変形性肩関節症
岡田 智彰

監修医師
岡田 智彰(医師)

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昭和大学医学部卒業。昭和大学医学整形外科学講座入局。救急外傷からプロアスリート診療まで研鑽を積む。2020年より現職。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定整形外科指導医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

変形性肩関節症の概要

変形性関節症とは、さまざまな原因により関節が少しずつ変形し、関節の痛みや腫れをきたしていく疾患です。なお、関節の変形は、加齢による変化に加えて、運動・ケガ・体重などによる機械的刺激や、感染症による炎症の刺激などが加わることで進行します。変形した関節は自然にもとの状態には回復しないので、早めに対策が必要です。

変形性関節症のひとつである変形性肩関節症は、肩関節(肩甲上腕関節)の軟骨が変性したり、すり減ったりすることで起こります。肩関節は肩甲骨の関節窩と上腕骨頭がつくる球関節のことで、人体で最も可動域が大きい関節です。

変形性肩関節症を発症すると、腫れや痛みを引き起こし、時には2つの骨の端がこすれ合って骨棘(骨の突出)ができることもあります。

変形性肩関節症の原因

変形性肩関節症は一次性と二次性に分けられます。それぞれ以下のような違いがあります。

一次性変形性肩関節症 二次性変形性肩関節症
原因 加齢
遺伝
肩関節を過度に使用
肩関節の構造的問題など
肩関節の外傷(骨折や脱臼など)
肩腱板断裂
上腕骨頭壊死
関節リウマチ
上腕骨近位端骨折など

一次性変形性肩関節症明らかな原因が不明な病態です。変形性肩関節症は中高年に多く見られるのが特徴的で、肩関節の軟骨組織のすり減りや損傷が要因と考えられます。

二次性変形性肩関節症別の疾患に引き続いて生じる病態です。肩の骨折や脱臼などの怪我や外傷は、変形性関節症の危険因子となります。関節面の破壊の有無にかかわらず、関節の損傷はしばしば進行性の変形性関節症につながり、外傷後関節炎と呼ばれます。肩の外傷後関節炎はどのような年齢でも発症する可能性があり、どのような種類の急性関節炎でも発症する可能性があります。また、変形性関節症をより早く発症させる原因となる肩関節の状態は表内にもいくつかあります。

変形性肩関節症の前兆や初期症状について

変形性肩関節症の前兆や症状は次の通りです。

  • 肩関節の疼痛
  • 肩関節周囲の腫れ
  • 肩関節の可動域制限
  • 肩関節の変形 など

変形性肩関節症は時間とともに進行し、関節に負担がかかると軟骨がすり減ることにより、軟骨下の骨組織が破壊され、関節の変形が進行します。

また、変形性肩関節症において痛みはほぼ必発の症状と言えます。肩関節炎を有すると肩の動作に伴って痛みを自覚する可能性が少なくないでしょう。寝ている間にも痛みを感じることがあります。

軟骨がすり減りむき出しになった骨が擦れあうため、滑らかな関節運動が不能となり可動域制限や轢音(カチカチ、ギシギシという音)を自覚するようになります。

変形性肩関節症の症状が疑われる場合には、症状が悪化する前に整形外科を受診しましょう。

変形性肩関節症の検査・診断

変形性肩関節症と診断のために行われる検査では、X線(レントゲン)検査、CT検査、MRI検査、血液検査を行います。

変形性肩関節症の検査には、主にX線検査を行います。変形性肩関節症であれば、X線検査で上腕骨頭や肩甲骨関節窩の変形、関節裂隙(レントゲン画像では軟骨が写らないため、関節軟骨は上腕骨頭と関節窩との隙間としてみえる)の狭小化、骨棘の有無を確認します。さらに詳細な診断をするうえで、MRI検査CT検査を行うこともあります。

血液検査は関節リウマチの有無などを確認し、ほかの疾患を除外するために行います。

病歴を聴取し、身体診察を行い痛み、圧痛、運動障害を評価します。さらに、周囲の組織に他の徴候がないかを調べ、変形性肩関節症と診断します。

変形性肩関節症と以下の疾患症状が似ているため判別が必要です。

  • 肩関節周囲炎(五十肩)
  • 関節リウマチ
  • 上腕骨頭壊死など

変形性肩関節症が疑われる場合には、早期から適切な治療を行うことで、症状の悪化を防ぐことも可能なので、早めに整形外科医による診察を受けましょう。

変形性肩関節症の治療

変形性肩関節症の治療には、「保存療法」と「外科手術」に大きく分けられます。それぞれ解説します。

保存療法

変形性肩関節症では症状に合わせて、以下のような保存療法を行う場合があります。

  • 肩関節の安静
  • 非ステロイド性抗炎症薬の内服
  • 消炎鎮痛剤やヒアルロン酸の関節内注射
  • 肩関節の可動域訓練(リハビリテーション)

変形性肩関節症と診断された場合には、肩関節を安静にしましょう。日常生活において、工夫して痛みを感じない腕の動かし方をしなければならない可能性もあります。
例えば、頭からかぶって着る衣服の代わりに、前でジッパーを上げる衣服を着ていただく場合などです。

肩関節に疼痛の訴えがある場合には、炎症や疼痛を抑える非ステロイド性抗炎症薬を使用する可能性があります。
関節内注射は関節内部の炎症を直接癒すことで痛みの軽減に効果的です。
また、肩関節の可動域訓練を行うことも重要です。可動域訓練は柔軟性を高め生活の質を維持するために重要です。

外科手術

変形性肩関節症が悪化してしまい、保存療法による治療が困難な場合には、外科手術を選択する場合があります。

しかし、変形性肩関節症の外科手術にもほかの手術と同様、感染症や麻酔の問題など、一定のリスクや合併症の可能性があります。

変形性肩関節症の外科手術には以下のようなものがあります。

  • 関節鏡視下滑膜切除術
  • 人工骨頭置換術(上腕骨頭の置換術):上腕関節の関節炎を治療するために行われます。
  • 人工肩関節置換術
  • リバース型人工肩関節置換術

関節鏡で炎症した関節内部の軟部組織を郭清(きれいに掃除)します。軟骨な骨の損傷は改善しませんが、痛みを軽減できる可能性があります。

人工骨頭置換術(上腕骨頭の置換術)は上腕関節の関節炎を治療するために行われます。骨折により上腕骨頭が粉砕している場合、肩甲骨関節窩の軟骨の状態が良好な場合などに、人工骨頭置換術が選択されることがあります。

人工肩関節置換術は肩関節の損傷や変形による痛みや機能障害を改善するために、肩関節を人工の関節に置き換える手術です。腱板という腕を挙げるためのインナーマッスルが残っている中年者などに適用されることがあります。

リバース型人工肩関節置換術は腱板機能が破綻している場合にも使用できることが最大の特徴となります。修復することの出来ない腱板断裂、腱板断裂に伴う変形性関節症、腱板機能不全を伴う関節リウマチ肩、粉砕の強い骨折などに適応がある手術法です。

変形性肩関節症になりやすい人・予防の方法

変形性肩関節症になりやすい人の特徴は次の通りです。

  • スポーツや職業などで肩を酷使する人
  • 肩の脱臼や骨折、腱板断裂などの外傷の既往がある人
  • 関節リウマチや上腕骨頭壊死などの既往歴がある人など

肩に負担がかかるスポーツには、野球、テニス、水泳、ゴルフなどがあり、肩に負担がかかる職業には、建設業、農業、介護職などがあります。

肩の外傷や関節リウマチ、上腕骨頭壊死などの既往は二次性変形性肩関節症の原因に挙げられています。既往が誘因となってしまい、外傷性関節炎へと悪化する可能性があります。

変形性肩関節症の症状悪化予防のための方法は以下の通りです。

  • 肩関節への負担を減らす
  • 肩関節の可動域を維持するためのストレッチ
  • 肩周囲の筋力トレーニング

変形性肩関節症になりやすい人は、肩関節への負担を減らしましょう。重い荷物を持つときには、肩への過度な負担を避けるために、肩だけでなく身体全体を使い持つようにしてください。

また、ストレッチや筋力トレーニングを行うことも効果的です。肩関節の可動域を維持するために肩関節をやわらかくしたり、筋肉量を増やす必要があります。

早期の対応が変形性肩関節症の進行を防ぐ鍵となるため、肩に違和感や不調を感じた場合には整形外科を受診してください。


関連する病気

  • 肩関節周囲炎
  • 肩腱板損傷

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