上腕二頭筋腱断裂

監修医師：
林 良典（医師）

上腕二頭筋腱断裂の概要

上腕二頭筋腱断裂とは、肩から肘にかけて走る上腕二頭筋の腱が部分的または完全に切れてしまう状態のことを指します。この腱は腕を曲げる動作や手首を回す動作において重要な役割を担っており、損傷すると日常生活に大きな影響を及ぼします。

この疾患は主に中高年の方、スポーツ選手、重量物を扱う職業の方に多く見られます。特に40歳を過ぎると腱の弾力性が低下し、小さな負荷でも断裂が起こりやすくなる傾向があります。また、腱への繰り返しの負担が蓄積することで、小さな損傷が徐々に進行し、ある日突然完全に切れてしまうこともあります。

上腕二頭筋腱が断裂すると、腕の筋力が低下し、重い物を持ち上げることや腕を回転させる動作が困難になります。特に、断裂が起こると、力こぶの形が変化し、筋肉が肘側に偏ることが特徴的です。痛みを伴う場合もありますが、部分断裂の場合は痛みが軽く、気付かないうちに症状が進行することも少なくありません。

この疾患を放置すると、腕の筋力が低下し、日常生活に支障をきたす可能性があります。しかし、早期に適切な診断と治療を受けることで、回復が期待できます。症状が軽い場合には保存療法が選択されることもありますが、完全断裂の場合には手術が必要になることが一般的です。

ここでは、上腕二頭筋腱断裂について詳しく説明していきます。

上腕二頭筋腱断裂の原因

上腕二頭筋腱断裂の主な原因は、腱への過剰な負担や加齢による変性です。腱は通常、強靭な組織ですが、長年の使用や負荷の蓄積によって徐々に劣化し、弱くなっていきます。以下のような要因が関係しています。

加齢による変性

加齢とともに腱の弾力性が低下し、微細な損傷が蓄積していきます。腱がもろくなることで、ちょっとした動作でも断裂しやすくなります。

過度な負荷

スポーツや重量物を持ち上げる作業などで、急激に腱に強い力が加わると、断裂のリスクが高まります。特に、筋肉に強い緊張がかかった状態での急な牽引動作や、高重量の負荷が加わると危険です。

外傷

転倒や直接的な打撃が腱に加わることで損傷が起こり、断裂に至ることがあります。特に、腕を伸ばした状態で強い衝撃を受けると、腱に過大な負担がかかる可能性があります。

腱炎の既往

過去に腱炎を繰り返していると、腱の組織が傷つきやすくなり、慢性的な炎症によって脆弱化している可能性があります。炎症の放置が断裂につながることもあります。

ステロイド使用や喫煙

ステロイドの長期使用は、腱のコラーゲン生成を阻害し、脆弱化させることが知られています。また、喫煙によって腱への血流が悪化し、組織の修復が遅れるため、断裂のリスクが高まります。

上腕二頭筋腱断裂の前兆や初期症状について

上腕二頭筋腱が断裂する前には、腕の違和感や軽い痛みが現れることがあります。最初は腕を動かしたときに軽い張りを感じたり、肩や肘の前側に鈍い痛みが出ることが多いです。特に腕を持ち上げたり、物を持つときに力が入りにくくなるといった症状が現れる場合、腱に負担がかかっている可能性があります。

断裂が進行すると、腕を動かした際に「ポップ」という音が聞こえることがあり、その直後に強い痛みが走ることがよくあります。突然、腕の力が入りにくくなり、重い物を持つのが困難になることも特徴的です。さらに、腱が切れることで上腕二頭筋が肘側に寄ってしまい、力こぶの位置が通常と異なって見えることがあります。この見た目の変化は、腱断裂の代表的な兆候のひとつです。

また、持ち上げる動作や腕を回す動作が制限され、日常生活の動作に支障をきたすこともあります。特に、ドアノブを回す、ジャーの蓋を開ける、物を引き寄せるといった腕をねじる動作で痛みが強くなる場合は注意が必要です。腱が部分的に切れている場合、痛みはあるもののある程度動かせることもあり、放置すると悪化する可能性が高いため、できるだけ早く整形外科を受診することが大切です。

もし、腕の痛みや力の低下、力こぶの異常な変化、腫れや皮下出血が見られる場合は、すぐに受診しましょう。早期に診察を受けることで、適切な治療を受け、回復を早めることができます。

上腕二頭筋腱断裂の検査・診断

上腕二頭筋腱断裂の診断は、いくつかの方法を組み合わせて行われます。まず、医師が患者さんの症状や発症の経緯を詳しく聞き、どのような動作で痛みが出るのか、力の低下や腫れの有無を確認します。

視診と触診では、医師が腕の状態を直接観察し、力こぶの形が変化していないか、腫れや圧痛があるかを調べます。さらに、筋力テストを行い、通常の動作と比べてどの程度力が低下しているかを評価します。

次に、より詳しく腱の状態を調べるために画像検査が行われます。超音波検査は、簡便で手軽に実施でき、腱の断裂の有無や部分的な損傷を確認するのに適しています。一方、MRI検査は、筋肉や腱の詳細な状態を把握できるため、部分断裂と完全断裂を正確に判断するために有用です。特に、超音波検査で不明瞭な場合や、手術の必要性を検討する際にはMRIが推奨されます。

場合によっては、X線検査が併用されることもあります。X線では腱自体は映りませんが、腱の断裂による二次的な骨の異常や石灰化の有無を評価するのに役立ちます。

これらの検査を総合的に行うことで、上腕二頭筋腱がどの程度損傷しているのかを正確に診断し、治療方針を決定します。早期に適切な診断を受けることで、より効果的な治療が可能になります。

上腕二頭筋腱断裂の治療

上腕二頭筋腱断裂の治療は、患者さんの年齢や生活スタイル、断裂の程度によって異なります。保存療法と手術療法の二つの治療方法があります。

保存療法では、腕を無理に使わないようにしながら、腱の自然な回復を促します。痛みがある場合には、消炎鎮痛薬が処方され、炎症や痛みを和らげます。また、患部を適切に固定し、必要に応じてリハビリを行うことで筋力を維持し、肩や肘の可動域を確保します。軽度の断裂の場合、この方法で十分な回復が期待できます。

一方、手術療法は完全断裂の場合や、腕の機能を維持する必要がある方に適用されます。スポーツ選手や重労働を伴う職業の方には、腱を元の位置に縫合する手術が推奨されます。一般的には、腱を骨に固定する方法が取られますが、近年では小さな切開で行う低侵襲手術も増えています。手術後は約6週間の固定期間を経て、その後リハビリを行いながら徐々に可動域を広げていきます。回復期間は個人差がありますが、通常数ヶ月かかります。

手術後のリハビリも重要であり、適切なリハビリを行うことで筋力を回復させ、腕の機能を最大限に戻すことができます。治療法の選択は、患者さんのライフスタイルや希望を考慮しながら、医師と相談して決定することが大切です。

上腕二頭筋腱断裂になりやすい人・予防の方法

上腕二頭筋腱断裂は、特定の方に発生しやすい傾向があります。特に、40歳以上の男性、重い物を持つ仕事をしている方、スポーツを行っている方はリスクが高いとされています。また、喫煙やステロイドの使用経験がある場合、腱の血流が悪くなり、断裂のリスクが増すことが知られています。

予防のためには、日頃から適切なストレッチや筋力トレーニングを行い、腱に過度な負担がかからないようにすることが大切です。特に、急激な動作を避け、無理のない範囲で筋力を強化することが効果的です。また、腱炎などの異常を感じた際には、早めに医師に相談し、適切な対応を取ることが重要です。