

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
福山型先天性筋ジストロフィーの概要
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は、遺伝性の筋疾患である先天性筋ジストロフィーの一種であり、筋力の低下と脳の発達異常を特徴とする疾患です。
筋肉や脳の発達に重要な役割を果たす遺伝子が変異し、筋細胞の機能低下、筋肉の破壊、知的障害を引き起こします。
世界的にはまれな病気とされていますが、日本では他国と比べて患者数が多いことが知られています。
現在のところ、福山型先天性筋ジストロフィーを根本的に治す治療法は存在しません。
しかし、リハビリテーションによる運動機能の維持や、人工呼吸器を用いた呼吸管理、栄養管理によって症状の進行を遅らせることが可能です。

福山型先天性筋ジストロフィーの原因
福山型先天性筋ジストロフィーの主な原因は、「フクチン遺伝子(FKTN)」の変異です。
フクチン遺伝子は、筋肉や脳の正常な発達に重要な役割を担っており、筋肉細胞の膜の構造を安定させる働きを持っています。
しかし、フクチン遺伝子に変異があると、筋細胞が壊れやすくなり、筋肉の機能が低下します。
脳の発達にも影響を与え、「滑脳症(かつのうしょう)」と呼ばれる脳の表面が滑らかになる異常が見られます。
筋力の低下だけでなく、知的発達の遅れやてんかんを併発する原因の一つです。
フクチン遺伝子の変異は、日本人に特有のものであり、両親から変異した遺伝子を受け継いだ場合に発症します。
福山型先天性筋ジストロフィーの前兆や初期症状について
福山型先天性筋ジストロフィーの症状は、生まれた直後から現れることがほとんどです。
筋肉が通常よりも柔らかく、抱き上げたときに体がぐったりとしているように感じられます。
筋力が弱いため、首がすわる時期や寝返りやお座りができるようになる時期が遅れ、立ち上がることや歩行に至ることは難しい場合が多いです。
また、福山型先天性筋ジストロフィーの患者では、関節の動きが制限される「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」が早期から現れることが多く、手足の動かせる範囲が狭くなります。
関節拘縮のため、腕や足の曲げ伸ばしがスムーズにできず、成長とともに関節のこわばりが目立つようになることもあります。
さらに、筋肉だけでなく脳の発達にも影響を及ぼすため、知的発達の遅れが見られます。
言葉の習得が遅れ、話し始めるまでに時間がかかる傾向です。
脳の形成に異常があるため、てんかんが合併しやすく、症状が進行するにつれて発作の頻度が増えることもあります。
福山型先天性筋ジストロフィーの検査・診断
福山型先天性筋ジストロフィーの診断は、まず赤ちゃんの成長や筋肉の発達を観察することから始まります。
生後すぐに筋力が弱く、首がすわるのが遅かったり、寝返りやお座りが難しかったりする場合、詳しい検査が必要になります。
血液検査
福山型先天性筋ジストロフィーの診断には、まずは血液検査により「クレアチンキナーゼ(CK)」という酵素の値を測定することが重要です。
CK値が通常よりも高い場合、筋肉の損傷が進んでいることを示しており、福山型先天性筋ジストロフィーの可能性が疑われます。
遺伝子検査
遺伝子検査によってフクチン遺伝子の変異が確認された場合、福山型先天性筋ジストロフィーと診断されます。
遺伝子検査は、生まれたばかりの赤ちゃんでも実施できるため、早期診断につながります。
画像診断
福山型先天性筋ジストロフィーの患者には脳の形成異常が見られることが特徴です。
MRI検査によって、脳の表面が通常よりも滑らかになっているかどうかを確認します。
福山型先天性筋ジストロフィーの治療
福山型先天性筋ジストロフィーの患者では、筋力が低下しやすいため、関節拘縮や呼吸機能の低下、嚥下機能の低下による栄養不足が日常生活で問題となります。
症状に合わせた適切な治療を行うことで、日常生活での身体機能を維持することが可能です。
リハビリテーション
福山型先天性筋ジストロフィーにおけるリハビリテーションは、関節の拘縮を防ぎ、筋肉の柔軟性を維持するのが目的です。
ストレッチや関節可動域練習を行い、動作の維持をサポートします。
また、進行する筋力低下に対応するため、必要に応じて装具の使用や座位・立位保持の支援が行われます。
呼吸機能の低下を防ぐための呼吸リハビリも重要です。
呼吸機能のサポート
筋肉の低下が呼吸機能にも影響を及ぼすため、進行して自力での呼吸が難しくなった場合、呼吸管理が重要です。
睡眠時の無呼吸を防ぐために、マスク型の人工呼吸器である非侵襲的人工呼吸器(NPPV)を用いる場合があります。
さらに症状が進行した場合には、気管切開を行い、人工呼吸器を使用して呼吸のサポートを行うことがあります。
栄養管理のサポート
筋力の低下が進行すると、食事を飲み込む機能(嚥下機能)が弱くなります。
十分な栄養を摂取することが難しい場合、経管栄養や胃ろうを検討することがあります。
てんかん発作の管理
てんかん発作が頻繁に起こる場合、抗てんかん薬を使用することで発作の頻度を減らし、生活の安定を図ります。
福山型先天性筋ジストロフィーになりやすい人・予防の方法
福山型先天性筋ジストロフィーは、遺伝子の変異によって発症する病気であり、発症を完全に防ぐ方法は確立されていません。
日本人の約100人に1人が、フクチン遺伝子の変異を持っているとされており、両親がともに変異を持っているが発症しない人(保因者)である場合、子どもが福山型先天性筋ジストロフィーを発症する確率は4人に1人です。
家族内に福山型先天性筋ジストロフィーの患者がいる場合や、結婚や妊娠を考える際には、遺伝子検査を受けることで、リスクを把握できます。
遺伝子検査の結果をもとに、遺伝カウンセリングやリスクに関する詳細な説明を受けると、家族計画を考える際の重要な指針となります。
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参考文献




