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ボクサー骨折
岡田 智彰

監修医師
岡田 智彰(医師)

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昭和大学医学部卒業。昭和大学医学整形外科学講座入局。救急外傷からプロアスリート診療まで研鑽を積む。2020年より現職。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定整形外科指導医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

ボクサー骨折の概要

ボクサー骨折とは、中手骨(ちゅうしゅこつ)という手の甲に隠れている指の骨の骨折を指します。この骨折は、壁や人の顔など硬いものを拳で強く殴った際に起こりやすいため、「ボクサー骨折」と呼ばれますが、ボクシングや格闘技をしていなくても発生する可能性があります。 ボクサー骨折は手の骨折の中でも特に多く、中手骨骨折の約20〜25%を占めるとされます。

中手骨は5本の指ごとに、指の根元から手首にかけて手の甲の中にあります。ボクサー骨折は指の第3関節(MP関節)近傍の中手骨頚部の骨折を指します。第4・5中手骨で生じやすいですが、ハードパンチャーでは第2・3中手骨を骨折しやすいといわれています。 このうち、第5中手骨は手の構造上、とくに衝撃を受けやすい部位です。拳を固めた状態で硬いものを殴ると、外力は第5中手骨に集中しやすく、骨がくびれた形状になっている頸部が折れやすくなります。

痛みや腫れなどの症状が現れますが、適切な治療を行えば、多くの場合は良好に回復します。ただし、放置すると変形や機能障害などの合併症が起こる可能性があるため、早期診断と治療が重要です。 また、ボクシングのように中手骨にストレスがかかる競技では一度骨折を起こすと再骨折しやすくなります。

ボクサー骨折の原因

ボクサー骨折は、上記のように手に強い衝撃が加わったときに発生する外傷です。代表的な原因は以下のとおりです。

スポーツ中の事故

ボクシングやその他の格闘技、ラグビーなどのスポーツ中に衝突や転倒による衝撃を受けて発生します。パンチの上手な選手は手首を安定させて突くことができるので、第2・3中手骨骨折が多いといわれています。

けんかや硬い物へのパンチ

けんかをしたり、壁や家具などの硬い物を殴り発生することが最も多いです。正しいフォームでパンチを出せない者は、殴った際の手首が不安定なためエネルギーが外側に逃げてしまい、第4・5中手骨骨折が多く生じるといわれています。

転倒時の衝撃

転倒した際に拳をついてしまい骨折することもあります。特に高齢者は骨粗鬆症などの要因により骨折しやすいため、手をついて倒れた場合に中手骨を骨折する可能性があります。

このような原因を理解し、予防策を講じることで骨折のリスクを軽減することができます。

ボクサー骨折の前兆や初期症状について

ボクサー骨折では多くの場合、以下のような症状が現れます。 これらに該当する症状を伴う手掌の外傷が起きたら、整形外科を受診しましょう。ただし、ほかにも外傷を合併して重症であれば救急搬送を検討しましょう。

痛み 骨折した直後から激しい痛みを感じます。特に拳を握ったり、折れている指を動かそうとすると痛みが強くなります。 腫れ 骨折部位やその周辺が腫れます。腫れは怪我の直後から急速に進むことが多いです。 あざや内出血 皮下に出血が広がり、患部やその周辺が青紫色になります。 変形 拳を握ったときに骨折部の第3関節(MP関節)の付け根が凹んで見えることがあります。また、手の形が左右で非対称になることもあります。 動きの制限 骨折した指の動かしにくさや、拳をしっかり握れないことによる握力の低下などを感じることがあります。 しびれや違和感 腫れによって神経が圧迫されると、指先にしびれやピリピリした感覚が現れることもあります。

これらの症状を見逃さず、早めに医療機関を受診することが大切です。

ボクサー骨折の検査・診断

ボクサー骨折の診断は、以下の流れで行われます。

1.問診

怪我の状況や症状について詳しく質問されます。また、過去の手や指の怪我についても確認されることがあります。

2.視診と触診

医師が腫れや変形の有無を確認し、痛みの程度や可動域制限を診察します。また皮膚が傷ついている場合、骨髄が外界と交通してしまう開放骨折の可能性があるため丁寧に確認する必要があります。

3.画像検査

レントゲン検査 骨折の有無や位置、ズレ(転位)の程度を確認します。ボクサー骨折はズレの程度によって治療法が異なるので、側面撮影したレントゲンで変形した角度を正確に調べることが重要です。 CT検査 複雑な骨折の場合には、より詳しい画像検査が必要になることがあります。

4.合併症の確認

神経や血管への損傷の有無も評価されます。

ボクサー骨折の治療

ボクサー骨折の治療は、骨折の程度や患者さんの状態によって異なります。

保存療法(手術をしない治療)

骨折部位の転位角が小さい場合、徒手整復を行ったのちギプス固定します。

整復

麻酔をした後、レントゲン透視を見ながら医師が手で直接骨折部位を正常位置に戻します。

冷却と痛み止め

腫れや痛みを軽減するために、氷を使った冷却鎮痛薬(イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)が処方されます。

安静と固定

骨折部を安静に保つために、ギプスや副木(そえぎ)を用いて固定します。このときナックルキャストと呼ばれる固定方法で早期から積極的な指の屈伸運動を行うリハビリテーション(石黒法)を実施すると、腱との癒着を防止できます。

リハビリテーション

通常、骨癒合まで4〜6週間かかります。その後は、関節の可動域を回復させるために作業療法が重要です。具体的には指の屈伸運動握力トレーニングを行って機能回復を促進します。

経過観察

治療経過を確認しながら、骨が適切に治癒しているかをレントゲンで定期的に検査します。

手術療法

骨折がずれている場合や複雑な骨折では、手術が必要になることがあります。

観血的整復固定術(かんけつてきせいふくこていじゅつ)

皮膚を貫き骨に開けた小さな穴から骨内に鋼線を刺入する方法が一般的ですが、切開して金属プレートとネジで固定する方法を行うこともあります。

術後リハビリ

手術後は定期的なフォローアップが重要です。レントゲン検査で骨癒合の進行状況を確認しながら、必要に応じてリハビリプログラムを調整します。また、術後早期から可動域訓練を開始することで、拘縮予防につながります。

ボクサー骨折になりやすい人・予防の方法

ボクシングを含む格闘技の競技者はボクサー骨折の高リスクグループです。 ボクサー骨折を予防するためには以下のような項目に注意しましょう。

正しい打撃技術を習得する 格闘技やボクシングを行う場合は、専門の指導者から正しいフォームを学びましょう。 保護具を使用する 練習時はバンテージやグローブを確実に装着し、手を保護しましょう。

しかし実際は、けんか、怒りや酔いに任せて壁を殴る、これらを理由にボクサー骨折を受傷する患者さんが圧倒的多数です。特に若年者に多い傾向が見られます。 ストレス管理やメンタルトレーニングが最も重要な予防策といえるのではないでしょうか。

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