乳することで、自然に首を動かす機会を増やすことも効果的です。
また、首の傾きが気になったらすぐに医療機関を受診し、早期に治療を開始しましょう。
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- 頭蓋変形
- 発達遅延
- 側彎症




