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膝関節脱臼
岡田 智彰

監修医師
岡田 智彰(医師)

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昭和大学医学部卒業。昭和大学医学整形外科学講座入局。救急外傷からプロアスリート診療まで研鑽を積む。2020年より現職。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定整形外科指導医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

膝関節脱臼の概要

膝関節脱臼は、膝の骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)が通常の位置から外れる状態を指します。この状態は痛みを伴い、迅速な治療が必要です。膝関節は私たちが歩いたり走ったりする際に重要な役割を果たすため、脱臼がおこると日常生活に大きな影響を及ぼします。

膝関節の解剖と解剖生理

膝関節は、以下の主要な構造から成り立っています。

大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)。これらが連携して体重を支えます。これらの骨が正常な位置で適合することで、膝関節が安定します。

靭帯

膝を安定させるための主要な靱帯には前十字靱帯、後十字靱帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯があります。これらは膝が異常に動くことを抑え、関節が正常に機能するよう保ちます。靱帯が損傷すると関節が不安定になり、脱臼のリスクが高まります。

半月板

衝撃を吸収し、膝関節を安定させる役割を持つ軟骨です。内側と外側に2つあり、膝関節の滑らかな動きを支えます。半月板が損傷すると、衝撃吸収能力が低下し、膝への負担が増加します。

筋肉と腱

太ももの大腿四頭筋(だいたいしとうきん)やふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)が膝を動かす力を提供します。これらの筋肉が靱帯を補助し、膝を安定させます。筋力が不足すると、膝の安定性が損なわれる可能性があります。

膝関節は滑らかに動くように設計されており、人体で最も大きく複雑な関節の一つです。この精密な構造により、膝は体重を支える一方で広い可動域を提供しています。

膝関節脱臼の種類

膝関節脱臼にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や治療法が異なる場合があります。

前方脱臼

膝が過度に伸ばされた際に発生します。大腿骨が脛骨に対して前方に押し出されることで起こります。交通事故やスポーツ中に多く見られ、靱帯が引き伸ばされることにより損傷しやすい点が特徴です。

後方脱臼

膝に強い後方からの衝撃が加わることで発生します。交通事故でダッシュボードに膝を打ちつけた場合などが典型例です。このタイプは血管損傷を伴う可能性が高く、迅速な診断と治療が必要です。

外側脱臼

膝が外側に大きく湾曲させられた際に発生します。特にスポーツ中に多く見られます。膝外側の靱帯が過剰に伸ばされることで発生します。

内側脱臼

膝が内側に湾曲させられることで起こります。内側の支持組織が脆弱な場合に発生しやすいです。

回旋脱臼

膝がねじれの力を受けた場合に発生します。このタイプは血管や神経損傷を伴いやすいため、特に注意が必要です。

これらの脱臼は、それぞれ異なるメカニズムで発生しますが、いずれの場合も膝関節の安定性が失われ、迅速な治療が求められます。

膝関節脱臼の原因

膝関節脱臼は、通常、強い力が膝に加わることによって発生します。主な原因として以下が挙げられます。

交通事故

自動車やバイクの衝突事故では、膝に強い衝撃が加わることが多く、脱臼が発生する可能性があります。このような強い衝撃は骨や靱帯に直接的な負荷をかけるため、脱臼やその他の損傷を引き起こします。

スポーツ外傷

サッカー、ラグビー、バスケットボールなどは急な方向転換により、またスキーやスノーボードなど膝で衝撃を吸収しながら行うスポーツではバランスを崩した時(転倒を含む)に、膝に過度な負担がかかり脱臼のリスクが高まります。

転倒や転落

高い場所からの転落や階段での転倒によって膝に強い衝撃が加わります。膝が不自然な角度に曲がることで、脱臼のリスクが増大します。

膝関節は複雑な構造を持つため、大きな外力が加わると簡単に不安定になり、脱臼が起きやすくなります。

膝関節脱臼の前兆や初期症状について

膝関節脱臼は外傷であり前兆はありません。主な症状は以下の通りです。

強い痛み

膝周辺に激しい痛みを感じます。この痛みは靱帯や軟部組織の損傷によるものです。

変形

膝の形が明らかに異常に見えることがあります。これは骨が正常な位置から外れているためです。変形が見られる場合は即座に整復が必要です。

腫れ

脱臼による組織損傷で腫れが生じます。また、皮膚の下に血液が溜まっている場合にも腫れることがあります。

可動域の制限

膝を動かせなくなる、または動かすと痛む状態です。関節内での異常な動きが原因です。

しびれや感覚異常

神経が圧迫されることで、足にしびれや感覚の異常が現れることがあります。これが続く場合は神経損傷の可能性が考えられます。

これらの症状は、膝関節内の靱帯や血管、神経に損傷が加わるために発生します。特に血管や神経の損傷は、放置すると深刻な後遺症を引き起こす可能性があります。

診療科について

膝関節脱臼を起こした場合は、おもに整形外科での対応が必要になります。

膝関節脱臼の検査・診断

膝関節脱臼の診断には以下の手法が用いられます。

視診と触診

膝の変形や腫れ、熱感を確認します。触診では骨や靱帯の異常を探ります。視診は脱臼の程度を把握するための基本的な手法です。

X線検査

骨の位置や骨折の有無を確認するために行います。特に前方脱臼や後方脱臼の識別に役立ちます。骨折の有無を特定することで、治療方針を明確にします。

MRI検査

靱帯や軟部組織の損傷を詳細に確認します。MRIは半月板や靱帯損傷の有無を判断するのに不可欠です。これは、関節内の詳細な情報を提供します。

血流や神経の評価

血管損傷を確認するために超音波検査や造影CTを行います。また、足の感覚や運動機能を調べることで神経の損傷を評価します。 膝関節の正確な損傷範囲を特定し、適切な治療方針を決定するために役立ちます。

膝関節脱臼の治療

膝関節脱臼の治療は、損傷の程度や種類によって異なります。治療の目標は、膝の安定性を取り戻し、日常生活に復帰することです。以下は主な治療法です。

徒手整復

医師が手で骨を元の位置に戻します。この方法は迅速に行われる必要があります。遅れると血流や神経の損傷が悪化する可能性があります。

固定

整復後、膝を安定させるためにギプスや装具を装着します。大抵の脱臼は靭帯損傷が伴うため、固定は靭帯修復を促進させ再発を防ぐために重要です。

手術

靱帯や血管が損傷している場合には手術が必要です。特に後方脱臼では動脈損傷が確認された場合には手術が必須です。

リハビリテーション

筋力と柔軟性を回復させるための物理療法が行われます。医師や理学療法士の指導のもと、段階的に運動を再開します。適切なリハビリテーションは再発予防と機能回復に重要です。

膝関節脱臼になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

高接触スポーツを行う人

サッカー・ラグビー・格闘技など接触する頻度の高い選手は、膝に衝撃が頻繁に加わりまたその衝撃も大きいため、脱臼を起こしやすいと言われています。

膝のけがをしたことがある人

靱帯損傷などの既往がある場合は、膝の安定性が低下している可能性があります。

力や柔軟性が不足している人

膝を支える筋肉が弱い場合、衝撃に耐えられない可能性があります。

予防の方法

筋力トレーニング

大腿四頭筋やハムストリングスを鍛えることで膝の安定性を向上させます。筋力があることで脱臼のリスクを低下させることができるといわれています。

柔軟性の向上

ストレッチを行い、関節の柔軟性を高めます。十分な柔軟性があることで、膝にひねりの力が加わった際にも、靭帯などの破綻が生じにくくなります。

適切な装備

スポーツ中に膝サポーターを着用することで、関節が直接受ける衝撃を減少させ物理的に保護します。

正しい運動フォーム

スポーツやトレーニングの際に正しいフォームを心掛けることは、過度なストレスを軽減し怪我の予防に寄与します。

これらの予防法は、膝関節にかかる負担を減らし、脱臼のリスクを抑えるために効果的です。

関連する病気

  • 膝関節靭帯損傷
  • 膝関節骨折
  • 血管損傷
  • 神経損傷

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