側頭骨骨折
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

側頭骨骨折の概要

側頭骨骨折は頭部の側面にある側頭骨の骨折です。骨折の原因としては、飲酒後の転倒や高所からの転落、交通事故などの衝撃など、さまざまなケースがあります。
痛みや腫れといった症状のほか、めまいや吐き気・嘔吐・難聴・顔面神経麻痺などの症状が特徴です。

側頭骨骨折は、クモ膜下出血や脳挫傷など命に関わる合併症を伴いやすいといわれています。そのため、全身状態の確認と速やかな処置が必要です。

側頭骨骨折は骨折の線が垂直方向に入っている縦骨折か、水平方向に入っている横骨折かで症状が異なります。縦骨折では難聴と遅発性顔面神経麻痺、横骨折ではめまいや急性の顔面神経麻痺が特徴です。

治療では骨折に対して固定・安静をおこないます。骨折の治療と並行して必要に応じて合併症に対する治療もおこないます。耳小骨損傷や急性の顔面神経麻痺などがみられる場合には、手術も検討します。

側頭骨骨折を予防するためには、頭部への衝撃を避けることが大切です。飲酒後の転倒や交通事故を避け、生活習慣を整えて強い骨を作ることを心がけましょう。

側頭骨骨折の原因

側頭骨骨折は、転倒や高所からの転落、交通事故などが原因で、頭部に大きな衝撃が加わることで発症します。頭部への衝撃で生じる頭蓋骨骨折(ずがいこつこっせつ)のうち、約20%が側頭骨骨折といわれています。

骨折の仕方によって縦骨折・横骨折・混合型に分類されます。
縦骨折とは上から下の垂直方向に骨折の線が生じる側頭骨骨折で、横からの衝撃で生じやすい骨折です。
一方、横骨折は後部からの衝撃によって生じ、縦骨折に対して垂直方向に骨折線が生じます。

側頭骨骨折の前兆や初期症状について

側頭骨骨折は転倒などによる頭部への衝撃で生じる骨折のため、前兆はありません。初期症状ではほかの骨折と同様に、激しい痛みや腫れ、内出血が生じます。

側頭骨は骨折では、クモ膜下出血や脳挫傷などの合併症に注意が必要です。これらの合併症では、吐き気や嘔吐(おうと)、めまいなどの重篤な症状がみられます。

そのほかの症状として難聴、顔面神経麻痺などが現れることもあります。
また、鼓室(鼓膜の裏にある小さな空洞)からの出血や、耳の後側を通っている後耳介動脈の損傷による内出血(Battle sign)も多くのケースでみられます。

側頭骨骨折では、縦骨折と横骨折で異なる症状がみられます。
縦骨折では側頭骨骨折により中耳や外耳(耳の構造のうち、外側の部分)の機能が低下し、伝音性難聴(音が伝わらないことで聞こえない難聴)が生じます。また、縦骨折の25%で遅発性の顔面神経麻痺が生じるとされています。
ただし、縦骨折の顔面神経麻痺は神経浮腫(骨折によって生じるむくみ)が原因で起こるものであり、一過性であることが多いです。

対して横骨折は内耳に影響する骨折で、めまいの原因となる可能性があります。また、顔面神経切断による永続的かつ即効性の顔面神経麻痺が横骨折に生じやすいため、適切な治療が必要です。

側頭骨骨折の検査・診断

側頭骨骨折の検査はCT検査が有効です。CT検査は側頭骨骨折のほか、脳出血などの診断にも役立ちます。

CT検査のほか、聴力検査も有効です。とくにCT検査で鼓室内出血や耳小骨(じしょうこつ:音を判別するための骨)に損傷が見られた場合、どの程度聴力が低下しているかを確認するために実施されます。
鼓室内出血は通常自然に軽快していくため、鼓室内出血由来の難聴は改善の可能性がありますが、耳小骨損傷に伴う難聴の多くは自然軽快しません。
そのため、耳小骨損傷と難聴を認める場合には手術が必要になることが多いです。

また、側頭骨骨折に伴う顔面神経麻痺がみられる場合には、電気生理学的検査が有効です。電気生理学的検査とは顔面神経の電気信号を測定する検査で、顔面神経が機能しているかを調べます。

側頭骨骨折の治療

側頭骨骨折の治療では、まず骨がずれないように骨折部を固定し、安静にして骨がくっつくように促します。

また、側頭骨骨折に伴う合併症の治療が重要です。とくに衝撃によるクモ膜下出血や脳挫傷は命に関わるため、出血を取り除くための開頭手術をおこないます。

側頭骨骨折後の難聴では、耳小骨の損傷があるかどうかが重要です。CTによって耳小骨の損傷がない場合には、鼓室内出血などが原因となる一過性の難聴であるため、経過観察となることが一般的です。
耳小骨の損傷を伴う難聴は自然治癒が難しいため、耳小骨を修復する手術を検討します。

側頭骨骨折後の顔面神経麻痺に対しては、縦骨折による遅発性顔面神経麻痺に対して投薬による保存療法が適応です。投薬治療と並行して顔面の筋肉を使うリハビリテーションをおこなえば、後遺症が残りにくいと考えられています。

横骨折による急性の顔面神経麻痺に対しては、手術適応となります。手術は顔面神経が切断している場合には顔面神経の再建術が、骨折で骨の破片が顔面神経を圧迫している場合には骨の破片を取り除く除圧術が検討されます。

側頭骨骨折になりやすい人・予防の方法

側頭骨骨折は飲酒関連事故や交通事故、転倒や転落、スポーツ中の事故による発症が多い骨折です。そのため、飲酒をする人や車によく乗る人、転倒しやすい人、高所作業が多い人、激しい接触が多いスポーツをする人が発症しやすいといえるでしょう。
また、骨粗鬆症など骨が脆い人は小さな衝撃でも骨折しやすいため注意してください。

予防するためには、頭部への衝撃を避けることが重要です。飲酒はほどほどにして酔いすぎないようにする、安全運転を心がける、転倒しないように杖を使う、高所作業時には命綱を必ずつけるなどの対策を徹底しましょう。

また、骨粗鬆症の治療も大切です。骨粗鬆症に対する薬やビタミンDの摂取、適度な運動を心がけ、骨を強くすれば側頭骨骨折予防につながります。


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