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頭蓋骨陥没骨折
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

頭蓋骨陥没骨折の概要

頭蓋骨陥没骨折(ずがいこつかんぼつこっせつ)とは、頭蓋骨の一部が強い外力を受けて内側に陥没(へこむ)する骨折です。特に、事故や転倒、スポーツによる外傷が原因となることが多いです。
通常の骨折とは異なり、陥没した骨が脳に圧力をかけるため、脳損傷を伴うことが多く、重篤な後遺症を引き起こす可能性があります。頭部外傷の中でも特に注意が必要な外傷であり、即座に医療機関での診断と治療が求められます。

頭蓋骨の構成

頭蓋骨は、脳を保護するための頑丈な骨で構成されています。主に以下の5つの骨から成り立っています。

  • 前頭骨(ぜんとうこつ):額の部分
  • 頭頂骨(とうちょうこつ):頭の上部
  • 側頭骨(そくとうこつ):側頭部(耳の周り)
  • 後頭骨(こうとうこつ):後頭部
  • 蝶形骨(ちょうけいこつ):頭蓋骨の中央部

頭蓋骨には、脳を保護する以外にも、血管や神経が通るための重要な役割があります。そのため、陥没骨折によって骨片が脳や血管を圧迫すると、脳出血や脳挫傷を引き起こす可能性があり、生命に関わる事態に発展することもあります。

骨折の種類

頭蓋骨陥没骨折の種類には、次のようなものがあります。

  • 単純骨折:骨が折れただけで、特に脳に対する影響が少ないものを指します
  • 複雑骨折:骨が粉砕される、または脳が傷ついて出血するものを指します。この場合、脳神経外科医の介入が必要です

頭蓋骨陥没骨折の原因

頭蓋骨陥没骨折は、外的な衝撃によって起こります。そのため、主な原因には、以下のようなものがあげられます。

  • 交通事故(バイクや自動車事故、歩行中の事故)
  • 高所からの転落(建設現場、階段からの落下など)
  • 暴力や殴打(鈍器による攻撃、強い打撲)
  • スポーツ外傷(ラグビー、サッカー、ボクシングなど接触スポーツ)
  • 落下物との接触
  • 転倒事故(高齢者の転倒など)

これらの衝撃は、頭蓋骨の強度を超える力が働くと、骨に亀裂が入ったり、凹むことになります。特に、高い位置からの落下や重い物体が落ちてくる場合は、強い力が直接脳に伝わる可能性があるため注意が必要です。特に、鋭利なものや小さい面積で強い力を受けると、局所的に頭蓋骨が陥没しやすくなります。

頭蓋骨陥没骨折の前兆や初期症状について

頭蓋骨陥没骨折の初期症状には、以下のようなものがあります。

意識障害

頭蓋内圧の上昇や脳の損傷により、意識をつかさどる脳幹や大脳皮質の機能が低下するため、意識がぼんやりしたり、意識を失うことがあります

頭痛

頭蓋骨の変形や脳浮腫により、骨の変形や脳圧の上昇が起こり、硬膜や血管が刺激され痛みが生じます。

吐き気や嘔吐

脳圧の変化に伴い、嘔吐中枢が刺激・圧迫を受けることで、吐き気や嘔吐が引き起こされることがあります。

出血

血管が破れることで外部に出血するほか、脳内に血腫が形成される場合があります。

神経症状

脳の運動を司る部分や言語を司る部分が損傷されると、片麻痺(片側の手足が動かない)や言語障害(言葉が話しにくい、支離滅裂な発言など)が発生します。

瞳孔の変化

頭蓋内圧が急激に上昇すると動眼神経が圧迫され、片側の瞳孔が異常に拡張することがあります。

これらの症状は、脳が外傷を受けたことによって引き起こされます。特に、頭痛や吐き気は脳内の圧力が上がることにより発生します。意識障害は、脳がダメージを受けた結果として現れる症状であり、特に重要です。

頭蓋骨陥没骨折を疑う状況の場合は救急外来を受診する必要があります。脳神経内科や脳神経外科のある病院が望ましいです。日中の時間帯であれば直接脳神経外科を受診するとよいです。

頭蓋骨陥没骨折の検査・診断

頭蓋骨陥没骨折の診断には、以下の検査が必要です。

身体診察
医師が頭部の外傷の状態を確認し、骨の陥没や傷の有無を診察します。
レントゲン検査
骨折の有無を確認する基本的な手段として使用されますが、レントゲンのみでは詳細を評価しきれない場合が多いです。
CT検査
陥没の範囲や、脳出血の有無を正確に把握するために実施します。X線よりも詳細な画像を得ることができ、骨折の程度や周囲の損傷を評価できます。
MRI検査(磁気共鳴画像
神経や脳の損傷が疑われる場合に実施します。血管や軟部組織の異常を詳しく調べることが可能です。

頭蓋骨陥没骨折の治療

治療方法は、骨折の重症度や脳への影響によって異なります。

保存的治療(手術なし)

骨の変形が軽度で、脳への圧迫や神経症状がない場合には、定期的なCT検査等で骨癒合の様子や頭蓋内の状態をチェックしながら経過観察を行います。症状がなければ自然治癒を待つことも可能です。

外科的治療

手術が必要となる場合は以下のようなケースです。

  • 陥没骨折によって生じた骨の欠片が脳を圧迫している場合
  • 頭蓋内に出血がある場合
  • 感染のリスクがある開放骨折


手術では、陥没した骨を元の位置に戻す手術(整復術)や、壊れた骨を取り除いて人工骨で修復することがあります。

整復術
陥没した骨を慎重に持ち上げ、脳組織への圧迫を解除する。小さな陥没で脳への影響がない場合は、骨片を元の位置に戻して固定することで修復します。
頭蓋形成術
大きな骨欠損や、感染リスクが高い場合に、人工骨(チタンプレートや高分子材料)を用いて補強し、頭蓋骨の形状を回復させます。
開頭血腫除去術
脳内出血がある場合に、頭蓋骨の一部を除去して血腫を取り除き、脳への圧迫を軽減することがあります。

これらの手術は、患者さんの状態に応じて緊急性が判断され、適切な術式が選択されます。

頭蓋骨陥没骨折の治療後は、特に脳の回復状態を観察するために、定期的なフォローアップが重要です。脳に圧力がかかりすぎているなどの問題が発生する可能性があるため、医師の指示に従って経過を見ていくことがすすめられます。
また、頭蓋骨陥没骨折が発生した場合、年齢、骨の健康状態、外的要因によって脳に与える影響が異なるため、これらの要因を考慮して治療を進める必要があります。特に高齢者の場合、骨がもろくなっているため、回復には時間がかかることがあります。

頭蓋骨陥没骨折になりやすい人・予防の方法

頭蓋骨陥没骨折になりやすい人

高齢者
加齢や運動不足による筋力低下から転倒しやすく、なりやすいと言えます。
小児
頭部が大きく、注意力が散漫なため、転倒時に頭を打ちやすいと言われています。
スポーツ
ラグビーやサッカー、格闘技など接触が多いスポーツで起こることがあります。
工事現場や高所作業者
高所からの落下や落下物にぶつかって受傷する場合があります。

頭蓋骨陥没骨折の予防法

ヘルメットの着用

ヘルメットを着用することで、事故(工事現場や、バイク、自転車、スポーツの接触)による頭部への衝撃を軽減することが可能です。

転倒予防

高齢者は、家の中の段差を減らす、滑りにくい靴をはく、手すり滑り止めのマットを活用するなど、転倒を予防することが頭蓋骨陥没骨折の予防に繋がります。

車のシートベルト・エアバッグの活用

交通事故時の頭部外傷を減らすために有効です。

スポーツ時の安全対策

ヘッドギアなどの頭部を守る防具を使用することや、正しい身体の動き方を学び体力・筋力をつけることでけがを予防することができます。

これらの予防法が効果的な理由は、物理的な保護や環境の整備、体力の向上によって外的な力から身体を守ることが可能になるためです。

予防策としては、子どもや高齢者だけでなく、すべての方に安全教育の重要性も意識しておくとよいでしょう。運動やスポーツを行う際には、ルールを守るなど安全な環境を作り、適切な道具を使用することでリスクを減らすことができます。

頭蓋骨陥没骨折は、頭部への強い衝撃によって発生する重篤な外傷です。症状が強い場合や脳への影響が疑われる場合には、速やかな医療機関の受診が必要です。
予防策として、ヘルメットの着用や転倒防止策を徹底し、日常生活の中でリスクを減らすことが重要です。

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